僕は今、段ボールに囲まれた部屋の中で、パソコンを立ち上げ、彼らのライブ配信を今か今かと待ち構えている。
三日前に、引っ越しが終わったばかりの自室は、とても殺風景だ。
けれど、実家を出て自立したという事実が、より僕の気持ちを持ち上げていた。
『えー、視聴者の皆さん、見えてますか?』
画面の中で、6人のYouTuberが手を振っている。
辺りは真っ暗だけれど、かなりの照明を焚いているのだろう。
懐かしい一人一人の顔がよく見えた。
チャット欄には、「こんばんはー」「見えてるよ」「ミツバ様素敵!」と早速、文字が溢れる。
『俺たちは今、一カ月ぶりにレッドツリーホテルの屋上に来ています。ガデンくんは、この前来れなかったから、初めてだけどね』
「うんうん」と頷いている右端のメガネの男性だけ、会ったことのない人だ。
彼が、あのとき一緒に島へ行けなかった、怪我をしていたYouTuberなのだとすぐに理解する。
『本日は、1か月前に俺たちがこの島で撮影した動画が、公開から3週間経ったということで、再生回数1位の人を、このライブ配信で生発表したいと思います!』
配信のトークを仕切るのは、ユーキさんのようだ。
『でもさ、そんなの計算機でピピピってすれば、もう視聴者のみんなも分かってんじゃないの?いや、計算しなくても、分かってるのか』
チャット欄はその言葉に反応する。
「わかっちゃってるよ」「発表するまでもないでしょ」「でも、ドキドキして待ちたい」
『ナーゴ、無粋なことは言わないように。えー、まず今回の案件のルールとして、1人何本の動画をアップロードしてもOK。再生回数は合算で計算します。1位の人に賞金100万円をレッドツリーホテル様よりいただけるということで。ここで、支配人に登場していただきましょう』
サポートスタッフのバイトは、面接官も藤原さんだったから、支配人の顔は初めてみる。
この島に長く滞在しているのがよくわかる、日焼けした肌と、カジュアルな服装の50代男性だ。
『皆さま、本日はご視聴ありがとうございます。赤樹島にあります「レッドツリーホテル」の支配人でございます。えー、私は彼らの動画に大変感動しまして、こうして無理を言って、もう一度この島にお呼びしたのです』
『よ、支配人!!』
イタルさんが良く分からない合いの手を入れる。
それくらい、彼らは支配人と打ち解けたのだろう。
『まず、それぞれの動画への感想を。ナーゴさんには余すところなく、この島の虫を紹介いただきました。早速、昆虫採集目的のご来島がありました。サイカワさんは島の自由度を紹介くださり、遊び方を提供されるのではなく見つけ出すという楽しさを、示してくださいました』
『いやいや、照れますねー』
サイカワさんは手元のタブレットで、チャット欄の絶賛を目にし、頭を掻いている。
『ユーキさんは、大学のサークル活動において、この島をどう活用できるか具体例を上げてくれました。おかげで、夏休みにはたくさんのサークルが合宿に来てくれます。イタルさんの動画では、私どもホテルスタッフも気付かなかったこの島の地形についてご教授いただき、島内の散策が何倍にも魅力を増しました』
支配人は、彼らの撮った動画をちゃんと見てくれたのだろう。
小手先の数字にこだわった藤原さんとは違い、的確に評価してくれている。
もちろん彼女が撮ったメイキング動画はボツになったわけだが、支配人の逆鱗に触れ、担当を下ろされたと聞いている。
『そして、世間で大変話題となりましたミツバさんの動画は、この島のロケーションの良さを提示してくださり、すでに映画やドラマのロケハンが来ております』
パチパチと皆が拍手をする。
『しかし私としては、それだけじゃない。この島が「恋」を生む島として、今風に言えばバズったことを、ありがたく受けとめています。フェイクドキュメンタリーと銘打っていますが、彼が恋に悩み、カメラに向かって繰り返し独白するシーンは、こんなおじさんの私にも強く響きましたから』
チャット欄も大興奮だ。
「恋したくなった!」「あれ、本当にフェイクだったの?」「二人、付き合っちゃえばいいのにって思った」「トキメキをありがとう!」「ミツバBL無敵」
『では、もう皆さんドキドキもしていないと思いますが、優勝者の発表です』
ユーキさんの言葉に、支配人が賞金の入った封筒を持ち、咳払いをする。
そもそも彼らYouTuber5人は、賞金を個人で受け取らないと決めているが、カメラの前でそんな冷めるようなことは、口にしない。
『えー、再生回数1位は、ミツバさんです!おめでとうございます』
僕もパソコンの前で、力強く拍手をする。
「おめでとう!!」「おめでとう!」「祝・ミツバ」「他の動画もよかったぞ」「みんな優勝!」
そんな文字にも、一つ一つ首を縦に振ってしまう。
『じゃ、ミツバくんから一言』
聞き逃すまいと音量を上げた。
『えー、たくさんの方が動画を見てくださって、うれしいです。ありがとうございました。ただ、一つ謝らなければいけないことがあります』
『え、やだ、なに?』
ナーゴさんが茶化すように言う。
彼らは今からミツバくんが何を言うのか、知っているはずだ。
でも知らないチャット欄は、ザワザワする。
