The guard part2 FBI連邦捜査官シリーズ

「また君たちに会えるなんて、とてもハッピーだ。私を脅そうとしている者に、感謝しないと」

 相変わらず派手なオーラを発散しながら、オスカーは堂々とした態度で捜査官たちの元まで来ると、気安げに手を差し伸べた。

「トーマス・アンダーソン捜査官だね、覚えている」
「光栄です、市長」

 トーマスは社交辞令のマニュアルのような挨拶をした。

「君は、ヒース・ハリド捜査官だ」
「正解です」

 ヒースも適当に手を握り返す。

 オスカーは満足そうに頷いた。そして、二人から少しだけ離れた場所に立っている三人目の捜査官を振り返った。

「名前を確かめてもらう必要はありません」

 トラヴィスは先に喋った。両手はすでにズボンのポケットに入れている。

「好きな名前で呼んで下さい。エキストラでも、寝坊野郎でも、まぬけ野郎でも、何でもOKです」
「相変わらず、君はとてもユニークな男だ、トラヴィス」

 自信が服を着て歩いている市長は、トラヴィスが喰らわせた「くそったれめ!」というメッセージにも、ビクともしなかった。

「前回、私が最後に言った言葉を覚えているかな?」

 人の心を(とろ)かせるような甘い笑みを浮かべながら、一歩進み出て、トラヴィスへも手を差し伸べる。トラヴィスはその形の良い手を睨みつけた。まるで嫌いな食べ物を出されたように、あからさまに眉根を寄せる。

 誰かが、小さく咳払いをした。

 トラヴィスは喉元からこみ上げてくる罵声を無理やり呑み込んで、舌打ちしながら渋々右手を差し出し、握手した。

「グッドラックしか覚えていません」

 市長の手を握りつぶすぐらいに、ぐっと力を込める。

「残念だが、違う」

 オスカーは手が痛むほどに握られても、楽しそうに首を振った。

「また必ず会おうと言ったんだ。私の言った通りになったな」
「市長をクビにされたら、次は予言者にでもなったらどうですか?」

 トラヴィスも知らん顔をしながら、さらに握力を込める。

「いいアイディアだ」

 オスカーはにこりと笑みを浮かべた。

 トラヴィスの顔つきが、毒サソリにでも刺されたかのように一瞬険しくなる。市長がもの凄い力で握り返してきた。

「トラヴィス」

 オスカーは涼しげな笑顔のまま、鬼軍曹のような腕力で手を引っ張ると、強引にトラヴィスを自分へ引き寄せた。

「君の情熱的なアプローチは受け取った」

 トラヴィスの耳元へ愉快そうに囁く。

「あとで、話し合おう。二人きりで」
「……」

 思わず目を()いたトラヴィスだが、オスカーは名残惜しそうに手の力をゆるめる。

 トラヴィスははねつけるように手を振りほどいた。今にも罵りかねない物騒な形相になっている。だが、華麗なるニューヨーク市長には全く眼に入らないようで、いたく満足したように他の捜査官たちを振り返った。

「これから空の旅が始まる。君たちもここで、ゆっくりと寛いでくれたまえ」
「ありがとうございます」

 トーマスがそつなく言った。

「何か必要なものがあれば、フィオナに言うように」

 そう言うと、オスカーは話を切り上げるように背中を向けた。その男性的な背へ、トラヴィスは怒りのあまり右手の中指を立てようとしたが、そっと近寄ったヒースに左足を強く踏みつけられ、低く唸っただけで終わった。

「リビングルームやダイニングキッチンは、御自由にお使い下さって結構です。わたくしに御用の際はいつでもお呼び下さい。それでは」

 プライベートルームへ戻った市長の後を追って、フィオナもドアの向こうへ消える。

 その場が、妙に静まり返った

「――おい」

 少しして、トラヴィスの憎々しい声がそれを打ち破る。

「いつまで人の足を踏んづけているつもりだ?」
「――ああ、忘れていた」

 フィオナの美しい後ろ姿に見入っていたヒースは、ひょいと足をどけた。

「何なんだ、あの野郎は!」

 トラヴィスは任務なんかクソっ喰らえと言わんばかりの勢いで吐き捨てる。

「何って、トラヴィスが情熱的なアプローチをしたんだろう?」

 もちろん、全部丸聞こえしていたトーマスは、くすくすと笑う。

「ふざけるな!」

 トラヴィスは痛む手をさすりながら、これでもかというぐらいに怒りの雄叫びをあげる。

「俺は握手しただけだぞ! 少し余計な力が入っただけだ! どこが情熱的なアプローチだ! あいつ頭がおかしいぞ!」
「まあ、落ち着け。握手だけで済んで良かったな。きっと次は、握手した後、ロシア人のようにオーバーに抱き合わなきゃならなくなるんだぜ?」

 ヒースはトラヴィスの肩を軽く叩いた。その顔は非常に面白がっている。

 トラヴィスは無責任な同僚を睨みつけると、その手を振り切って、機内のリビングルームを苛々と歩いた。

「くそったれめ! こんなジェット機ハイジャックしてやりたい!」

 トーマスとヒースは顔を見合わせた。自分たちの予想通りの展開に、苦笑いしか浮かばない。

「大丈夫かな?」
「世話のかかる奴だ」

 ヒースは大袈裟にため息をつくと、カッカしている同僚を静めるために、一言優しく忠告した。

「ハイジャックするなら、腕のいい弁護士を雇ってからにしろよ、トラヴィス」

 やがて、離陸を伝える機長のアナウンスが流れてきた。