色々あって、BL動画を撮ることになりました

敷き詰められた敷物やクッションに埋もれるように寝ていた僕は、ゆっくりと目を覚ます。
屋上に設置されたテントの中は、朝の陽射しで既に明るかった。

「スースー」と穏やかな寝息が聞こえ、横を向くと、至近距離にミツバくんの顔がある。
閉じられた瞼。
長い睫毛。
顔にかかる金色の髪。

僕は彼が熟睡していることを確かめ、そのサラサラとした髪にそっと触れ、光にかざす。

「ミツバ、くん」

小さな小さな声で彼の名を呼んでみた。
瞼が少しだけピクピクと動いたけれど、彼はまだ夢の中。
僕はより大胆に、彼との距離を5センチ縮める。
彼が気付いた様子はない。

僕は悪戯する子どものような気分で、さらに5センチ、彼にくっつく。
足の先が触れ合い、ミツバくんの体温を感じた。
そこから、どれくらい彼の顔を眺めていただろう……。

ミツバくんが「んっ」と小さく声を出し、モゾモゾと動いた。
僕は咄嗟に目を瞑り、「スースー」と呼吸をして寝たふりをする。

隣でガサゴソと、微かな音がしていた。
おそらく彼は枕元に置いていたスマホに、手を伸ばしたのだ。

現在時刻を見たミツバくんは、「もう起きなくては」と思うだろうか。
そしたら、寝たふりをしている僕を残して、テントから出てしまうかもしれない。
それとも「おはよう」と僕を起こすだろうか。

……。
ミツバくんが起きる気配は、ない。
ただ、じっと見られているような視線を感じる。
どうしよう、狸寝入りだとバレたかもしれない。
目を開けて、たった今、目を覚ました振りをしようか。

突然、おでこを触られた感触があった。
そしてミツバくんは、小さな小さな吐息のような声を発した。

「マナト……」

瞼が少しだけ動いてしまったかもしれない。
それでも今更、目を開けられず、スースーと穏やかな呼吸を装う。

ミツバくんの手が僕の肩に触れた。

「……!」

ドキリと心臓が飛び出そうになる。
彼は抱き枕でも抱くように、僕をやさしく抱きしめたのだ。

ミツバくんの呼吸が、すぐ耳元で聞こえる。
穏やかさのない、重くため込んだような、切なげな吐息。

さらにゼロ距離だから、彼の匂いを感じる。
熱中症で倒れ、背負ってもらったときにも香ったこの匂い。
あのときは、ミツバくんの匂いだと思ったら僕は安心できて、彼の背で熟睡した。

でも……。
もうこの香りで、リラックスした気持ちには、なれなかった。
安心とは逆に、心臓はバクバクと早鐘を打っている。
僕を抱きしめているミツバくんにも聞こえてしまうのではないかと、心配になるほど大きな音で。

そうしてようやく、気が付いたんだ。
僕はミツバくんが好き、だと。

男の子を好きになってはいけないと、ずっとずっと自制してきたけれど、この赤樹島にきて、いつの間にか気持ちは大きく膨らんでいた。
好き、好き、大好き。

ミツバくんは?
彼は僕をどう思っているのだろう。

ふと、昨日言われた言葉を思いだす。

『マナト、こういう企画はさ、映っていないときにこそ、関係を深めないと。それがおのずと次のシーンに現れるはずだから』

なるほど……。
だから、僕を抱きしめてくれているのか。
プロフェッショナルなミツバくんは、こうやって良い動画を撮るために、気持ちを高めているのかもしれない。

「フェイク」でもいい。
例え、それっぽい偽物だとしても、僕はこれを甘受したい。
僕の大切な初恋として、時間いっぱいまで、この幸せに包まれたい。

僕を抱きしめたままのミツバくんと、ずっと寝たふりをする僕。
テントの中の二人きりの、甘く静かな世界……。



そんな世界が崩れたのは一瞬だった。

「ピーヒョロロ」

テントのすぐ上で、鳥の鳴き声が聞こえた。
ミツバくんは、僕から手を離し、上半身を起こす。
僕も、今起きたような顔をして、目を開けた。

テントには巨大な鳥が羽を広げている影が映っていて、「うわー」と思わず声が出る。
バサッバサッという羽ばたきが聞こえ、その鳥は、テント上部に留まった。

「今の鳴き声、トンビだな」

「ト、トンビ?」

さらにバタバタと階段を上がり、屋上へ人が駆けてくる音がする。

「返せ!トンビ。それは僕のノコギリクワガタだぞ!」

ナーゴさんの声だ。
僕も、ミツバくんも、何事かとテントから出た。
トンビはその気配に驚いたのか、森の奥へ飛んでいった。

「どうした、ナーゴ?」

「あー、トンビに僕のノコギリクワガタを捕られたー。ムカつく―。ていうか、ミツバたち、まだ寝てたのか?しかもこんな太陽が降り注ぐ屋上で」

「……あぁ」

「また熱中症になるぞ。二人とも汗だくじゃないか。さ、下に行って何か飲んだほうがいい」

ナーゴさんはそれだけ言って、また階段を駆け下りていった。

「おはよう、マナト」

改めてミツバくんに挨拶される。
好きだと自覚してしまった今、僕は、それだけでクラクラしてしまいそうだった。

「え?ホントにまた熱中症?大丈夫か、マナト!」

「だ、大丈夫。違うんだ……」

僕は首を横に振ることしか、できなかった。