水族館であいましょう



 ――……そこで、目が覚めた。

 時刻は日の出前。
 まだ外は薄暗く、締め切ったカーテンの向こうからは、鳥の声すら聞こえない。
 ほんの一瞬、胸が詰まるような懐かしい匂いがした。が、なんの匂いだったかは思い出せなかった。
 ぽすりとベッドに逆戻り、ゆっくりと息を吐いた。
 夢を見ていた。にしては酷くハッキリと内容を思い出せる。

 退廃的で、近未来的な縦型の都市。
 不気味で美しい廃墟。
 そこにいた生き物のようなバケモノたち。
 悠々と漂う綺麗な水生生物。
 暖かな手の体温。

 それなのに、最後の最後がわからない。
 あの二人が選びとった決断と選択が、ぽっかりと抜け落ちたように思い出せないのだ。

 不意に枕元のスマホが震え、悠生は体を起こす。
 液晶画面には、涼太からの連絡が表示されていた。

 『悠生、起きてるか?』

 たった一言だけの連絡に、悠生は迷うことなく通話ボタンを押す。数コールの後に、寝起き特有のざらついた声が耳に届いた。

『わるい。起こしたか?』

「ううん、僕も起きていましたから 」

『……そうかよ 』

「どうかしましたか?」

 そう尋ねても、スマホの向こうの涼太はなにも言わない。布の擦れる音と、少し悩むように言い淀む声だけが聞こえてきた。

「さっきね、不思議な夢をみたんです。廃墟の水族館を涼太さんと調べるって夢 」

『……奇遇だな 』

 まだ半分寝ているような声に、暖かいものが胸に拡がった気がした。
 きっと、涼太も同じ夢を見ていたんだろう。
 それで心配して、連絡をしてくれたのかもしれない。

「ねぇ、涼太さん 」

『うん?』

「今日お休みですよね?もしよかったら、水族館に行きませんか?前にできたところです 」

 白い四角形を組み合わせた形の建物で、上から下に降りていく形式の水族館。下層に行くほどに深海に近づいていく、という展示方をしているらしい。
 できてからしばらく経つから、人も少しは減っただろう。なにより、今日は平日だ。

『あー……わかった 』

「じゃあ、11時くらいに水族館前で待ち合わせましょう 」

『ん、11時な 』

 11時集合なら、もう一眠りは出来るかもしれない。なんて思いながら、悠生は毛布をかぶり直す。そのまま寝てしまおうかと目を閉じようとした。

『悠生 』

「はい 」

『……またあとで 』

「……はい、またあとで 」

 そう言って通話は切れた。
 悠生は今度こそ、ゆっくりと目を閉じた。


 洗いたての朝日が昇る。
 街全体が青く染まり、世界が海の中にいるように、遠く遠く、どこまでも澄み渡っていた。