12時少し前。
慌ただしくノックをされた。
ドアを開けると、ホテルで借りたのだろうエプロンを着たミツバくんが、立っていた。
「ごめん、一つ確認し忘れ。マナトはさ、俺のこと普通に「ミツバくん」って呼んで。俺は、マナトじゃなくて、「オマエ」って呼んでいい?」
「オ、オマエ?」
「いやだって、マナトじゃマズイでしょ?身バレしないようにさ。「君」でもいいけど、どっちがいい?」
「そっか。えっと、オマエで……」
「了解!じゃ、12時にレストランからスタートね」
そう言って、廊下を走っていってしまう。
確かに2本目の動画のときも、ミツバくんは、カメラが回っている場では、僕の名前を呼ばなかった。
あのときは、君ともオマエとも言われなかったけれど、BL動画では、そうもいかないということか。
「オマエ……」
始まる前から、僕の心拍数は上がってしまいそうだった。
—
12時ちょうどにレストランへ行くと、バイキングの食材を使って、ミツバくんがサンドイッチを作っていた。
僕は慌ててカメラを回し、彼に話しかける。
「ミツバくん、何してるの?」
「ん?ランチ作ってる。俺の手作りだよ。といっても、パンに色々挟んでいるだけだけどさ」
すでに出来上がって並んでいるサンドイッチを、カメラで映す。
プレーンオムレツに、コロッケに、焼きそばに、ローストビーフ。
ガッツリ系の具材ばかりだ。
「他に、挟んでほしいものある?オマエの好みも、教えてよ」
早速のオマエにたじろぎながらも「ポテトサラダ」と返事をする。
「あぁいいね。待っててすぐ作るから」
真っ直ぐなカメラ目線で、ミツバくんは僕に笑いかけた。
—
サンドイッチを持って、僕らは灯台に登った。
簡素な展望階には、すでに敷物が敷かれ、ドリンクが入ったクーラーボックスが置かれている。
「うわ、すごい!こんなに準備してくれてたの?」
「当たり前じゃん。『24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』だもん。俺本気でいくよ」
動画としては、ここで、タイトルバックなのだろうか。
カメラは灯台から見える景色をぐるりと映す。
ここ数日、この島の中を歩き周ったけれど、こうして全貌を見るのは初めてだった。
「綺麗な島だね」
「あぁ。俺もこの島、気に入ってる。さ、この景色を見ながら、サンドイッチ食べよ」
「うん」
僕はまず、ローストビーフのサンドイッチを頬張る。
「これ美味しい!」
「だろ?」
満足げにミツバくんが笑ってくれた。
「はい、カット。マナト、カメラ置いていいよ」
突然、名前を呼ばれた。
「へ?」
「24時間もあるんだから、もうこの灯台のシーンはこれでOK」
「そっか。じゃ、急いで食べて次の場所に移動だね」
「違う、違う。ここでゆっくりランチしよう。気持ちいい風と、晴れ渡る景色。変な邪魔も入らない2人で過ごせる最高の場所だから」
カメラ越しに言われる言葉は、意外と照れずに聞けるけれど、直接言われる言葉には、どうしても照れてしまう。
そんな僕の気持ちも知らずに、ミツバくんはサンドイッチを手に取りながら話を進めた。
「マナト、今日はキャップかぶってないんだね」
「炎天下に出たら、ちゃんとかぶるよ」
「そうじゃなくて。髪の毛、セットしてくれたんでしょ?よく似合ってる。Tシャツは、この島に来た日に着てたのだよね。そのブランド、俺も好きなんだ」
「え?最初の日に着てた服なんて、覚えていてくれたの?ていうかさ、こういう会話こそ、撮影したほうがいいんじゃない?僕だけが聞くなんて、もったいないよ」
「もったいないって」
僕の言い分に、彼はゲラゲラと笑う。
「マナト、こういう企画はさ、映っていないときにこそ、関係を深めないと。それがおのずと次のシーンに現れるはずだから」
もっともらしいことを言われた気もするけれど、カメラを構えているほうが気が楽だ。
僕は恥ずかしさを誤魔化すため、よく冷えた炭酸飲料でコロッケサンドを流し込んだ。
—
「次は、白い砂浜へ移動しよう」
よかった。
再び撮影だ。
灯台での荷物を片付け、キャップをかぶり、森の中を進む。
僕はカメラを構え、ミツバくんの数歩先をバックで歩きながら、彼の顔を撮影していた。
「あのさ、この島に来て、初めてした会話、覚えてる?」
「うん。僕のキャップが風で舞ったのを、ミツバくんが拾ってくれたんだよね。で「風強いね」って言ってくれた」
「覚えててくれたんだ」
「なんて綺麗な髪だろうって思った。金色に光が当たって透き通っているみたいだった。さすが「黄金の貴公子」だって」
今もちょうど逆光で、ミツバくんは輝いている。
「その呼び名、恥ずかしいからやめて。オマエ、あのとき船の中でもずっとキャップかぶってただろ?だからキャップが風で取れた瞬間、初めて表情が見えたんだ。慌てて焦った顔、可愛かった」
「な、なにそれ」
動揺した僕は、木の根っこに躓いてしまう。
「うわぁ」
「おっ、と」
危うく倒れそうになった僕の腰を、さっとミツバくんが支えてくれた。
撮影のプロを目指している僕が、こんな初歩的なミスをするなんて……。
「大丈夫?」
顔を覗き込んでいたミツバくんの優しそうな顔に、とりあえずいいシーンが撮れたと思うことにする。
でも、この人に24時間口説かれるという過酷さを、僕は再認識した。
