色々あって、BL動画を撮ることになりました

10時にミツバくんの部屋に来るよう、指示をされた。

昨日も思ったけれど、BL動画を撮影し始めてから、ポツポツと変な空き時間がある。
朝食後の今もそうだ。

僕が一度熱中症で倒れたから、ミツバくんが気を遣ってくれているのだろうか。
でも、その気遣いのせいで、満足いくものが出来上がらなかったら本当に申し訳ない。

そう考え、約束の10時より15分ほど早く、ミツバくんの部屋を訪れてみることにした。
なにしろこの企画『【BL】24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』が終わるまで、残り2時間しかないのだから。

部屋のドアをノックしようとしたとき、中から声がすることに気が付いた。

誰か来ているのだろうか?
他のメンバーは、外へ撮影に行っているはずだ。
藤原さん?とも思ったけれど、彼女だったら部屋には招き入れないだろう。

僕は辺りを見渡し、誰の目もないことを確かめて、ドアに耳をつけた。
声はミツバくんのものしか聞こえない。
もしかして、誰かと電話している?

盗み聞きの罪悪感を感じながらも、僕は耳を澄まし、彼の会話を聞き取った。

『・・・んだ。で、もうすぐ10時。アイツが部屋に来る。もしも、もしもアイツが俺に告白してくれたら、この企画は成功と言えるだろう。ここまで何度かに分けて、カメラの前で語ってきたように、俺の気持ちだって、溢れてしまいそうなんだ……。はぁ、こんな企画、始めなければよかったな』

僕は息を止め、音を立てぬようドアから離れ、一旦自分の部屋へ戻る。
そして、大きく息を吐き出す。

あれは電話ではない。
ミツバくんは、僕が空き時間だと感じていたタイミングで、カメラに向かって独白する動画を撮っていたのだ。

『俺の気持ちだって、溢れてしまいそうなんだ……』
わかってる、わかってる。
彼は、フェイクドキュメンタリーの名手だと。

自分で財宝を埋める動画を撮って、それを掘り起こす動画をエンタメとして撮れるような人なんだと。

今の僕にできることは、彼の動画を成功へと導くことだけ……。



僕はあることを決意し、大きく深呼吸をした。

「よし」

10時ちょうどになって、カメラを構えミツバくんの部屋をノックする。

「はい」

彼は笑顔で迎え入れてくれた。
ミツバくんの部屋は森が見える僕の部屋と違って、海が一望できる。

「このホテルさ、娯楽として用意してるのは、オセロとトランプとUNOと、ジェンガだけなんだって。オマエはどれがいい?」

「うーん、ジェンガかな」

「いいね!」

窓際のローテーブルを挟んで、僕らは向かい合わせに座る。

そして、彼がジェンガを並べている間に、僕は背後に三脚を立て、カメラを固定した。
これで僕の後頭部、ジェンガ、その向こうにミツバくんという構図が撮れるはずだ。

「じゃ、俺からね」

危なげなく、1本ずつブロックが引き抜かれていく。
進んでいくごとに、ミツバくんはわざとグラグラと揺れそうな箇所を、取ったりする。

「ミツバくん、そこはダメ、危ない!あー、もー、ドキドキする。こういうの、性格でるよね」

「なんだよ。オマエも性格出てるよ。慎重派なんだなって。もっと攻めてこいよ」

だんだんと取れる場所が無くなっていって、ミツバくんは身を乗り出し、いけそうなブロックを探す。

ジェンガの塔はグラグラと揺れていて……。
僕の恋のコップもそれに伴って揺れて、今にも溢れてしまいそうだ。

「よし、ここなら、いけるだろ」

少しずつ少しずつ、ブロックを押し出すミツバくん。
グラ、グラ、グラグラ……。
絶妙に保っていたバランスが崩れ、ジェンガの塔は「ガシャン!」と倒壊する。

その瞬間、僕はミツバくんの唇に、自分の唇を重ねた。

ほんの一瞬の出来事。
彼は驚いた顔をしている。
ジェンガが崩れたこと、僕が不意打ちにキスをしたこと、両方にびっくりしたのだろう。

背後のカメラは僕の後頭部が彼に近づいたことしか、捉えていない。
それでも、この彼の顔を見れば、僕がキスしたと視聴者は気が付くはず。

「ミ、ミツバくん……、こんな企画、残酷だよ……。好きになっちゃうに決まってるじゃん……」

ミツバくんは困ったように眉毛を八の字にしたのち、僕の腕を掴み、ぐっと引き寄せる。

「俺も、俺もオマエを好きになっちゃったよ」

足元にジェンガが散らばる中、ミツバくんは僕を抱きしめてくれた。
僕は彼の肩口に顔を埋め、フェイクだと分かっていても嬉しくて、幸せを噛みしめる。

これで、この動画企画も、無事成功したはずだ……。

だから僕は、ミツバくんが「カット」と声をかけるのを待っていた。
でも、その声はいつまで経っても、聞こえない。

ついさっきまで必死だった僕は、だんだんと自分がミツバくんにキスしたことや、告白したことを実感し始める。

キスしちゃったんだ……。
顔が熱くなり、堪らなく恥ずかしくなって、彼に問う。

「ねぇ、カットは?」

「ん?」

「ミツバくん……カットって、言ってよ……」

少しの間をおいてから、掠れた小さな声で彼がようやく口にする。

「あっ、うん。カット……」

僕はその言葉を聞くとともに、彼から離れ、距離をとった。