色々あって、BL動画を撮ることになりました

朝食の席で、僕はミツバくんに尋ねる。

「今日から撮るBL動画ってシナリオがあるの?」

彼は熱々の白米を、卵かけご飯にしながら、僕の問いに答えてくれる。

「シナリオ、というかタイトルは決まってる」

「なになに?」

僕は白米に明太子をのせながら無邪気に訊いた。

「フェイクドキュメンタリー『【BL】24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』」

びっくりしすぎて咽てしまい、明太子ご飯を吹き出す。
撮影されることに慣れてきたとはいえ、そんなところも、メイキングのカメラに撮られてしまい、本当に恥ずかしい。

「大丈夫?ほら、お茶飲んで」

「ご、ごめん」

今、ミツバくんはなんと言った?僕を口説く?それも24時間かけて……。

「今日の昼12時から、明日の昼12時まで。マナトは俺に適宜カメラを向けて撮影して。その間、俺はマナトをいろんなことに誘うよ。だから、撮影しながらとはいえ、それを楽しんでほしい」

「楽しむ……」

「そう。赤樹島でのデートだと思ってさ」

「フェ、フェイクなんだよね?」

「まぁね。フェイクは俺の得意とするところだから」

もしも、もしも、僕がその気になってしまったら、ミツバくんは、どうするつもりなのだろう。
いや、そんな心配よりも、僕自身が「これはバイト、これはフェイク、これは演技、この人は人たらし」と自覚し続けることが大切だ。

「俺はこれから、イタルにデートコースの相談してくるから、マナトは12時まではゆっくりしててよ。集合はこのレストランね」

「う、うん。わかった」

ミツバくんは席を立って、イタルさんを探しに行ってしまう。
1人レストランに取り残された僕は、デザートのヨーグルトを、ぐるぐるとかき回し続けた。



「おはよう、マナトくん」

ユーキさんが声をかけてくれた。

「あれ、ユーキさん。今日は撮影に行かないんですか?」

「俺たちは今日は撮休。だから、うちのサポートスタッフの子は、朝早くからタイドプールに海辺の生き物を見に行ってるよ。俺は、サイカワがいよいよ海岸で土器を焼くっていうから、それを見がてら、木陰で本でも読もうと思って」

そう言って、ズボンのポケットから文庫本を出して見せてくれる。

「へー、いいですね」

「マナトくんは?昨日の夜から、ミツバがやけに張り切って、島内のオススメスポットとか聞いて回ってるけど」

「い、いや。どこ行くかはミツバくん任せなので」

「なんか、この島でのミツバがすごく楽しそうでさ。俺もうれしいんだ」

「そうなんですか?」

「うん。アイツ、本当は情熱的な奴なのに、クールぶったりするだろ?この島の風土が肌に合うのか、マナトくんとの相性がいいのか。ワクワクと楽しそうに動画撮ってるのが伝わってくるんだよね」

そっか。いつもより楽しそうなんだ、ミツバくん。
僕にとっても、それはうれしい情報だった。

「ミツバくんっていつもは誰と撮影してるんですか?」

「自分でカメラ回して、自撮りしながら喋ったりする撮影が半分。もう半分は、撮影できる人をバイトで雇ったりしてる。けど撮影ってさ、阿吽の呼吸みたいなのあるでしょ?言葉じゃないタイミングというか」

「あぁ、わかります」

「特に、シナリオもなく思い付きで撮っていく手法だから、やっぱり相性ってあるんだよね。上手下手じゃなくて。そういう意味でミツバに固定のカメラマンはいないかな」

「なるほど」

「マナトくんとは、上手くやれてるみたいだね。時間的にも計画通り進んでるんでしょ?」

「今のところは」

「それってすごいことだから。自信持っていいと思うよ」

「あ、あのもう1つだけ、訊いていいですか?」

「なに?」

褒められていい気になった僕は、思い切った質問をする。

「ミツバくんて、彼女とかいるんですか?」

「イケメンなのに全く聞かないねー、そういう話は。あんまり異性に興味ないって印象だな」

そこまで言ったユーキさんは少しキョロキョロし、メイキングのカメラがいないことを確認してから、小声で続きを話してくれる。

「だけど、サイカワにはいるんだよ。すごい可愛い彼女が。ていうか、元アイドル。近々結婚するらしい」

「えっ、まじですか?うわ、YouTuberってすごい。アイドルと結婚とか夢ありますね」

「元、だけどね」

そこからは有名YouTuberの噂話を、ひとしきり聞かせてもらった。



僕は部屋に戻り、もう一度シャワーを浴びて、いつもより念入りに髪を整えた。
そして、持参した中では、一番高価だったTシャツにジーンズを履いて、鏡の前でおかしくないか確認する。
だって、たとえフェイクだとしても、僕にとっては人生初めての「デート」だから。

さらに撮影に使う機材を丁寧にメンテナンスし、12時になるのを今か今かと待った。