ホテルに戻ると、ちょうど、サイカワチームとユーキさんも、びしょ濡れで戻ってきていた。
「どうだった?土器は焼けたか?」
ミツバくんが問うと、サイカワさんは悲しそうに首を振る。
「雨で火が消えちゃって、生焼けですよ。まぁ、動画としてはオイシイとも言えますけど……。まだ焼いてないのが半分あるので、明日こそ、成功させます!」
「そっちのデートは?」
ユーキさんが「デート」という言葉を使い、僕はドキリとしてしまう。
けれど、ミツバくんはサラッと返事をする。
「こっちも雨のせいでプラン変更だ」
「おっ、フェイクの恋も生焼けってことですか?」
サイカワさんが、びっくりするような親父ギャグを口にし、僕らはシーンと静まり返った。
……この人、本当に元アイドルとの結婚に至るのだろうか?
「マナト、部屋でシャワー浴びて、少し休むといい。次は18時にレストランで」
僕らは皆、自室へ戻った。
—
18時。
カメラを回しながらレストランへ行くと、いつもより照明が落とされ、ジャジーな曲が流れていた。
窓際のテーブルには、通常とは違う臙脂色のテーブルクロスがかけられ、花も飾られている。
「なにこれ?」
「ん?頼むとこういう演出もやってくれるんだって。プロポーズしたいカップルとかが利用するらしい」
「プ、プロポーズ?」
「とにかく、座ってよ」
ミツバくんが椅子を引いてくれた。
「あ、ありがとう……」
続いてウエイターがやってきて「お飲み物は?」と訊いてくれた。
「オマエも、シャンパンでいい?」
「え。あ、うん」
そこに今度は、ユーキさんのサポートスタッフが現れた。
「カメラ、変わります」
「へ?」
「僕がマナトさんの背後から撮ります。そのようにミツバさんに頼まれてますから」
「そ、そうなんだ」
何もかも、いつものバイキングとは違う食事が始まった。
よく見ると、ウエイターをしているのは、いつもフロントにいる人だ。
どうやら今から食べるのはコース料理のようで、まずは前菜のカルパッチョが運ばれてきた。
「ねぇねぇ、ミツバくん」
僕は小声で彼に尋ねる。
「ん?どうした」
彼は澄ました美しい顔でナイフとフォークを使いながら返事をくれたが、この状況はどう考えてもおかしい。
すぐ横に、メイキングカメラのクルーがいて、僕らにレンズを向けていた。
さらに隣のテーブルには、食事をするわけでもない、ナーゴさん、ユーキさん、サイカワさん、イタルさんがこちらを眺めている。
「ミツバのお手並み拝見」ということらしい。
彼らは撮影に差し障りがないようにと、無言でそこにいるから、余計に違和感を生み出していた。
「いや、これってさ……」
「ここは撮影だって割り切ってほしい」
「……そっか、うん。そうだね、ごめん」
ギャラリーがいる撮影。
そう考えたら、全く珍しいことではない。
サイカワさんが土器を焼くのを、ユーキさんが見に行ったのと同じである。
僕が「これはデートだ」って意識で取り組んでいるから、おかしいと思うのだ。
「これは撮影だ」
そう自分に言い聞かせ、高価なコース料理を味も良くわからず、せっせと口へと運んだ。
—
食事が終わり、一旦部屋へ戻る。
今度は「22時に屋上へ来るように」と指示されていた。
「もうギャラリーはいないから、安心して」
ミツバくんがそう言い切るということは、大丈夫なのだろう。
もしかすると藤原さんと、夕食を撮影させるかわりに……といった交渉があったのかもしれない。
時間になりカーディガンを羽織った僕は、カメラを回しながら屋上へ続く階段を登る。
そこにあったのは、ランタンの光と、テントだった。
「うわー、キャンプだ!」
ミツバくんは僕の手を引いて、テントの中へ誘導する。
たくさんの敷物やクッションが敷き詰められ、フワフワの寝床が出来上がっていた。
