「俺のそばにいろ! 俺から離れるな!」
転校して3日目、男前の番長からそう宣言された俺は、可愛い女の子との甘酸っぱい青春が走り去っていくのを感じたのだった。
冒頭のこれだけだと意味がわからないだろう?
安心してくれ。俺もわからん。
順を追って説明すると、俺は3日前に埼玉にある寮付きの高校へと転校した。
なぜここにしたかというと、他の全寮制の高校と違い、ここは希望制だ。寮生は3学年あわせても10名だけ。本来は二人部屋だったらしいが、今は一人一部屋だと聞いた。
この小規模さが、人間にちょこっとうんざりしていた俺のハートを掴んだのだ。
編入試験も合格し、夏休み初日に寮へ引っ越してきたのだ。
寮は学校のすぐ裏手にあり、柳に囲われた古い木造二階建ての建物。入口は両開きの黒い扉で、塗り替えたばかりらしく、異様な存在感を出している。
その黒い扉に溶け組むように立つ黒い学ランの男が、冒頭に出てきた番長くんである。
「……神取仁か?」
見た目どおりのドスの効いた声。俺はいきなりぶん殴られたらどうしようと心配しつつ、頷いた。
「えっと……はじめして! 神取仁です! 9月から転校の高校一年生です! 」
「おぅ。聞いている。案内する」
番長はそう言うと、さっさと寮の中に入ろうとする。
「え、あの、ミクさんという寮母さんが出迎えてくれるって話だったんですが?」
「アァ?」
「ひぃ!」
振り返った番長の顔と声の怖いこと、怖いこと。
昔の劇画漫画張りに目力が凄いから、眉間に皺を寄せられると、どこぞの後ろに立ってはいけないスナイパーのよう。
「……誰が寮母だと言った?」
「あ~……」
記憶を掘り起こす。
確かあの人は……。
「……君の事は寮の管理人に任せたよ。ミクさんはとても若いけど、見た目に似合わずしっかりした人だから、困った時は相談したら良いよ……って」
「はぁ……自己紹介がまだだったな。俺の名前は、三久源治郎。お前と同じ高校一年生だ」
「……寮母……さん。俺の癒し系姉さん女房型寮母さんは……?」
番長は憐れみのこもった視線を俺に向ける。
「そんなもんはいねぇ。今、この寮に住んでいるのは俺だけだ。ああ、今日からお前も住むんだよな。お前が管理人をやってくれても構わないが……」
「寮母さん……俺の癒し系寮母さんがぁ……! 劇画漫画な寮母さんにっ!」
「てめえ! ふざけんなっ! 誰が劇画漫画な寮母だっ!」
俺の絶望の叫びと番長の怒号が飛び交う中、俺の甘酸っぱい青春は、初日からどんどん狂っていくことになる。
そう、俺は番長の重大な発言をスルーしていた。
俺が一ヶ月前に聞いた事前説明では、寮生は10名。残り9名はこの一ヶ月の間に、どうして出ていったのか?
入口で一悶着あったが、俺は番長に首根っこを掴まれ、ずるずる寮の中に引きずり込まれた。
外観は古い二階建ての木造建物だったが、中に入ってみると、
「おお……外観通りのボロさ! 空気も……うん! じめっとひんやり黴臭いというか、ちょっぴり酸っぱい匂いも想像通り!」
俺は思わず感嘆の声を上げる。
「うるせえ! 嫌なら出てけっ!」
「あっ、ちょ、待って待って!」
俺の首根っこを捕まえたままだった番長は、そのまま外に放り出そうとする。
俺は全身を使って踏ん張るが、番長は片腕だけで引きずっていく。
なにっ? この圧倒的な力の差!
