色々あって、BL動画を撮ることになりました

「ごめんね、マナト。藤原さんに嫌味なこと言われちゃった?」

「いや、大丈夫……」

僕は窓のそばに置かれたソファに座り、ベッドに腰掛けたミツバくんと話をする。

「でもさ、僕、藤原さんの意図が全然わからないんだ。5人のYouTuberにたくさん再生されるような魅力ある動画を撮ってもらって、このレッドツリーホテルを広めたいんだよね?」

「あぁ、そのはずだったんだよ」

「だけど、さっき藤原さんに「ミツバくんに気に入られるように頑張りなさい」って言われた。そんなプライベートなこと、あの人には関係ないよね?」

ミツバくんは立ち上がり、部屋の冷蔵庫から炭酸飲料を出して、僕に渡してくれた。
そして、僕の隣へと座り直す。

「俺たちに動画の案件を持ちかけてくれたのは、あの人じゃなくてここの支配人。今は海外視察中で、代わりに広告代理店から出向中の藤原さんが代理を務めているらしい」

「広告代理店……」

「藤原さんがメイキングと言って撮ってるのは、おそらくBL要素を全面に出したショート動画だろ」

「BL?」

「うん。ボーイズラブ。男の子と男の子の恋愛。最近はドラマもたくさん作られてる。そういうの扱った動画は、再生回数が結構回ってバズったりするらしいから」

「ボーイズ……ラブ……」

「そこそこ知名度があるYouTuberと、やたらとイケメンのサポートスタッフ。藤原さんは、そんな俺たちがワチャワチャっていうか、イチャイチャっていうか、じゃれ合ってるシーンを切り取ったような短い動画を、SNSに宣伝として載せるつもりなんだろ」

「イチャ……イチャ……」

「うん。「友達以上恋人未満の2人」みたいな扱いでさ。そしたらさ、そのショート動画が変なバズり方する確率が上がるわけだよ」

「……」

「例えばさ、ナーゴの昆虫動画なんて、女子は誰も見ないでしょ?」

「虫だらけだしね……」

「でも、切り抜かれた動画で、ナーゴとスタッフが親密そうにしてるシーンを見たら「この2人可愛い」って思う人が一定数いるわけ。可愛い2人がさ、苦労して虫を捕まえて、労い合うシーンなら、YouTubeまで見にいってもいいかなって、なるでしょ?」

「なるかな……」

「ごめん、例えが悪かった。でも虫動画だとしても、再生回数が少しは増えると思うよ。ま、そんなことしなくても、ナーゴの動画は刺さる人にはすごく刺さって大人気なんだけどさ」

ミツバくんが言ってくることは、それなりに理解できた。
でも僕は、ずんと気分が重くなる……。
もらった炭酸飲料の缶を両手で握りしめ、俯いてしまう。

「マナトはさ、BLとか嫌悪感ある?」

やさしい声で、気遣うように聞いてくれる。

わからない、わからない……。
僕はさらに首を垂れて、小さくなる。

「俺は結構好きで、漫画やドラマも見るよ。むしろ男同士のほうが、エモいとすら思う。少しも嫌悪感はない」

そう言い切ったミツバくんを、僕は顔を少しだけ上げて、見た。
僕は……幼稚園の頃から、女の子への興味がない。
けれど男の子に対しては、格好いいとか、綺麗とか、仲良くなってみたいとか、そういう感情が湧き起こる。

そのことを、小学校のときに無邪気に母親に伝えたら「それはおかしいから、治しなさい」と言われた。
それ以来、誰にも言ったことはないし、自分自身でも、自覚しないよう気を付けている。

動画を撮影するカメラマンになりたいのは、そういう感情を、人知れず画角の中に閉じ込めることができるからだ。

だから、BLなんて……。
絶対に触れてはいけないもので、覗いてはいけない世界のはずなんだ……。

「俺が3本目に撮りたいのは、そんな中途半端に切り取ったBLじゃなくて、ちゃんとしたBL。俺が、この島でマナトと出会い、恋に落ちていくって話」

「え?」

「ほら、俺、フェイクドキュメンタリー得意だから」

「フェイク……」

「マナトの顔は映さなくていいから。2本目の動画と同じように、カメラの向こうにいるマナトと俺で、会話しながら撮るようなBLにしたいんだ」

「で、でも。そこで顔が出なくても、メイキングのショート動画には、僕の顔が映ってるんでしょ……。さっきのナーゴさんの例えみたいに、僕とミツバくんを、そういう目で見た人が……「この2人が」って思いながら、そのBLを見るわけでしょ……」

「藤原さんと交渉して、あのメイキング動画はお蔵入りにさせる。その代わり、俺がちゃんとしたBLを撮るからって、彼女に伝えて辞めさせる」

頭の中が酷く混乱していた。
僕が今誘われているのは「フェイク」のBLだ。
「それっぽい」のが大切な動画の話だ。

あぁ、感情がぐちゃぐちゃだ。
僕は頭を掻きむしった。

「急に言われても困るよな。明日の夜まで考えてみてよ」

ミツバくんは、ハラリと金髪が顔にかかる格好いい笑顔で、僕にそう告げた。