心が落ち着くようなアロマも、焚かれている。
「このホテル、こういう貸し出しもあるんだって」
「今夜は、ここで眠るの?」
「そのつもり。どう?」
「めっちゃいい!」
僕は、羽織っていたカーディガンを脱いで、テントの中へダイブする。
「気に入ってくれて、よかった」
ミツバくんは、ホッとした顔をし、僕の横に寝転んだ。
画面の向こうの視聴者も、彼が添い寝してるように感じる動画を、撮影する。
ミツバくんの手は一瞬躊躇ったのち、僕の頭に伸びてきて「いいこいいこ」するように撫でてくれた。
さっきの夕食の席とは違い、フェイクだろうとなんだろうと、二人きりの幸せが満ちている空間だ。
それゆえに、疲れていた僕は段々と眠くなってしまう。
「いいよ。このまま眠っても」
柔らかな声が僕に言う。
「寝ないよ、まだ」
そう返事をしても、瞼は重くなってゆく。
ミツバくんが僕の手からカメラを取り、停止ボタンを押したのがわかった。
でも、もう目を開けることはできなかった。
—
ふと目が覚めたとき、隣にミツバくんはいなかった。
僕はズボンのポケットに入れたままだったスマホで、時間を確認する。
夜中の2時だ。
テントから出て、彼を探しに行こうとすると、その姿はすぐに見つかった。
美しい人は、屋上に置かれた椅子に座って、一人星を眺めている。
「ごめん。一人だけ先に寝ちゃった。ミツバくんは眠れないの?」
彼はただ首を横に振る。
なぜかミツバくんの手には僕のカーディガンが握られていた。
「寒いでしょ?それ羽織っていいよ」
「大丈夫……。星が綺麗だったから。ちょっと眺めていただけだよ。一緒にテントに戻ろうか」
「うん」
穏やかな気持ちの僕に引き換え、ミツバくんはなんだかソワソワとしているように感じた。
再び僕が微睡みかけたとき、彼が呟いた言葉の意味が、寝ぼけ半分の僕には、全くわからなかった。
「BL漫画の課題図書、4冊目と5冊目も読んでもらうべきだったよ、マナト」
「どうだった?土器は焼けたか?」
ミツバくんが問うと、サイカワさんは悲しそうに首を振る。
「雨で火が消えちゃって、生焼けですよ。まぁ、動画としてはオイシイとも言えますけど……。まだ焼いてないのが半分あるので、明日こそ、成功させます!」
「そっちのデートは?」
ユーキさんが「デート」という言葉を使い、僕はドキリとしてしまう。
けれど、ミツバくんはサラッと返事をする。
「こっちも雨のせいでプラン変更だ」
「おっ、フェイクの恋も生焼けってことですか?」
サイカワさんが、びっくりするような親父ギャグを口にし、僕らはシーンと静まり返った。
……この人、本当に元アイドルとの結婚に至るのだろうか?
「マナト、部屋でシャワー浴びて、少し休むといい。次は18時にレストランで」
僕らは皆、自室へ戻った。
—
18時。
カメラを回しながらレストランへ行くと、いつもより照明が落とされ、ジャジーな曲が流れていた。
窓際のテーブルには、通常とは違う臙脂色のテーブルクロスがかけられ、花も飾られている。
「なにこれ?」
「ん?頼むとこういう演出もやってくれるんだって。プロポーズしたいカップルとかが利用するらしい」
「プ、プロポーズ?」
「とにかく、座ってよ」
ミツバくんが椅子を引いてくれた。
「あ、ありがとう……」
続いてウエイターがやってきて「お飲み物は?」と訊いてくれた。
「オマエも、シャンパンでいい?」
「え。あ、うん」
そこに今度は、ユーキさんのサポートスタッフが現れた。
「カメラ、変わります」
「へ?」
「僕がマナトさんの背後から撮ります。そのようにミツバさんに頼まれてますから」
「そ、そうなんだ」
何もかも、いつものバイキングとは違う食事が始まった。
よく見ると、ウエイターをしているのは、いつもフロントにいる人だ。