「番長! 趣味はキントレだろ? 脱いだら凄いんです系だろ! まあ、脱ぐ前から凄いんです系だけど!」
「誰が番長だ! 勝手にダサいあだ名をつけんな! ……よし、親御さんには俺から説明してやる。携帯出せ」
「マジにやめて下さい! あ、よく見たら、この広い玄関すごくいい! 何かあっても、棺桶の出し入れがスムーズそう!」
「お前の端々に織り込まれる気色悪い発言は、どうにかならねえのか……。もう、いい……どうせ、すぐ逃げるだろ」
「え?」
「いや、何でもない。まずは、一階の説明をする」
「……よろしくお願いしま~す!」
俺の元気で良い子な返事に安心したのか、番長は俺から手を離し、ようやく寮の中に入っていく。
ちなみに、寮は土足禁止で、室内履き持参。それは事前説明で聞いていたが、スリッパ禁止は聞いてない。
番長曰く、スリッパは階段で転びやすいからだそうだ。番長独自の規則かも。
あと、番長が小声で言った言葉はバッチリ聞こえていたりする。どうせすぐ逃げるなんて、どこぞのホラーによくあるセリフじゃないですかぁ~嫌だなぁ。本当なら、ここでしつこく聞き返してやっても良かったが、携帯強奪されて、実家に電話されたら笑えないので、聞こえなかった振りをした。あの腕力……反則。
寮はそれほど広くない。玄関入って中央に階段があり、奥に共同風呂、右側に台所とリビング。あと、左側に共同トイレと畳六畳ほどの小部屋が一つ。昔はここに住み込みの寮母さんが住んでいたらしい。今は物置と化している。
二階と三階にそれぞれ5部屋ずつ。寮生が多いときは、二段ベッドを二台置き、四人部屋。酷いときは、二段ベッドの間に布団を敷いて、五人部屋にしたこともあったらしい。……その五人目の寮費が気になるところ。これでベッド組と同じだったらぐれるぞ。
今は良い(?)時代で、一人一部屋の贅沢使い。しかも、今は二人だから、三階は番長、二階に俺らしい。
すごいよね! 一部屋どころか1フロアー独占!
フフ……訳アリすぎんだろ!
「……神取、大丈夫か? 俺の話、聞こえてんのか?」
「え? ああ、大丈夫、問題ない」
「そうか、階段の手すりに向かって、ぶつぶつ言っているから。問題ないならいいが。二階は五部屋で、全て空室だ」
番長と一緒に二階に上がる。二階は左右に二部屋ずつに、階段を上がった正面に一部屋。
「この正面の部屋が、他の二部屋より少し広い造りになっているが……」
「じゃあ、正面の部屋一択で!」
部屋は広いほうがいい。俺の即答に、番長は渋い顔をした。
「……正面の部屋は、階段の音や一階の物音がうるさいかもしれん」
「大丈夫。問題ない」
「……冬は玄関からの冷たい風で、他の部屋より寒いかもし……」
「大丈夫、問題ないっていうか、めっちゃ反対するな! 事故物件かよ!」
「うっ!」
「え? マジ?」
あからさまに顔が青ざめる番長。しかし、すぐに無表情になり、
「いや、何もない。前に住んでいたのは俺だ」
「……なんで部屋変えたん?」
「……二階より三階が静かだからな」
「ふ~ん」
「……お前も三階がいいなら、三階でもいいが」
「ん、二階でいいや。じゃあ、正面のこの部屋、もらうよ」
俺は笑顔でそう言って、何か言いたそうな番長を残し、部屋に入っていった。
部屋の中は正面に窓、右端にパイプベッド。左に勉強机と三段のアクリルの衣装ケース。
勉強机や衣装ケースには傷や汚れがあり、お古だとわかる。代々使っていたものか、番長のおさがりなのか。
とりあえず、ベッドの下を覗く込む。別に番長の大人な本の置き土産があるとは思ってない。本当に。
一応、ホラー映画なんかで定番のお札を確認したのだが……、
「あ」
「ひぃ!」
俺の目が全てをとらえる前に、長い黒髪のかたまりが、しゅるんと悲鳴と一緒にドアから廊下に飛び出し、
「おわっ!」
外の廊下から、野太い叫び声。
あ、番長ってば、ばったり会っちゃったな。まだ廊下にいたんだ。
だだだだだ
慌ただしい足音が近づいてきて、
バンッ!
