色々あって、BL動画を撮ることになりました

僕とミツバくんも、端っこに置かれていたベンチチェアへ移動する。
ランタンを引き寄せ、デザートの焼きパイナップルを2人で食べながら、彼の話を聞く。

「えーと、俺の動画を見たことはある?」

「ごめん。冒頭を少し見たぐらいしか……」

「いや、全然いい。変に先入観があるよりそのほうが助かる」

ミツバくんは、屋上へ持ってきていたトートバッグから、タブレット端末を出し、僕に見せてくれた。

「これ、企画書?」

「そんな大層なものじゃないけど、事前に考えてきたアイデア。俺はフェイクドキュメンタリーを得意としてて、今回も、そういうノリで撮りたいと思っている」

「『謎解き・赤樹島に隠された財宝を探し出せ!』へー、面白そう」

「「昭和の初め。一代で莫大な資産を築き上げた男が、財産を隠そうと1人この島へやってきた」そういう設定の元、1本目の動画を撮影する」

説明を始めたミツバくんは、仕事モードの真剣な表情だ。
金髪の髪がハラリと顔にかかる横顔を、思わず見つめてしまう。

「島に初めて上陸した男は、島を彷徨い、隠すのに相応しい場所を必死に探す。そして財宝を埋めた。彼は掘り起こす時のことを考え、なんらかのヒントを書き記す」

「こっちは正にドキュメンタリーだよね?だってミツバくん、実際にこの島は初めてなんだし」

「その通り。昭和の雰囲気を出すために、麻のスーツにカンカン帽かぶって、モノクロで撮影する予定。撮影はマナトにお願いしたい。だから助かったよ、撮影機材扱える人で」

「お役に立てるように頑張るよ」

「で、1本目の俺は、独り言は言うけど、カメラは見ない。そこに本来カメラは存在しないから」

「うん、わかった」

「2本目は、今の俺。YouTuberミツバが、この島に隠し財宝があると聞いて、それを探しにやってくるって動画。今度はマナトには声で参加してほしいんだけど、大丈夫?」

「えっ。あ、うん。僕のこんな子どもっぽい声でよかったら……」

「なに言ってんの?すげぇ可愛い声じゃん。本当なら顔出しで映ってもらいたいくらい」

クールなミツバくんが僕に顔を近づけ、目を細めてニコリと笑う。

ヤバい……この人、完全に「人たらし」だ。
自分の顔面の破壊力、わかってないのか?
気をつけて接しないと、いつの間にかほだされてしまいそうだ……。

「うわっ」

変にドキマギしていると、すぐ横にメイキングのカメラマンがいた。
背後では藤原さんが「行け!行け!」と指示を出している。

ミツバくんはあからさまに嫌そうな顔をし、カメラに背中を向けた。
お陰で僕の姿もカメラの死角に入る。

それでも撮ろうして彼らは試行錯誤したが、結局、撮影クルーは、僕らの元を離れ、ナーゴチームのほうへ移動していった。

「でね……」

気を取り直し、話の続きだ。

「2本目は、俺とマナトの2人でこの島に来たって設定。俺は頻繁にカメラ目線でマナトに話しかけながら、隠し財宝を探していく」

「なるほど」

「マナトは、俺の言葉に相槌を打ったり、驚いたり、怒ったりしてくれればOK」

「一緒に謎解きもする感じ?」

「うん。フェイクの演技で俺とあーだこーだ考えてほしい。こっちじゃない?あっちじゃない?みたいな」

「できるかな?」

「難しく考えなくていいから。もちろんレッドツリーホテルの室内や、美味しい食事を食べるっていうリゾート満喫シーンも入れる」

「面白くなりそう」

「1本目の動画では、この島の人工物の少なさが活きると思うんだよね。だから1本目の昭和初期設定には、灯台が映りこまないよう注意してほしい」

「灯台は、昭和初期からあったんじゃない?」

「いや、調べたら戦後建てられたものだった」

「そっか。了解」

僕が心配するまでもなく、事前の下準備は済んでいるようだ。

ミツバくんはキョロキョロとし、近くにメイキングカメラがいないことを確認する。
そして顔を寄せてきた。

「あとさ、たった今、いいアイデアを思いついたんだけど」

彼の目にランタンの光が反射し、よりキラキラと輝いている。
クリエイター気質なのだと、見て取れた。

「なになに?」

「できれば1本目と2本目をできるだけサクッと撮り終えて、もう1本、追加で撮りたい。3本目はマナトの協力が不可欠なんだけど、いいかな?」

「よくわからないけど、ミツバくんのアイデアなら、面白そうだから全力で協力するよ」

「このまま藤原さんの思うツボは癪に障るからさ。メイキングと偽って、他人に打算的にプライベートを切り取られたくないし」

「そもそも、メイキング映像で、バズりなんて期待できないと思うんだけどな」

「いや、やり方によっては……。あっちがその気なら、俺は本気でやってやろうと思ってる。だって俺の得意分野は、フェイクドキュメンタリーだからさ!」

ミツバくんが言っていることは、よく理解できなかった。
けれど「黄金の貴公子」が楽しそうに笑う姿は美しく、僕はただ頷いてしまった。

空を見上げれば、星が瞬いていた。
どうか、明日からの撮影が順調に進みますように……。