マジに怖い。え、これ、ぶん殴られる五秒前とかじゃない? 俺が大丈夫か?
物理的恐怖に怯え始めた俺の耳に、番長の低くて小さな声が聞こえてきた。
「……出ていくのか?」
「ん?」
「……お前も出ていくんだろ?」
「いや、出ていかんよ」
「なに?」
訳のわからん番長の言いがかりに、俺は即座に否定する。
「いやいやいや、出ていかないって!」
「……あんなのがいる所に寝られないだろ? お前の家、東京だろ? 通学時間はかかるが、通えない距離じゃないだろ?」
「……帰る家なんてねぇよ。だから、わざわざ寮があるところ選んだんだよ」
「……そうか、悪かったな」
番長は俺の胸倉を放してくれ、ちらっとベッドを振り返ったが、すぐに俺のほうに顔を戻した。
「他の寮生はアレを見て、みんな出て行った。俺は……帰る家がない。お前と一緒でな」
番長は唇の端を上げ、ニヒルに笑う。
おう、出会って初めて見たな、番長の笑み。笑い方も高校生らしからぬクールさ。
「苦肉の策で、三階に移動して、少しでもアレから離れようとしたんだが、無意味だった」
番長はまた暗い顔になる。
俺はお通夜モードの番長に、疑問をぶつける。
「アレが現れたのって、最近だよな? 前からいた地縛霊なら、もっと前から騒ぎになっているだろうし。最初にアレを見た人って?」
「アレが最初に現れたのは、一か月くらい前だ。初めて見たのは……たぶん俺だ。ちょうどこの部屋で夜、金縛りにあって、ベッド下からアレが這い出してきて……。だが、俺は誰にもそのことを言わなかった」
「どうして?」
「誰も信じないだろうと思ったんだ。怖がる奴も出るだろうが、所詮、暇つぶしの怖い話程度で終わりだ。あとは、俺をからかうネタができたって、喜ぶぐらいだろ」
「んん、否定できない」
俺にも心当たりがある。
「最初の数日は俺の所にだけ出てたみたいだが、そのうち他の奴らの部屋にも出るようになって、みんな、どんどん寮から逃げ出していった。夏休みだから元々帰省予定の奴らもいたんだが、もうここには帰ってこないだろ」
「ということは、アレを寮に持ち込んだのは番長だね。心霊スポットとか行った?」
「あんなもん持ち込んだ記憶はないし、心霊スポットにも行くわけがない」
「心当たりがなくても、道端で勝手に運命を感じてついてきちゃう、電波でストーカーな霊もいるしな」
「防ぎようがないだろ、それ」
「世の中、理不尽なことだらけさ」
俺は溜息を吐き、まだ顔色の悪い番長に微笑む。
「まっ、もう大丈夫から、アレのことは忘れたほうがいいよ」
「大丈夫って、何が大丈夫なんだ?」
「アレはもう二度とこの寮には入ってこないよ」
「だから、なぜだ?」
「だって、俺、幽霊に嫌われる体質なんだよね」
第二話 俺はお守りじゃない
番長はアレがもう寮に出現するとこはないと、俺が説明しても半信半疑だった。
物理的恐怖に怯え始めた俺の耳に、番長の低くて小さな声が聞こえてきた。
「……出ていくのか?」
「ん?」
「……お前も出ていくんだろ?」
「いや、出ていかんよ」
「なに?」
訳のわからん番長の言いがかりに、俺は即座に否定する。
「いやいやいや、出ていかないって!」
「……あんなのがいる所に寝られないだろ? お前の家、東京だろ? 通学時間はかかるが、通えない距離じゃないだろ?」
「……帰る家なんてねぇよ。だから、わざわざ寮があるところ選んだんだよ」
「……そうか、悪かったな」
番長は俺の胸倉を放してくれ、ちらっとベッドを振り返ったが、すぐに俺のほうに顔を戻した。
「他の寮生はアレを見て、みんな出て行った。俺は……帰る家がない。お前と一緒でな」
番長は唇の端を上げ、ニヒルに笑う。
おう、出会って初めて見たな、番長の笑み。笑い方も高校生らしからぬクールさ。
「苦肉の策で、三階に移動して、少しでもアレから離れようとしたんだが、無意味だった」
番長はまた暗い顔になる。
俺はお通夜モードの番長に、疑問をぶつける。
「アレが現れたのって、最近だよな? 前からいた地縛霊なら、もっと前から騒ぎになっているだろうし。最初にアレを見た人って?」
「アレが最初に現れたのは、一か月くらい前だ。初めて見たのは……たぶん俺だ。ちょうどこの部屋で夜、金縛りにあって、ベッド下からアレが這い出してきて……。だが、俺は誰にもそのことを言わなかった」
「どうして?」
「誰も信じないだろうと思ったんだ。怖がる奴も出るだろうが、所詮、暇つぶしの怖い話程度で終わりだ。あとは、俺をからかうネタができたって、喜ぶぐらいだろ」
「んん、否定できない」
俺にも心当たりがある。
「最初の数日は俺の所にだけ出てたみたいだが、そのうち他の奴らの部屋にも出るようになって、みんな、どんどん寮から逃げ出していった。夏休みだから元々帰省予定の奴らもいたんだが、もうここには帰ってこないだろ」
「ということは、アレを寮に持ち込んだのは番長だね。心霊スポットとか行った?」
「あんなもん持ち込んだ記憶はないし、心霊スポットにも行くわけがない」
「心当たりがなくても、道端で勝手に運命を感じてついてきちゃう、電波でストーカーな霊もいるしな」
「防ぎようがないだろ、それ」
「世の中、理不尽なことだらけさ」
俺は溜息を吐き、まだ顔色の悪い番長に微笑む。
「まっ、もう大丈夫から、アレのことは忘れたほうがいいよ」
「大丈夫って、何が大丈夫なんだ?」
「アレはもう二度とこの寮には入ってこないよ」
「だから、なぜだ?」
「だって、俺、幽霊に嫌われる体質なんだよね」
第二話 俺はお守りじゃない
番長はアレがもう寮に出現するとこはないと、俺が説明しても半信半疑だった。
