ミツバくんは、カメラ目線で続きを話し始める。
『俺は3本のフェイクドキュメンタリーをアップロードしました。でも、そのうちの1本『【BL】24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』は、俺的に「フェイク」と呼べる内容ではありませんでした。ごめんなさい』
彼は深々と頭を下げる。
『フェイクじゃないというか、「口説いてみたらどうなるか」の結果が、口説いた側が、見事に惚れてしまった。つまりミイラ取りがミイラになったってことでしょうかね』
サイカワさんが、解説のようにフォローしてくれる。
『撮影をしてるときは、自分の感情はぎりぎりフェイクで押し通せるって思ってたんですよ。でも、無理で……。そもそも、完全なフェイク動画として挑んでいたら、俺は彼に対し、もっともっと積極的に口説きにいったと思うんです』
彼の作風を知っている皆が頷いている。
チャット欄は静まり返っていて、その反応に僕の緊張は少し増した。
『動画を編集しながら、はっきりと気がつきました。彼への思いが本気だからこそ、俺の迷いとか、意気地の無さとかがしっかりとそこに映り込んでいて隠せていない。結局、俺が彼を好きだって気持ちは「フェイク」という枠から溢れ出ちゃってたんです』
ミツバくんから、今日のライブ配信でこの話をすると事前に聞いていたくせに、僕の心臓は破裂しそうだ。
でも、無理はない。
だって画面越しに、再度告白してもらっているようなものだから。
彼にもらったイミテーションの赤い宝石を握りしめながら、とにかく画面を見逃さないよう、目を開き続ける。
『実は今回、俺らの撮影風景を追うメイキングカメラが入っていました。結果、その動画はボツになったので世には出ないですが、フェイクを生業としてる俺には、あれがキツかった。本当の自分が映ってしまうという恐怖を感じてしまった』
『密着具合がエグかったからね』
『サポートスタッフの彼のことは、島に上陸したときから「いいな」と思っていて……。そういう幼い頃から隠してきた感情が、メイキングカメラに収められ、見破られてしまうかもって、怖くて堪らなかった』
メイキングカメラに対し、ミツバくんがそんな風に思っていたとは、知らなかった。
『だから、隠しきれない心の揺れを撮られるくらいなら、俺は全てに「フェイク」というフィルターをかけて、全力でBLを撮ろうって思いついたんです。あのときは、まさか自分で自分が騙せなくなるとは、思いもしなかったな』
メイキングカメラが撮っていた動画を、ミツバくんたちは、島から帰り、もらったらしい。
でも、僕には見せてくれなかった。
独り言のように「あのカメラクルー、どこの凄腕だよ」と呟いていた。
実際、プロ中のプロが、島のリゾート目当てにバイトとして引き受けていたらしい。
もしかすると、僕の目に映っていたミツバくんとは違う彼が、撮れていたのかもしれない。
『俺は編集が終わってすぐ、彼と連絡をとりました。そして、顔を見て、ちゃんと告白しました。好きになっちゃったから、付き合ってほしいって』
また活発に動き始めたチャット欄に、批判的な意見は、流れてこない。
ミツバファンはただただ喜んでくれていて、狂喜乱舞だ。
「きゃーーーー!」「フェイクじゃないとか最高すぎ」「興奮して鼻血出た」「今すぐ見直したい」「あまりにも望んだ展開」
『その告白シーンの動画はないの?』
イタルさんのツッコミにも、チャット欄は同調する。
「頼む」「見たすぎる」「誰か撮ってないのか?」「イタルが撮れよ」
『あるわけないだろ。でも、とにかくあの彼とは、トントン拍子で一緒に住むことになって。この島へ来る前日に、二人で引っ越し作業を終わらせました』
『ヒューヒュー』
サイカワさんが、下手くそな指笛を吹く。
『とにかく、あの動画を撮ってるときのミツバの気持ちがフェイクじゃないって分かったら、より再生回数は増えていくだろうな』
どうやらみんなの兄貴分らしいガデンさんが、良い方向にまとめてくれた。
それに皆も頷く。
『ということで、支配人、フェイク詐欺の彼を許していただけますか?』
ユーキさんが振ると、支配人は腕を上げて大きな丸印を作ってくれた。
『というわけで、本日の配信はここまで。レッドツリーホテル、本当にいいところなんで、皆さん是非いらしてください。ご予約は概要欄のリンクよりお願いします。じゃあね、バイバイ』
ミツバくんが皆に揉みくちゃにされ、動画は停止した。
それでも、チャット欄には僕らを祝福する言葉が、大量に流れ続ける。
すぐ、僕のスマホが鳴った。
彼は意外とマメな男で、この電話がミツバくんからだと、見なくても分かる。
僕は、堪らなく幸せな気持ちになって通話ボタンを押し「もしもし」と話しかけた。