僕は心を落ち着かせるため、炭酸飲料を一口飲んだ。
三日前に、引っ越しが終わったばかりの自室は、とても殺風景だ。
けれど、実家を出て自立したという事実が、より僕の気持ちを持ち上げていた。
『えー、視聴者の皆さん、見えてますか?』
画面の中で、6人のYouTuberが手を振っている。
辺りは真っ暗だけれど、かなりの照明を焚いているのだろう。
懐かしい一人一人の顔がよく見えた。
チャット欄には、「こんばんはー」「見えてるよ」「ミツバ様素敵!」と早速、文字が溢れる。
『俺たちは今、一カ月ぶりにレッドツリーホテルの屋上に来ています。ガデンくんは、この前来れなかったから、初めてだけどね』
「うんうん」と頷いている右端のメガネの男性だけ、会ったことのない人だ。
彼が、あのとき一緒に島へ行けなかった、怪我をしていたYouTuberなのだとすぐに理解する。
『本日は、1か月前に俺たちがこの島で撮影した動画が、公開から3週間経ったということで、再生回数1位の人を、このライブ配信で生発表したいと思います!』
配信のトークを仕切るのは、ユーキさんのようだ。
『でもさ、そんなの計算機でピピピってすれば、もう視聴者のみんなも分かってんじゃないの?いや、計算しなくても、分かってるのか』
チャット欄はその言葉に反応する。
「わかっちゃってるよ」「発表するまでもないでしょ」「でも、ドキドキして待ちたい」
『ナーゴ、無粋なことは言わないように。えー、まず今回の案件のルールとして、1人何本の動画をアップロードしてもOK。再生回数は合算で計算します。1位の人に賞金100万円をレッドツリーホテル様よりいただけるということで。ここで、支配人に登場していただきましょう』
サポートスタッフのバイトは、面接官も藤原さんだったから、支配人の顔は初めてみる。
この島に長く滞在しているのがよくわかる、日焼けした肌と、カジュアルな服装の50代男性だ。
『皆さま、本日はご視聴ありがとうございます。赤樹島にあります「レッドツリーホテル」の支配人でございます。えー、私は彼らの動画に大変感動しまして、こうして無理を言って、もう一度この島にお呼びしたのです』
『よ、支配人!!』
イタルさんが良く分からない合いの手を入れる。
それくらい、彼らは支配人と打ち解けたのだろう。
『まず、それぞれの動画への感想を。ナーゴさんには余すところなく、この島の虫を紹介いただきました。早速、昆虫採集目的のご来島がありました。サイカワさんは島の自由度を紹介くださり、遊び方を提供されるのではなく見つけ出すという楽しさを、示してくださいました』
『いやいや、照れますねー』
サイカワさんは手元のタブレットで、チャット欄の絶賛を目にし、頭を掻いている。
『ユーキさんは、大学のサークル活動において、この島をどう活用できるか具体例を上げてくれました。おかげで、夏休みにはたくさんのサークルが合宿に来てくれます。イタルさんの動画では、私どもホテルスタッフも気付かなかったこの島の地形についてご教授いただき、島内の散策が何倍にも魅力を増しました』
支配人は、彼らの撮った動画をちゃんと見てくれたのだろう。
小手先の数字にこだわった藤原さんとは違い、的確に評価してくれている。
もちろん彼女が撮ったメイキング動画はボツになったわけだが、支配人の逆鱗に触れ、担当を下ろされたと聞いている。
『そして、世間で大変話題となりましたミツバさんの動画は、この島のロケーションの良さを提示してくださり、すでに映画やドラマのロケハンが来ております』
パチパチと皆が拍手をする。
『しかし私としては、それだけじゃない。この島が「恋」を生む島として、今風に言えばバズったことを、ありがたく受けとめています。フェイクドキュメンタリーと銘打っていますが、彼が恋に悩み、カメラに向かって繰り返し独白するシーンは、こんなおじさんの私にも強く響きましたから』
チャット欄も大興奮だ。
「恋したくなった!」「あれ、本当にフェイクだったの?」「二人、付き合っちゃえばいいのにって思った」「トキメキをありがとう!」「ミツバBL無敵」
『では、もう皆さんドキドキもしていないと思いますが、優勝者の発表です』
ユーキさんの言葉に、支配人が賞金の入った封筒を持ち、咳払いをする。
そもそも彼らYouTuber5人は、賞金を個人で受け取らないと決めているが、カメラの前でそんな冷めるようなことは、口にしない。
『えー、再生回数1位は、ミツバさんです!おめでとうございます』
僕もパソコンの前で、力強く拍手をする。
「おめでとう!!」「おめでとう!」「祝・ミツバ」「他の動画もよかったぞ」「みんな優勝!」
そんな文字にも、一つ一つ首を縦に振ってしまう。
『じゃ、ミツバくんから一言』
聞き逃すまいと音量を上げた。
『えー、たくさんの方が動画を見てくださって、うれしいです。ありがとうございました。ただ、一つ謝らなければいけないことがあります』
『え、やだ、なに?』
ナーゴさんが茶化すように言う。
彼らは今からミツバくんが何を言うのか、知っているはずだ。
でも知らないチャット欄は、ザワザワする。
僕は心を落ち着かせるため、炭酸飲料を一口飲んだ。



