僕はミツバくんに我が儘を言った。
「僕が持参したカメラでも、この赤樹島を撮影したいから、自由時間を貰ってもいい?」
「マナトがそうしたいなら、いいよ」
「ありがとね」
僕は昼食用にバイキングのパンをいくつか持ち、彼に見送られて森へと入っていく。
万が一にも迷子になって迷惑を掛けるのは嫌だったから、灯台から離れすぎない場所で、当てもなくカメラを回して時間を潰す。
そして、頃合いを見てホテルに戻り、あとは部屋のベッドで天井を眺めて過ごした。
フェイクBLが撮り終わった今、僕は気持ちの持って行き場を失っている……。
—
この島で過ごす最後の夜は、バーベキューパーティでの打ち上げだった。
初日のバーベキューとは、少しずつ食材が変わっていて、メインは焼きガニとかなり豪華。
場所も屋上ではなく、船着き場近くの海岸で行われた。
皆、撮影が終わった開放感で、はしゃいでいる。
飲んで、食べて、ふざけまくって、また食べて。
さすがにメイキングカメラももう回っておらず、彼らクルーも一緒にカニを頬張った。
噂によると藤原さんは仕事の都合で、昼過ぎの船で島を出たらしい。
誰と誰がチームを組んで撮影していたという括りは、もうなくなっていた。
皆で一緒になってスイカの早食い対決をしたり、なぜか腕相撲大会が始まったり。
僕も必死にその輪に溶け込み、余計なことを考えないよう努めた。
空の様子は刻一刻と、変わっていく。
真っ赤な夕焼けで満たされて、太陽は海へと溶けてゆき、森からは大きな満月が登って、夜空には星が瞬く……。
ふと気を抜いたら、その美しさに引きずられ、涙が流れてしまいそうだ。
「フロントの人が花火くれたから、やろうぜ」
ユーキさんが大量の手持ち花火をもらってきた。
彼はテキパキとろうそくを砂浜に埋めて、ライターで火をつける。
「ほら、マナトくんも。こっちこっち」
ユーキさんが手招きをしている。
ダメだ、ダメだ。
最後まで、楽しく愉快に過ごさなくては。
「ありがとう。うん、僕もやる」
僕は何気なさを装って、ミツバくんがいるのとは逆方向へ進み、花火を振り回す。
「綺麗!」
隣にいたナーゴさんが「これもあげる」と1本くれて、僕は両手で花火を楽しんだ。
かなりの本数があったけれど、僕らは次から次へと火をつけ、それを消費してゆく。
いつの間にか、バーベキューコンロは片づけられていて、今度はキャンプファイヤーのような焚火が始まった。
僕らは段々と疲れてきて、炎を眺めるために焚火を囲んで座り込み、まったりとし始める。
—
棒切れにマシュマロを刺し、火にかざしながら、イタルさんが言う。
「楽しかったなー、すごく楽しかった。それにいい島だった。俺たちってさ、高校生ぐらいからYouTubeに動画あげることに必死になってた面子でしょ?こういうThe青春って出来事に疎かったから、いい経験になったよ」
「本当に、楽しかったです。サポートスタッフの皆もいい人ばかりで、一緒に過ごせて幸せでした」
「え?ちょっと待って、ナーゴが、泣いてるんだけど」
「だって、だって……。帰りたくない。僕はずっとこの島で、このメンバーで暮らしたい……」
炎は赤く赤く燃え上がる。
僕と対角線上にいるミツバくんは何も発言せずに、ただ座っていた。
僕の頭の中には、この数日間が、短編映画のように蘇る。
知らぬ間に恋が始まって、溢れ出るほど膨らんで、最後は綺麗に燃えあがった……。
今は、その思い出を宝箱にギューギューと詰める作業をしている。
そして明日、この島を出るときに、その宝箱を地蔵岩の下に埋めてしまいたい。
だって、持ち帰ったら、苦しいのが分かっているから。
きっともう、ミツバくんと会える機会は訪れないのだから。
それでもこの島で、僕は成長した。
自分が男の子を好きだと言う気持ちを、フェイクのフリだとしても口に出せた。
それは僕にとって、大きな大きな出来事だった。
「え、なんで?マナトも泣いてるじゃん」
「い、いや、僕は。ナーゴさんのもらい泣きで……」
「なんだよ、それ。ほら、ミツバ、こっち来て世話してやって」
ミツバくんが立ち上がって、こっちに向かって歩いてくる。
「そういえばさ、2人のフェイクBL動画は無事撮り終わったの?」
「あぁ、無事に」
ミツバくんがそう答えた。
僕の涙は、まだ止まらない。
「俺もこの島に来てよかったし、フェイクBL動画も、すごく楽しく撮影できた。マナトは?マナトも楽しかった?なんなら、もう少し、フェイクBL続けちゃう?」
ふざけた口調で、けれど真剣な目でそう告げたミツバくんに、僕の隣にいたイタルさんが、ボソッと呟く。
「ミツバのそういうズルいとこ、ホント良くないよ」
その声が僕には聞こえた。
ミツバくんにも聞こえたかは分からない。
「そろそろ、部屋に戻るか。明日も早いし」
ユーキさんが告げた言葉に、皆は静かに頷いた。
