『おはよう 』
――……おはようございます
『自分の名前は言えるかい?』
――登録名は佐野涼太となっています
『うん、問題ないね 』
数秒ほど無音
『データベースの状況は?』
――約30%程復元が完了しました
『それはよかった。50になったら再起動をかけてくれるかい?』
――50%の復元完了後、再起動を開始します
『うん、リセットはこれでいいかな。城戸の方も再起動が終わったし、どうにかなるだろう 』
………………
『今回の実験に関してだが、難儀している。佐野が思うように動いてくれない。前回の時もそうだったが、なかなか水族館に向かわない 』
『まともに探索してもらわないと困るから、少し真面目な性格に設定したからだろうか 』
『なにか対策を考えないと。今日で再起動は5回目になる 』
『戦国大名をベースにしたアバターの時にかなり予算を食われたからな……再起動も、あと3回が限界だろう 』
………………
『進展があった。佐野に罪悪感を持たせ、その原因となった人間が水族館に向かうと手を貸すようだ 』
『だが、相手が成人していると最深部までは向かってくれない。未成年者が適切なのか……?』
『……たしか原田左之助は未成年者である楠小十郎の暗殺に携わっていた 』
『だが……そうだね、ふむ。楠小十郎も少し弄るか。確か城戸と同じ時にバグが起きたやつの中で、まだ使えそうなアバターが残ってたはずだ。予算もないし再利用してみよう 』
『上手くいくといいんだけど…… 』
…………………………
『今の所順だ。もう地下四階まで来ている 』
『上手く行けば………… 』
………………………………
――やあ、佐野涼太くん
――よくここまでたどり着いたね
――私は……ドクターと呼ばれている者だよ
――ここまでのカセットテープの中身は全て聞いてくれたかな?聞いてくれたものとして話させてもらうね
――ご察しの通り、君たちの世界は本物ではない
――データベース、とかアバター、といった言葉を使っていたから混乱するだろうが、そこはべつに電脳世界ではない
――君たちの体は確かにタンパク質の塊だから、安心してほしい
――さて、本題といこう
――ここまで辿り着き、偽物の世界だと知った君に、佐野涼太くんに答えてほしい
君は、この世界が偽物だとわかりながら、いつか誰かの気まぐれ、ないし観察終了の時点で消えてなくなってしまうであろう世界であることを理解した上で、この世界で生きていけるかい?
原田左之助の記憶が植え付けられ、ツギハギの偽物だと理解した上で、それでも尚歩いて行けるかい?
君はその世界を、楽園と呼んでくれるかい?
――答えを急かしたりはしない
――どうかゆっくりと考えて欲しい
――もし、この世界を受け入れてくれるなら、歓迎しよう
――だが、拒絶するなら、そこにあるコンピュータの下の台にある引き出しを開けてほしい
――中にあるのは、君を消滅させるための錠剤だ
――どうするのかは、君が選んで欲しい
――願うなら、君にとって納得のいく答えを聞きたいものだよ