「……!」
番長が青い顔で飛び込んできて、急いでドアを閉めた。
「……」
「番長、大丈夫?」
「……」
番長は無言で俺のベッドに座り込む。両手を顔の前に組み、考え込むポーズ。
これはダメそうだ。
俺は仕方なく、勉強机のほうの椅子に腰かける。
番長が落ち着くまで待つことにしたのだが、
暇つぶしにじっくり番長を眺める。
番長の背丈は俺より一つ分位高いから、大体180センチ越えだろう。学ラン越しでもわかるガッチリ体形で、顔は彫りが深い。眉が太くてきりっとした目元で、昔のアメリカ映画に出ていたインディアンを思い出す。
番長はしばらく石像と化していたが、やっと落ち着いたらしい。
「……いきなりすまねぇ」
「ゴキブリでも出たの?」
俺は白々しく訊く。
「ちげぇ……。お前、何か見たか?」
俺は見たものを正直に答えるか一瞬迷ったが、寮生がいなくなった事と関係しているだろうから、正直に話すことにする。
「……一瞬だけではっきり見てないし、疲れてるから見間違いかもしれないんだけど」
「なんだ?」
番長は前のめりで俺の話を聞いている。
「長い黒髪を見た。そのベットの下でさ」
ガシッ!
「どわ! あぶねえ!」
番長は勢い良く立ち上がり、俺に掴みかかってくるもんだから、椅子から転げ落ちそうになる。
番長に胸倉を掴まえられているから、転げはしないだろうけど。
「落ち着け! 番長! 大丈夫だ!」
俺は番長をなだめつつ、胸倉を掴んでいる番長の手をそっと外そうとするが……びくともしない。くそっ。
今、番長は立ったまま俺の胸倉を掴んでいる。ちょうど見下ろされているような状態なのだが、部屋の明かりが逆光のようになっている。番長の顔は暗くて見えないが、胸倉を掴む手も肩も小刻みに震えているにはわかる。
転校して3日目、男前の番長からそう宣言された俺は、可愛い女の子との甘酸っぱい青春が走り去っていくのを感じたのだった。
冒頭のこれだけだと意味がわからないだろう?
安心してくれ。俺もわからん。
順を追って説明すると、俺は3日前に埼玉にある寮付きの高校へと転校した。
なぜここにしたかというと、他の全寮制の高校と違い、ここは希望制だ。寮生は3学年あわせても10名だけ。本来は二人部屋だったらしいが、今は一人一部屋だと聞いた。
この小規模さが、人間にちょこっとうんざりしていた俺のハートを掴んだのだ。
編入試験も合格し、夏休み初日に寮へ引っ越してきたのだ。
寮は学校のすぐ裏手にあり、柳に囲われた古い木造二階建ての建物。入口は両開きの黒い扉で、塗り替えたばかりらしく、異様な存在感を出している。
その黒い扉に溶け組むように立つ黒い学ランの男が、冒頭に出てきた番長くんである。
「……神取仁か?」
見た目どおりのドスの効いた声。俺はいきなりぶん殴られたらどうしようと心配しつつ、頷いた。
「えっと……はじめして! 神取仁です! 9月から転校の高校一年生です! 」
「おぅ。聞いている。案内する」
番長はそう言うと、さっさと寮の中に入ろうとする。
「え、あの、ミクさんという寮母さんが出迎えてくれるって話だったんですが?」
「アァ?」
「ひぃ!」
振り返った番長の顔と声の怖いこと、怖いこと。
昔の劇画漫画張りに目力が凄いから、眉間に皺を寄せられると、どこぞの後ろに立ってはいけないスナイパーのよう。
「……誰が寮母だと言った?」
「あ~……」
記憶を掘り起こす。
確かあの人は……。
「……君の事は寮の管理人に任せたよ。ミクさんはとても若いけど、見た目に似合わずしっかりした人だから、困った時は相談したら良いよ……って」
「はぁ……自己紹介がまだだったな。俺の名前は、三久源治郎。お前と同じ高校一年生だ」
「……寮母……さん。俺の癒し系姉さん女房型寮母さんは……?」
番長は憐れみのこもった視線を俺に向ける。
「そんなもんはいねぇ。今、この寮に住んでいるのは俺だけだ。ああ、今日からお前も住むんだよな。お前が管理人をやってくれても構わないが……」
「寮母さん……俺の癒し系寮母さんがぁ……! 劇画漫画な寮母さんにっ!」
「てめえ! ふざけんなっ! 誰が劇画漫画な寮母だっ!」
俺の絶望の叫びと番長の怒号が飛び交う中、俺の甘酸っぱい青春は、初日からどんどん狂っていくことになる。
そう、俺は番長の重大な発言をスルーしていた。
俺が一ヶ月前に聞いた事前説明では、寮生は10名。残り9名はこの一ヶ月の間に、どうして出ていったのか?
