予定通り朝8時に、全員がレストランに揃った。
皆、すでに荷物をまとめ、スーツケースをラウンジまで運んである。
最後の朝食はバイキングではなく、全員に同じモーニングプレートが提供された。
トマトとキノコのオムレツは美味しく、ふわふわなパンとよく合った。
僕の隣にはミツバくんが座っていたけれど、まだ挨拶程度の会話しか交わせていない。
「このパン、美味しいね」
小さな声で話しかけると、彼は何か考え事をしていたのか、ビクッと驚き「え?」と聞き返してくる。
「ううん、なんでもない」
「えー、皆さまお食事中に失礼いたします。支配人代理の藤原が不在ですので、預かっておりますメッセージを読み上げさせていただきます」
フロントの男性が声を張り上げる。
『6泊7日間、お疲れ様でした。編集時間が短くて恐縮ですが、1週間以内に動画を完成させ、弊社までお送りください。まず支配人が内容を確認させていただきます。その後一斉にアップロードとなります』
「鬼スケジュールだな」
イタルさんが、小さな声で呟いた。
早くも現実に戻る話で、YouTuberたちの顔は真剣なものになる。
『また、SNS宣伝用に15秒程度のショート動画もお一人3本、ご提出ください。こちらも支配人がチェックをし、藤原が撮影したものと見比べ、どちらを使用するか、判断してもらいます』
万が一、藤原さんが撮影したBL風メイキングショート動画が採用されたら、僕の顔もバンバン映っているだろう。
今は「それならそれでもいいか」という、投げやりな気分だ。
『サポートスタッフの皆さんには、アップロードのタイミングをメールにてお知らせいたします。ぜひ、ご自身の周りの方々にも視聴をオススメください。皆さま、どうぞお気をつけてお帰りくださいませ』
「藤原からは以上です」
レストランには、ナイフやフォークを使う音だけが響いて、楽しく雑談する者はいなかった。
おそらくYouTuberたちの頭の中は、もう編集のことでいっぱいなのだろう。
—
全員が乗り込んだ小型船の中で、僕は自分のカメラを回し、どんどんと離れていく赤樹島を撮り続けた。
そうしていないと、また泣いてしまいそうだったから。
島はみるみると小さくなり、やがて見えなくなる。
なにもかも夢だったように思えてきた。
全ての思い出は島に置いてきたんだ。
地蔵岩の近くに、穴を掘って埋めてきた。
そんなイメージを頭の中で何度も何度も、再生させる。
そのお陰で、高ぶった感情は少しずつ静まっていった。
到着した港には、マイクロバスが待っていた。
僕ら全員を空港まで運んでくれるらしい。
僕の隣の席には、ごく自然にミツバくんが座った。
けれど特に会話は生まれず、ただただバスに揺られ続ける。
幸いなことに、ここで縁が切れたとしても、僕はミツバくんの動向を知ることができるのだ。
YouTubeチャンネルをフォローすれば、常に彼を見ることができるから。
これからは20万人いるフォロワーの1人として、彼を応援したい。
「あと5分ほどで空港に到着いたします」
運転手が皆にそう告げたとき、ミツバくんが話しかけてきた。
「これ、マナトにあげるよ」
ポケットの中から、赤い宝石を一粒出して見せてくれた。
「え?」
「宝箱に入ってた宝石の中で一番綺麗なやつ。イミテーションだけどね」
「いいの?ありがとう」
僕の手のひらにのせられたそれは、ミツバくんがずっと握っていたのか、温かくなっていた。
「最後の最後まで、フェイクで、ごめんな……」
僕は首を横に振った。
「でも俺、マナトとチームを組めて、一緒に撮影できて、本当に良かった。この気持ちは少しもフェイクじゃないから」
その言葉をきっかけに、僕らはようやくしっかりと見つめ合う。
「お疲れさまでした。到着となりまーす。お降りになる際に、航空券をお配りしますので、名前をおっしゃってください」
運転手の声で、皆が座席から立ち上がり、僕らの絡み合った視線もほどけてしまった。
—
「あれ?みんな同じ時間じゃないんだね、飛行機」
「ホントだ。サポートスタッフのほうが、1時間早い便じゃん」
「手配のタイミングが違ったんですかね?」
どうやら僕ら5人は、ゆっくりお土産を買う時間も無さそうだ。
「では、お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
「動画アップされた、必ず見ます」
手を振るYouTuber5人に頭を下げ、僕らは保安検査の列に並ぶ。
その間、ミツバくんは、真っ直ぐに僕だけを見続けてくれていた。
それだけで、もう、満足だった。
僕は彼から目線を外し、検査場の方を向く。
そのとき。
「マナト!」
ミツバくんが大きな声で、僕の名前を呼んだ。
彼のほうを振り返ると、両手を振ってくれていた。
「またな、マナト!」
あぁ、やっぱりこの人が好きだ。
気持ちを島に置いてくることは、できなかったようだ……。
「またね、ミツバくん!」
僕は、うれしくてうれしくて、両手を大きく伸ばして、手を振り返す。
一足早く飛び立った機内では、彼にもらった赤い宝石を握りしめ、「また」が来ることを祈り続けた。