慌ただしくノックをされた。
ドアを開けると、ホテルで借りたのだろうエプロンを着たミツバくんが、立っていた。
「ごめん、一つ確認し忘れ。マナトはさ、俺のこと普通に「ミツバくん」って呼んで。俺は、マナトじゃなくて、「オマエ」って呼んでいい?」
「オ、オマエ?」
「いやだって、マナトじゃマズイでしょ?身バレしないようにさ。「君」でもいいけど、どっちがいい?」
「そっか。えっと、オマエで……」
「了解!じゃ、12時にレストランからスタートね」
そう言って、廊下を走っていってしまう。
確かに2本目の動画のときも、ミツバくんは、カメラが回っている場では、僕の名前を呼ばなかった。
あのときは、君ともオマエとも言われなかったけれど、BL動画では、そうもいかないということか。
「オマエ……」
始まる前から、僕の心拍数は上がってしまいそうだった。
—
12時ちょうどにレストランへ行くと、バイキングの食材を使って、ミツバくんがサンドイッチを作っていた。
僕は慌ててカメラを回し、彼に話しかける。
「ミツバくん、何してるの?」
「ん?ランチ作ってる。俺の手作りだよ。といっても、パンに色々挟んでいるだけだけどさ」
すでに出来上がって並んでいるサンドイッチを、カメラで映す。
プレーンオムレツに、コロッケに、焼きそばに、ローストビーフ。
ガッツリ系の具材ばかりだ。
「他に、挟んでほしいものある?オマエの好みも、教えてよ」
早速のオマエにたじろぎながらも「ポテトサラダ」と返事をする。
「あぁいいね。待っててすぐ作るから」
真っ直ぐなカメラ目線で、ミツバくんは僕に笑いかけた。
—
サンドイッチを持って、僕らは灯台に登った。
簡素な展望階には、すでに敷物が敷かれ、ドリンクが入ったクーラーボックスが置かれている。
「うわ、すごい!こんなに準備してくれてたの?」
「当たり前じゃん。『24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』だもん。俺本気でいくよ」
動画としては、ここで、タイトルバックなのだろうか。
カメラは灯台から見える景色をぐるりと映す。
ここ数日、この島の中を歩き周ったけれど、こうして全貌を見るのは初めてだった。
「綺麗な島だね」
「あぁ。俺もこの島、気に入ってる。さ、この景色を見ながら、サンドイッチ食べよ」
「うん」
僕はまず、ローストビーフのサンドイッチを頬張る。
「これ美味しい!」
「だろ?」
満足げにミツバくんが笑ってくれた。
「はい、カット。マナト、カメラ置いていいよ」
突然、名前を呼ばれた。
「へ?」
「24時間もあるんだから、もうこの灯台のシーンはこれでOK」
「そっか。じゃ、急いで食べて次の場所に移動だね」
「違う、違う。ここでゆっくりランチしよう。気持ちいい風と、晴れ渡る景色。変な邪魔も入らない2人で過ごせる最高の場所だから」
カメラ越しに言われる言葉は、意外と照れずに聞けるけれど、直接言われる言葉には、どうしても照れてしまう。
そんな僕の気持ちも知らずに、ミツバくんはサンドイッチを手に取りながら話を進めた。
「マナト、今日はキャップかぶってないんだね」
「炎天下に出たら、ちゃんとかぶるよ」
「そうじゃなくて。髪の毛、セットしてくれたんでしょ?よく似合ってる。Tシャツは、この島に来た日に着てたのだよね。そのブランド、俺も好きなんだ」
「え?最初の日に着てた服なんて、覚えていてくれたの?ていうかさ、こういう会話こそ、撮影したほうがいいんじゃない?僕だけが聞くなんて、もったいないよ」
「もったいないって」
僕の言い分に、彼はゲラゲラと笑う。
「マナト、こういう企画はさ、映っていないときにこそ、関係を深めないと。それがおのずと次のシーンに現れるはずだから」
もっともらしいことを言われた気もするけれど、カメラを構えているほうが気が楽だ。
僕は恥ずかしさを誤魔化すため、よく冷えた炭酸飲料でコロッケサンドを流し込んだ。
—
「次は、白い砂浜へ移動しよう」
よかった。
再び撮影だ。
灯台での荷物を片付け、キャップをかぶり、森の中を進む。
僕はカメラを構え、ミツバくんの数歩先をバックで歩きながら、彼の顔を撮影していた。
「あのさ、この島に来て、初めてした会話、覚えてる?」
「うん。僕のキャップが風で舞ったのを、ミツバくんが拾ってくれたんだよね。で「風強いね」って言ってくれた」
「覚えててくれたんだ」
「なんて綺麗な髪だろうって思った。金色に光が当たって透き通っているみたいだった。さすが「黄金の貴公子」だって」
今もちょうど逆光で、ミツバくんは輝いている。
「その呼び名、恥ずかしいからやめて。オマエ、あのとき船の中でもずっとキャップかぶってただろ?だからキャップが風で取れた瞬間、初めて表情が見えたんだ。慌てて焦った顔、可愛かった」
「な、なにそれ」
動揺した僕は、木の根っこに躓いてしまう。
「うわぁ」
「おっ、と」
危うく倒れそうになった僕の腰を、さっとミツバくんが支えてくれた。
撮影のプロを目指している僕が、こんな初歩的なミスをするなんて……。
「大丈夫?」
顔を覗き込んでいたミツバくんの優しそうな顔に、とりあえずいいシーンが撮れたと思うことにする。
でも、この人に24時間口説かれるという過酷さを、僕は再認識した。



