色々あって、BL動画を撮ることになりました

「ねぇ、その斜めがけしている革のカバン、何が入ってるの?」

僕は、空気を変えたくて、ミツバくんに問う。
彼は海岸のシーンからずっとそれを身に着けていて、道中も時折、大事そうに抱きしめていた。

「きまってるじゃん。財宝だよ、財宝」

「え?本当に?」

「見たい?」

「見たい!」

ガサゴソと手を突っ込んだ革のカバンから出てきたのは、レトロな木製の宝箱だった。

「これ、骨董店で見つけたんだ。いいだろ?中身は宝石。まぁ、こっちは全部イミテーションだけどね」

箱を開け、中身も見せてくれる。
エメラルドや、ルビー、真珠や金の指輪らしきものが、じゃらじゃら入っている。

「偽物だとしても、すごくそれっぽい。いいね」

「マナトにそう言ってもらえると、自信が持てるよ」

そう言って笑いながら汗を拭うミツバくんは、眩しいくらい綺麗だった。

思わず、カメラに収めたいという衝動に駆られたけれど、それはまるで、メイキングカメラの無粋さと同じ振る舞いだと気が付き、なんとか堪えた。



また1時間ほど、動き回って撮影をした。

「移動するシーンはもう充分撮れたな」

動画の編集は、ミツバくん自らがする。
彼の頭の中では、1本の動画にしたときの構成が、すでに出来上がっているのだろう。

「次は宝箱を埋めるシーンを撮りたいんだけど、お腹も空いたし、一旦ホテルに戻ろう。戻りながら、隠すのに適した場所がないか、探すよ」

灯台の位置を確認すると、直線距離としてはそんなに離れていなかった。
カメラは構えず、僕らは話をしながらホテルを目指す。

「財宝を隠した男は、そのまま何十年も放置するつもりはなかったと思うんだ。だから何か目標物を見つけて、その近くに埋めるはず」

「この島にありそうなのは、巨木、大きな岩、小川、小さな池、小さな滝、洞穴……」

「そうだね。島が平坦だから崖みたいなものは存在しないし」

「ねぇ、ミツバくん、あれは?」

巨大な岩の上に、小ぶりな丸い岩がドンとのって、オブジェのようになっていた。
岩はいい感じに苔むしていて、見映えもいい。

「あぁ、いいね。男はこの岩を「地蔵岩」って名付けるんだ。どう?」

「うんうん、それっぽい」

「俺の動画では「それっぽい」っていうのが、とても大事だからさ」

僕らは今後の展開に目処がつき、安心してホテルへ戻る道を急いだ。



ホテルに帰れば、メイキングのカメラが僕らを待ち構えていた。
僕は変に意識してしまうけれど、ミツバくんは完全にスルーしている。

レストランに行き、いつでも食べられるよう保温されている食事を美味しくいただいた。

「マナト、あのさ」

グリーンカレーを口に運びながら、ミツバくんが真剣な顔をして話し始めた。

「俺、藤原さんみたいな動画の撮り方、嫌いでさ」

「ん?メイキング映像のこと」

「そう。俺、あのカメラがあるところでは、マナトの前で笑顔を見せたり、距離を詰めたり、触れたり絶対にしないようにしたいと思う」

「ど、どうして?」

「それはまた、追々。だからさ、クールぶって過ごすけど、マナトを避けてるとか、嫌ってるとか、そんなんじゃないから、絶対に誤解しないでほしい」

「わ、わかったよ」

「よかった……。やば、今、笑いそうになった。自分で決めといて、ムズイな……」

そんなミツバくんの複雑な表情に、僕は素直に笑ってしまう。

「あっ、僕は笑ってもいいんだよね?」

「うん。マナトはさ、笑っててよ。本当はそんな顔も、メイキングに撮らせたくないけど、俺が巻き返すから。必ず!」

「ねぇ、なんの話?」

「あぁ……。今日中に1本目の昭和な男の動画を撮り終わって、明日、明後日で2本目を撮りきってさ。残りの2日で、3本目の動画を撮ろうなって話」

「そっか。ミツバくん的には、今はその3本目への期待値が上がってるんだね」

「そういうこと。……あっ、また微笑んじゃった。クールに、クールに……」

僕は少しでも早く、3本目の詳細を聞きたいと思った。



昼食後、少しだけ休憩をし、ミツバくんの先導で地蔵岩へ戻る。

「あれを地蔵だとして、正面はどっちだと思う?」

ミツバくんの問いかけに岩のデコボコを観察し、鼻らしきものを見つける。

「灯台のほうを向いてるように見えるよね」

「だとしたら、地蔵岩の正面を背にして、何歩か歩いたところに埋める、とかいいよな。うーん、何歩がいいかなぁ」

「埋めた男としても、絶対に忘れない数字ってことだよね」

「うーん、「ざ・い・ほ・う」とか言葉でもいいし。それを男は手帖に記すんだ」

僕はふと、短歌を思いつく。

「夏至の日に 地蔵守りし 申の刻 頭隠して 尻隠さず」

「なになにそれ?すげえ「それっぽい」!」

「明後日はちょうど、夏至でしょ?男が財宝を埋めたのも、ちょうど夏至の日だったっていうのはどうかな?」

きょとんとしたあと、彼は破顔する。

「マナト、天才じゃん!」

ミツバくんは、僕のアイデアを褒めちぎり、そのままの勢いでごくごく自然にハグしてくれる。
僕は心臓がバクバクしてしまったけれど、されるがままその賞賛を受け取った。