皆、すでに荷物をまとめ、スーツケースをラウンジまで運んである。
最後の朝食はバイキングではなく、全員に同じモーニングプレートが提供された。
トマトとキノコのオムレツは美味しく、ふわふわなパンとよく合った。
僕の隣にはミツバくんが座っていたけれど、まだ挨拶程度の会話しか交わせていない。
「このパン、美味しいね」
小さな声で話しかけると、彼は何か考え事をしていたのか、ビクッと驚き「え?」と聞き返してくる。
「ううん、なんでもない」
「えー、皆さまお食事中に失礼いたします。支配人代理の藤原が不在ですので、預かっておりますメッセージを読み上げさせていただきます」
フロントの男性が声を張り上げる。
『6泊7日間、お疲れ様でした。編集時間が短くて恐縮ですが、1週間以内に動画を完成させ、弊社までお送りください。まず支配人が内容を確認させていただきます。その後一斉にアップロードとなります』
「鬼スケジュールだな」
イタルさんが、小さな声で呟いた。
早くも現実に戻る話で、YouTuberたちの顔は真剣なものになる。
『また、SNS宣伝用に15秒程度のショート動画もお一人3本、ご提出ください。こちらも支配人がチェックをし、藤原が撮影したものと見比べ、どちらを使用するか、判断してもらいます』
万が一、藤原さんが撮影したBL風メイキングショート動画が採用されたら、僕の顔もバンバン映っているだろう。
今は「それならそれでもいいか」という、投げやりな気分だ。
『サポートスタッフの皆さんには、アップロードのタイミングをメールにてお知らせいたします。ぜひ、ご自身の周りの方々にも視聴をオススメください。皆さま、どうぞお気をつけてお帰りくださいませ』
「藤原からは以上です」
レストランには、ナイフやフォークを使う音だけが響いて、楽しく雑談する者はいなかった。
おそらくYouTuberたちの頭の中は、もう編集のことでいっぱいなのだろう。
—
全員が乗り込んだ小型船の中で、僕は自分のカメラを回し、どんどんと離れていく赤樹島を撮り続けた。
そうしていないと、また泣いてしまいそうだったから。
島はみるみると小さくなり、やがて見えなくなる。
なにもかも夢だったように思えてきた。
全ての思い出は島に置いてきたんだ。
地蔵岩の近くに、穴を掘って埋めてきた。
そんなイメージを頭の中で何度も何度も、再生させる。
そのお陰で、高ぶった感情は少しずつ静まっていった。
到着した港には、マイクロバスが待っていた。
僕ら全員を空港まで運んでくれるらしい。
僕の隣の席には、ごく自然にミツバくんが座った。
けれど特に会話は生まれず、ただただバスに揺られ続ける。
幸いなことに、ここで縁が切れたとしても、僕はミツバくんの動向を知ることができるのだ。
YouTubeチャンネルをフォローすれば、常に彼を見ることができるから。
これからは20万人いるフォロワーの1人として、彼を応援したい。
「あと5分ほどで空港に到着いたします」
運転手が皆にそう告げたとき、ミツバくんが話しかけてきた。
「これ、マナトにあげるよ」
ポケットの中から、赤い宝石を一粒出して見せてくれた。
「え?」
「宝箱に入ってた宝石の中で一番綺麗なやつ。イミテーションだけどね」
「いいの?ありがとう」
僕の手のひらにのせられたそれは、ミツバくんがずっと握っていたのか、温かくなっていた。
「最後の最後まで、フェイクで、ごめんな……」
僕は首を横に振った。
「でも俺、マナトとチームを組めて、一緒に撮影できて、本当に良かった。この気持ちは少しもフェイクじゃないから」
その言葉をきっかけに、僕らはようやくしっかりと見つめ合う。
「お疲れさまでした。到着となりまーす。お降りになる際に、航空券をお配りしますので、名前をおっしゃってください」
運転手の声で、皆が座席から立ち上がり、僕らの絡み合った視線もほどけてしまった。
—
「あれ?みんな同じ時間じゃないんだね、飛行機」
「ホントだ。サポートスタッフのほうが、1時間早い便じゃん」
「手配のタイミングが違ったんですかね?」
どうやら僕ら5人は、ゆっくりお土産を買う時間も無さそうだ。
「では、お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
「動画アップされた、必ず見ます」
手を振るYouTuber5人に頭を下げ、僕らは保安検査の列に並ぶ。
その間、ミツバくんは、真っ直ぐに僕だけを見続けてくれていた。
それだけで、もう、満足だった。
僕は彼から目線を外し、検査場の方を向く。
そのとき。
「マナト!」
ミツバくんが大きな声で、僕の名前を呼んだ。
彼のほうを振り返ると、両手を振ってくれていた。
「またな、マナト!」
あぁ、やっぱりこの人が好きだ。
気持ちを島に置いてくることは、できなかったようだ……。
「またね、ミツバくん!」
僕は、うれしくてうれしくて、両手を大きく伸ばして、手を振り返す。
一足早く飛び立った機内では、彼にもらった赤い宝石を握りしめ、「また」が来ることを祈り続けた。