入口で一悶着あったが、俺は番長に首根っこを掴まれ、ずるずる寮の中に引きずり込まれた。
外観は古い二階建ての木造建物だったが、中に入ってみると、
「おお……外観通りのボロさ! 空気も……うん! じめっとひんやり黴臭いというか、ちょっぴり酸っぱい匂いも想像通り!」
俺は思わず感嘆の声を上げる。
「うるせえ! 嫌なら出てけっ!」
「あっ、ちょ、待って待って!」
俺の首根っこを捕まえたままだった番長は、そのまま外に放り出そうとする。
俺は全身を使って踏ん張るが、番長は片腕だけで引きずっていく。
なにっ? この圧倒的な力の差!
「番長! 趣味はキントレだろ? 脱いだら凄いんです系だろ! まあ、脱ぐ前から凄いんです系だけど!」
「誰が番長だ! 勝手にダサいあだ名をつけんな! ……よし、親御さんには俺から説明してやる。携帯出せ」
「マジにやめて下さい! あ、よく見たら、この広い玄関すごくいい! 何かあっても、棺桶の出し入れがスムーズそう!」
「お前の端々に織り込まれる気色悪い発言は、どうにかならねえのか……。もう、いい……どうせ、すぐ逃げるだろ」
「え?」
「いや、何でもない。まずは、一階の説明をする」
「……よろしくお願いしま~す!」
俺の元気で良い子な返事に安心したのか、番長は俺から手を離し、ようやく寮の中に入っていく。
ちなみに、寮は土足禁止で、室内履き持参。それは事前説明で聞いていたが、スリッパ禁止は聞いてない。
番長曰く、スリッパは階段で転びやすいからだそうだ。番長独自の規則かも。
あと、番長が小声で言った言葉はバッチリ聞こえていたりする。どうせすぐ逃げるなんて、どこぞのホラーによくあるセリフじゃないですかぁ~嫌だなぁ。本当なら、ここでしつこく聞き返してやっても良かったが、携帯強奪されて、実家に電話されたら笑えないので、聞こえなかった振りをした。あの腕力……反則。
寮はそれほど広くない。玄関入って中央に階段があり、奥に共同風呂、右側に台所とリビング。あと、左側に共同トイレと畳六畳ほどの小部屋が一つ。昔はここに住み込みの寮母さんが住んでいたらしい。今は物置と化している。
二階と三階にそれぞれ5部屋ずつ。寮生が多いときは、二段ベッドを二台置き、四人部屋。酷いときは、二段ベッドの間に布団を敷いて、五人部屋にしたこともあったらしい。……その五人目の寮費が気になるところ。これでベッド組と同じだったらぐれるぞ。
今は良い(?)時代で、一人一部屋の贅沢使い。しかも、今は二人だから、三階は番長、二階に俺らしい。
すごいよね! 一部屋どころか1フロアー独占!
フフ……訳アリすぎんだろ!