(完)
『俺は3本のフェイクドキュメンタリーをアップロードしました。でも、そのうちの1本『【BL】24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』は、俺的に「フェイク」と呼べる内容ではありませんでした。ごめんなさい』
彼は深々と頭を下げる。
『フェイクじゃないというか、「口説いてみたらどうなるか」の結果が、口説いた側が、見事に惚れてしまった。つまりミイラ取りがミイラになったってことでしょうかね』
サイカワさんが、解説のようにフォローしてくれる。
『撮影をしてるときは、自分の感情はぎりぎりフェイクで押し通せるって思ってたんですよ。でも、無理で……。そもそも、完全なフェイク動画として挑んでいたら、俺は彼に対し、もっともっと積極的に口説きにいったと思うんです』
彼の作風を知っている皆が頷いている。
チャット欄は静まり返っていて、その反応に僕の緊張は少し増した。
『動画を編集しながら、はっきりと気がつきました。彼への思いが本気だからこそ、俺の迷いとか、意気地の無さとかがしっかりとそこに映り込んでいて隠せていない。結局、俺が彼を好きだって気持ちは「フェイク」という枠から溢れ出ちゃってたんです』
ミツバくんから、今日のライブ配信でこの話をすると事前に聞いていたくせに、僕の心臓は破裂しそうだ。
でも、無理はない。
だって画面越しに、再度告白してもらっているようなものだから。
彼にもらったイミテーションの赤い宝石を握りしめながら、とにかく画面を見逃さないよう、目を開き続ける。
『実は今回、俺らの撮影風景を追うメイキングカメラが入っていました。結果、その動画はボツになったので世には出ないですが、フェイクを生業としてる俺には、あれがキツかった。本当の自分が映ってしまうという恐怖を感じてしまった』
『密着具合がエグかったからね』
『サポートスタッフの彼のことは、島に上陸したときから「いいな」と思っていて……。そういう幼い頃から隠してきた感情が、メイキングカメラに収められ、見破られてしまうかもって、怖くて堪らなかった』
メイキングカメラに対し、ミツバくんがそんな風に思っていたとは、知らなかった。
『だから、隠しきれない心の揺れを撮られるくらいなら、俺は全てに「フェイク」というフィルターをかけて、全力でBLを撮ろうって思いついたんです。あのときは、まさか自分で自分が騙せなくなるとは、思いもしなかったな』
メイキングカメラが撮っていた動画を、ミツバくんたちは、島から帰り、もらったらしい。
でも、僕には見せてくれなかった。
独り言のように「あのカメラクルー、どこの凄腕だよ」と呟いていた。
実際、プロ中のプロが、島のリゾート目当てにバイトとして引き受けていたらしい。
もしかすると、僕の目に映っていたミツバくんとは違う彼が、撮れていたのかもしれない。
『俺は編集が終わってすぐ、彼と連絡をとりました。そして、顔を見て、ちゃんと告白しました。好きになっちゃったから、付き合ってほしいって』
また活発に動き始めたチャット欄に、批判的な意見は、流れてこない。
ミツバファンはただただ喜んでくれていて、狂喜乱舞だ。
「きゃーーーー!」「フェイクじゃないとか最高すぎ」「興奮して鼻血出た」「今すぐ見直したい」「あまりにも望んだ展開」
『その告白シーンの動画はないの?』
イタルさんのツッコミにも、チャット欄は同調する。
「頼む」「見たすぎる」「誰か撮ってないのか?」「イタルが撮れよ」
『あるわけないだろ。でも、とにかくあの彼とは、トントン拍子で一緒に住むことになって。この島へ来る前日に、二人で引っ越し作業を終わらせました』
『ヒューヒュー』
サイカワさんが、下手くそな指笛を吹く。
『とにかく、あの動画を撮ってるときのミツバの気持ちがフェイクじゃないって分かったら、より再生回数は増えていくだろうな』
どうやらみんなの兄貴分らしいガデンさんが、良い方向にまとめてくれた。
それに皆も頷く。
『ということで、支配人、フェイク詐欺の彼を許していただけますか?』
ユーキさんが振ると、支配人は腕を上げて大きな丸印を作ってくれた。
『というわけで、本日の配信はここまで。レッドツリーホテル、本当にいいところなんで、皆さん是非いらしてください。ご予約は概要欄のリンクよりお願いします。じゃあね、バイバイ』
ミツバくんが皆に揉みくちゃにされ、動画は停止した。
それでも、チャット欄には僕らを祝福する言葉が、大量に流れ続ける。
すぐ、僕のスマホが鳴った。
彼は意外とマメな男で、この電話がミツバくんからだと、見なくても分かる。
僕は、堪らなく幸せな気持ちになって通話ボタンを押し「もしもし」と話しかけた。
(完)



