色々あって、BL動画を撮ることになりました

目が覚めると、部屋には太陽の光が燦々と降り注いでいた。
朝7時。
昨晩約束した時刻に、ミツバくんの部屋をノックする。

「はーい、ちょっと待って」

少ししてドアが開くと、そこには昭和初期からタイムスリップしてきたような、ミツバくんがいた。

「うわー!」

「部屋の中に入って。廊下で喋ってると、メイキングカメラが来ちゃうから」

ミツバくんは、白く涼しげな麻のスーツに身を包み、丸い黒縁のメガネをかけて、カンカン帽をかぶっている。
足元は、ブラウンの革靴だ。

実際、昭和初期の富豪がどんな格好をしていたのかは、知らない。
でも、僕が頭の中でイメージする像とは、ぴたりと重なった。

フェイクドキュメンタリーというのは、そういう合致が大事なのだろう。

「どう?似合う?」

クールな表情を作り、ポーズをとってくれるから、僕は戸惑ってしまった。

「か、格好いい……と、とっても」

「やだな。なんでマナトが顔を赤くするの?俺まで照れちゃうじゃないか」

「……」

こんな風に揶揄われたとき、気の利いた切り返しができたらいいのに。
僕は無様に、言葉に詰まってしまった。

だってそれくらい、白い麻のスーツはミツバくんに似合っていたから……。

「さっ。朝ごはん、食べ行こうぜ」

彼が僕の肩に触れ、廊下へ出るよう導いてくれた。

「うん」

今は、そう頷くのが精一杯だった。



ミツバくんと一緒に1階のレストランへ降りていくと、約束したわけでもないのに、皆が揃っていた。
当然のようにメイキングカメラも回っていて、僕ら2人にレンズが向いた。

でも、それよりも今は、皆のスタイルに目を奪われてしまう。

サイカワさんは、縄文人みたいな格好をしている。
粘土質の土を探し出し、海岸で土器を焼くつもりらしい。
海岸でなら火を起こしてもいいと、ホテル側から説明があった。

ユーキさんは、ザ・大学生という服装だ。
昨日はもっとお洒落をしていたから、動画のイメージのために、わざとファストファッションを着ているのだろう。

イタルさんは、サファリ探検家のコスプレみたいな格好だ。
ご丁寧に、双眼鏡まで首から下げている。

ナーゴさんに関しては、一目でこれから昆虫採集に行くのだろうと、わかった。
虫取りアミの数は、どこに隠していたのか、昨日より増えている。
彼とペアにならずに済んで、本当に助かった……。

「ミツバ氏、めちゃくちゃ格好イイじゃん!」

「ホント、ホント。魅力爆発って感じでズルいですね」

よかった。
僕の目からだけじゃなく、他の人から見ても、このスタイルのミツバくんは、最高に格好いいみたいだ。
……自分の認識がズレていないと知れて、僕は少し安心した。



朝食を食べ終えれば、皆が散り散りに撮影へと出掛けていく。

僕らも、すぐに浜辺へ移動し、海岸に上陸したと想定するシーンから撮り始めた。
ホテルを出ると、流石にメイキングカメラはついてきておらず、少しホッとする。

撮影機材は、僕も小ぶりなものを持ってきたけれど、普段のミツバくんの動画と画質を揃えるため、彼が持参したカメラを使うことになった。

シナリオのようなものは、存在しない。
時には走り、時には立ち止まりながら移動し続ける彼を、手振れを最小限に抑えながら、とにかくカメラで追う。

また、せっかくの美しい表情にも関わらず、顔のアップは撮らないよう、指示を受けた。
常に全身が収まる構図で撮影し続けてほしい、とのことだ。
2本目との対比を作りたいのだろう。

そしてミツバくんが、鳥の声や、水の流れる音に反応し、視線を大きく動かしたときには、カメラもその目線の先を捉える。
視聴者に同じものを見せるためだ。

彼の胸元にはピンマイクもついている。
スーツと同化するよう、白い風防ボアがかぶせてあった。
彼の呟きや息遣いまで、臨場感たっぷりに撮れているはずだ。



森の中の少し開けた場所に出たとき、カメラ目線をしないはずの彼が、しっかりとカメラを見据えてきた。
液晶モニターを見ていた僕は、急に目があったように感じ、ドキリとしてしまう。

「休憩にしようか」

な、なんだそういうことか……。
僕が彼に向けていたカメラを止めると、ミツバくんの表情から、フッと力が抜けたのがわかる。

「ミツバくん、水分取ったほうがいいよ」

背負っていたリュックサックからペットボトルを取り出し、彼に渡す。
気がつけば、撮影開始から、もう3時間が経っていた。

「サンキュ。マナトも、腕が疲れるだろ?カメラ置いて、身体を休めて」

森の中は静かで、鳥のさえずりや風で木々が揺れる音だけが……いや、違う。
微かなブーンという羽音が、終始聞こえ続けているのだ。

僕もミツバくんも、上空を見上げる。

「必死だな、藤原さん。ドローン映像まで使うつもりか」

「バズるためのメイキングって、どんな場面を使うんだろ?」

「それはさ。ほら、こういうのだよ」

ミツバくんはドローンへ見せつけるように、突然僕との距離を詰め、至近距離から肩に触れてきた。

「え?」

なぜか一瞬、キスされると思ってしまった。

「葉っぱがついてる」

彼はクールにそう言った。