「……神取、大丈夫か? 俺の話、聞こえてんのか?」
「え? ああ、大丈夫、問題ない」
「そうか、階段の手すりに向かって、ぶつぶつ言っているから。問題ないならいいが。二階は五部屋で、全て空室だ」
番長と一緒に二階に上がる。二階は左右に二部屋ずつに、階段を上がった正面に一部屋。
「この正面の部屋が、他の二部屋より少し広い造りになっているが……」
「じゃあ、正面の部屋一択で!」
部屋は広いほうがいい。俺の即答に、番長は渋い顔をした。
「……正面の部屋は、階段の音や一階の物音がうるさいかもしれん」
「大丈夫。問題ない」
「……冬は玄関からの冷たい風で、他の部屋より寒いかもし……」
「大丈夫、問題ないっていうか、めっちゃ反対するな! 事故物件かよ!」
「うっ!」
「え? マジ?」
あからさまに顔が青ざめる番長。しかし、すぐに無表情になり、
「いや、何もない。前に住んでいたのは俺だ」
「……なんで部屋変えたん?」
「……二階より三階が静かだからな」
「ふ~ん」
「……お前も三階がいいなら、三階でもいいが」
「ん、二階でいいや。じゃあ、正面のこの部屋、もらうよ」
俺は笑顔でそう言って、何か言いたそうな番長を残し、部屋に入っていった。
部屋の中は正面に窓、右端にパイプベッド。左に勉強机と三段のアクリルの衣装ケース。
勉強机や衣装ケースには傷や汚れがあり、お古だとわかる。代々使っていたものか、番長のおさがりなのか。
とりあえず、ベッドの下を覗く込む。別に番長の大人な本の置き土産があるとは思ってない。本当に。
一応、ホラー映画なんかで定番のお札を確認したのだが……、
「あ」
「ひぃ!」
俺の目が全てをとらえる前に、長い黒髪のかたまりが、しゅるんと悲鳴と一緒にドアから廊下に飛び出し、
「おわっ!」
外の廊下から、野太い叫び声。
あ、番長ってば、ばったり会っちゃったな。まだ廊下にいたんだ。
だだだだだ
慌ただしい足音が近づいてきて、
バンッ!
「……!」
番長が青い顔で飛び込んできて、急いでドアを閉めた。
「……」
「番長、大丈夫?」
「……」
番長は無言で俺のベッドに座り込む。両手を顔の前に組み、考え込むポーズ。
これはダメそうだ。
俺は仕方なく、勉強机のほうの椅子に腰かける。
番長が落ち着くまで待つことにしたのだが、
暇つぶしにじっくり番長を眺める。
番長の背丈は俺より一つ分位高いから、大体180センチ越えだろう。学ラン越しでもわかるガッチリ体形で、顔は彫りが深い。眉が太くてきりっとした目元で、昔のアメリカ映画に出ていたインディアンを思い出す。
番長はしばらく石像と化していたが、やっと落ち着いたらしい。
「……いきなりすまねぇ」
「ゴキブリでも出たの?」
俺は白々しく訊く。
「ちげぇ……。お前、何か見たか?」
俺は見たものを正直に答えるか一瞬迷ったが、寮生がいなくなった事と関係しているだろうから、正直に話すことにする。
「……一瞬だけではっきり見てないし、疲れてるから見間違いかもしれないんだけど」
「なんだ?」
番長は前のめりで俺の話を聞いている。
「長い黒髪を見た。そのベットの下でさ」
ガシッ!
「どわ! あぶねえ!」
番長は勢い良く立ち上がり、俺に掴みかかってくるもんだから、椅子から転げ落ちそうになる。
番長に胸倉を掴まえられているから、転げはしないだろうけど。
「落ち着け! 番長! 大丈夫だ!」
俺は番長をなだめつつ、胸倉を掴んでいる番長の手をそっと外そうとするが……びくともしない。くそっ。
今、番長は立ったまま俺の胸倉を掴んでいる。ちょうど見下ろされているような状態なのだが、部屋の明かりが逆光のようになっている。番長の顔は暗くて見えないが、胸倉を掴む手も肩も小刻みに震えているにはわかる。