どうやら今から食べるのはコース料理のようで、まずは前菜のカルパッチョが運ばれてきた。
「ねぇねぇ、ミツバくん」
僕は小声で彼に尋ねる。
「ん?どうした」
彼は澄ました美しい顔でナイフとフォークを使いながら返事をくれたが、この状況はどう考えてもおかしい。
すぐ横に、メイキングカメラのクルーがいて、僕らにレンズを向けていた。
さらに隣のテーブルには、食事をするわけでもない、ナーゴさん、ユーキさん、サイカワさん、イタルさんがこちらを眺めている。
「ミツバのお手並み拝見」ということらしい。
彼らは撮影に差し障りがないようにと、無言でそこにいるから、余計に違和感を生み出していた。
「いや、これってさ……」
「ここは撮影だって割り切ってほしい」
「……そっか、うん。そうだね、ごめん」
ギャラリーがいる撮影。
そう考えたら、全く珍しいことではない。
サイカワさんが土器を焼くのを、ユーキさんが見に行ったのと同じである。
僕が「これはデートだ」って意識で取り組んでいるから、おかしいと思うのだ。
「これは撮影だ」
そう自分に言い聞かせ、高価なコース料理を味も良くわからず、せっせと口へと運んだ。
—
食事が終わり、一旦部屋へ戻る。
今度は「22時に屋上へ来るように」と指示されていた。
「もうギャラリーはいないから、安心して」
ミツバくんがそう言い切るということは、大丈夫なのだろう。
もしかすると藤原さんと、夕食を撮影させるかわりに……といった交渉があったのかもしれない。
時間になりカーディガンを羽織った僕は、カメラを回しながら屋上へ続く階段を登る。
そこにあったのは、ランタンの光と、テントだった。
「うわー、キャンプだ!」
ミツバくんは僕の手を引いて、テントの中へ誘導する。
たくさんの敷物やクッションが敷き詰められ、フワフワの寝床が出来上がっていた。
心が落ち着くようなアロマも、焚かれている。
「このホテル、こういう貸し出しもあるんだって」
「今夜は、ここで眠るの?」
「そのつもり。どう?」
「めっちゃいい!」
僕は、羽織っていたカーディガンを脱いで、テントの中へダイブする。
「気に入ってくれて、よかった」
ミツバくんは、ホッとした顔をし、僕の横に寝転んだ。
画面の向こうの視聴者も、彼が添い寝してるように感じる動画を、撮影する。
ミツバくんの手は一瞬躊躇ったのち、僕の頭に伸びてきて「いいこいいこ」するように撫でてくれた。
さっきの夕食の席とは違い、フェイクだろうとなんだろうと、二人きりの幸せが満ちている空間だ。
それゆえに、疲れていた僕は段々と眠くなってしまう。
「いいよ。このまま眠っても」
柔らかな声が僕に言う。
「寝ないよ、まだ」
そう返事をしても、瞼は重くなってゆく。
ミツバくんが僕の手からカメラを取り、停止ボタンを押したのがわかった。
でも、もう目を開けることはできなかった。
—
ふと目が覚めたとき、隣にミツバくんはいなかった。
僕はズボンのポケットに入れたままだったスマホで、時間を確認する。
夜中の2時だ。
テントから出て、彼を探しに行こうとすると、その姿はすぐに見つかった。
美しい人は、屋上に置かれた椅子に座って、一人星を眺めている。
「ごめん。一人だけ先に寝ちゃった。ミツバくんは眠れないの?」
彼はただ首を横に振る。
なぜかミツバくんの手には僕のカーディガンが握られていた。
「寒いでしょ?それ羽織っていいよ」
「大丈夫……。星が綺麗だったから。ちょっと眺めていただけだよ。一緒にテントに戻ろうか」
「うん」
穏やかな気持ちの僕に引き換え、ミツバくんはなんだかソワソワとしているように感じた。
再び僕が微睡みかけたとき、彼が呟いた言葉の意味が、寝ぼけ半分の僕には、全くわからなかった。
「BL漫画の課題図書、4冊目と5冊目も読んでもらうべきだったよ、マナト」