「僕が持参したカメラでも、この赤樹島を撮影したいから、自由時間を貰ってもいい?」
「マナトがそうしたいなら、いいよ」
「ありがとね」
僕は昼食用にバイキングのパンをいくつか持ち、彼に見送られて森へと入っていく。
万が一にも迷子になって迷惑を掛けるのは嫌だったから、灯台から離れすぎない場所で、当てもなくカメラを回して時間を潰す。
そして、頃合いを見てホテルに戻り、あとは部屋のベッドで天井を眺めて過ごした。
フェイクBLが撮り終わった今、僕は気持ちの持って行き場を失っている……。
—
この島で過ごす最後の夜は、バーベキューパーティでの打ち上げだった。
初日のバーベキューとは、少しずつ食材が変わっていて、メインは焼きガニとかなり豪華。
場所も屋上ではなく、船着き場近くの海岸で行われた。
皆、撮影が終わった開放感で、はしゃいでいる。
飲んで、食べて、ふざけまくって、また食べて。
さすがにメイキングカメラももう回っておらず、彼らクルーも一緒にカニを頬張った。
噂によると藤原さんは仕事の都合で、昼過ぎの船で島を出たらしい。
誰と誰がチームを組んで撮影していたという括りは、もうなくなっていた。
皆で一緒になってスイカの早食い対決をしたり、なぜか腕相撲大会が始まったり。
僕も必死にその輪に溶け込み、余計なことを考えないよう努めた。
空の様子は刻一刻と、変わっていく。
真っ赤な夕焼けで満たされて、太陽は海へと溶けてゆき、森からは大きな満月が登って、夜空には星が瞬く……。
ふと気を抜いたら、その美しさに引きずられ、涙が流れてしまいそうだ。
「フロントの人が花火くれたから、やろうぜ」
ユーキさんが大量の手持ち花火をもらってきた。
彼はテキパキとろうそくを砂浜に埋めて、ライターで火をつける。
「ほら、マナトくんも。こっちこっち」
ユーキさんが手招きをしている。
ダメだ、ダメだ。
最後まで、楽しく愉快に過ごさなくては。
「ありがとう。うん、僕もやる」
僕は何気なさを装って、ミツバくんがいるのとは逆方向へ進み、花火を振り回す。
「綺麗!」
隣にいたナーゴさんが「これもあげる」と1本くれて、僕は両手で花火を楽しんだ。
かなりの本数があったけれど、僕らは次から次へと火をつけ、それを消費してゆく。
いつの間にか、バーベキューコンロは片づけられていて、今度はキャンプファイヤーのような焚火が始まった。
僕らは段々と疲れてきて、炎を眺めるために焚火を囲んで座り込み、まったりとし始める。
—
棒切れにマシュマロを刺し、火にかざしながら、イタルさんが言う。
「楽しかったなー、すごく楽しかった。それにいい島だった。俺たちってさ、高校生ぐらいからYouTubeに動画あげることに必死になってた面子でしょ?こういうThe青春って出来事に疎かったから、いい経験になったよ」
「本当に、楽しかったです。サポートスタッフの皆もいい人ばかりで、一緒に過ごせて幸せでした」
「え?ちょっと待って、ナーゴが、泣いてるんだけど」
「だって、だって……。帰りたくない。僕はずっとこの島で、このメンバーで暮らしたい……」
炎は赤く赤く燃え上がる。
僕と対角線上にいるミツバくんは何も発言せずに、ただ座っていた。
僕の頭の中には、この数日間が、短編映画のように蘇る。
知らぬ間に恋が始まって、溢れ出るほど膨らんで、最後は綺麗に燃えあがった……。
今は、その思い出を宝箱にギューギューと詰める作業をしている。
そして明日、この島を出るときに、その宝箱を地蔵岩の下に埋めてしまいたい。
だって、持ち帰ったら、苦しいのが分かっているから。
きっともう、ミツバくんと会える機会は訪れないのだから。
それでもこの島で、僕は成長した。
自分が男の子を好きだと言う気持ちを、フェイクのフリだとしても口に出せた。
それは僕にとって、大きな大きな出来事だった。
「え、なんで?マナトも泣いてるじゃん」
「い、いや、僕は。ナーゴさんのもらい泣きで……」
「なんだよ、それ。ほら、ミツバ、こっち来て世話してやって」
ミツバくんが立ち上がって、こっちに向かって歩いてくる。
「そういえばさ、2人のフェイクBL動画は無事撮り終わったの?」
「あぁ、無事に」
ミツバくんがそう答えた。
僕の涙は、まだ止まらない。
「俺もこの島に来てよかったし、フェイクBL動画も、すごく楽しく撮影できた。マナトは?マナトも楽しかった?なんなら、もう少し、フェイクBL続けちゃう?」
ふざけた口調で、けれど真剣な目でそう告げたミツバくんに、僕の隣にいたイタルさんが、ボソッと呟く。
「ミツバのそういうズルいとこ、ホント良くないよ」
その声が僕には聞こえた。
ミツバくんにも聞こえたかは分からない。
「そろそろ、部屋に戻るか。明日も早いし」
ユーキさんが告げた言葉に、皆は静かに頷いた。



