色々あって、BL動画を撮ることになりました

僕は今、広いベッドの上で、ミツバくんに借りたタブレットを抱え、悶えている。
窓の外は真っ暗で、遠くで鳴いているフクロウの声だけが、聞こえていた。

「BL漫画の破壊力、半端ないんだけど、どうしよ!」

大学3年生の今の今まで、恋愛というものから顔を背けてきた僕には信じられない世界が、漫画の中に広がっている。

全部で5冊用意された漫画には番号が振ってあって「順番通りに読むように」と言われた。
これは、ミツバくんがつけてくれた番号のようだ。

まだ1冊目の真ん中あたり。
僕は1ページめくるごとに、「あぁ」とか「おぉ」とか感嘆を吐いている。

格好いい男の子が、可愛い男の子をずっと好きで、言い出せずにいる。
で、可愛い男の子の方も、実は格好いい男の子を好きで、両者がそれぞれ片想いだと思い込んでいる話だ。

2人はひょんなことで互いの気持ちを知り、勇気を出して手を繋ぐ。
その場面はキラキラとしていて、2人の気持ちが通じ合ったのだとわかった。

自分が抱いていた、同性同士という禍々しさ、汚らしさは、少しもなかった。
美しくて、尊くて、綺麗な2人だった。

すぐに2冊目に進んだ。

今度は、背の低い男の子が、背の高い男の子を好きになる話だ。
でも、背の高い男の子は、女の子のことが好きで彼女もいる。

「あぁ……」

背の高い男の子は、背の低い男の子に彼女のことを相談したりするんだ。
彼が笑顔でアドバイスしながら、帰りの公園で泣く姿に、僕も涙を流す。

でも2人は紆余曲折あって、ちゃんと恋人になれる。
初めて触れるだけのキスをされたとき、背の低い男の子は震えていた。
厳かな儀式みたいな、最高にいい場面。

感極まった背の低い男の子に、背の高い男の子が手を伸ばし、くしゃくしゃと髪を撫でた。
そうして、2人は幸せそうに笑い合う。

男と男である以前に、人が人を好きになる話だった。



コンコン。
部屋をノックする音がした。

「は、はい」

僕は流れるままだった涙を、慌ててティッシュで拭い、鼻をかんでからドアを開ける。

「ミツバくん……」

「え?どうした?何かあった?」

真っ赤な目を見て、心配してくれた。

「ミツバくんのせいだよー」

今読み終わったばかりの話を思い出し、再び鼻を啜る。

「俺のせい?」

「BL漫画、2冊目まで読み終わったんだ」

「あぁ。よかっただろ?」

「うん。すごく」

僕はミツバくんを部屋に招き入れ、漫画の感想を、捲し立てる。

「マナトが嫌悪感なく読んでくれて、ホッとした」

「とてもいい話だった。これ、嫌いな人いないでしょ」

「そんなことない。受け取り方は人それぞれだから。明日から俺たちが撮る動画だって、よくないコメントがつく可能性もある。それでも、マナトはいい?」

「よくないコメント……」

母親の顔がよぎった。
彼女はこの漫画を読んでも、穢らわしいと思うのかもしれない。
いやきっと、先入観だけで読みもせずに、そう言うだろう。

「いや、感じの悪いコメントがついたとしても、それは俺に向けられたもので、マナトは一切気にする必要はない。それは覚えておいて」

「僕は、僕は……。たとえフェイクだとしても、こんな恋が、してみたい……。だから、だから、僕に、やらせて、ほしい……」

ミツバくんは手を伸ばし、僕の髪をくしゃくしゃと撫でた。
まるでさっきの漫画の中のように。

「残りの3冊も、今夜のうちに読んじゃうから」

「あっ、ごめん。ちょっと待って。タブレット貸して」

僕から奪うようにタブレットを取ったミツバくんは、ササッと指を動かし、画面の中の本を移動する。

「あと1冊、読んでくれればいいから。4冊目と5冊目はマナトにはちょっと刺激が強かったかも」

「え?大丈夫だよ」

「いや、少しエロ多めだから……」

「ん?」

「とにかく残り1冊読んで、明日に備えて早く寝るといい」

「わかった。そうするよ」

「おやすみ」



続いて読み始めた3冊目の内容に、僕は驚く。
今度の2人は、1ページ目から好き合っていて、照れながら手を繋いだり、キスをしたりする。
読んでいて、キュンキュンするシーンがいっぱいあるところから、始まった。

でも、彼らはその先に進もうとしていた。
もっと身体を重ね合わせ、もっと性的なことをしようと試みる。
人目を気にし、2人でホテルに行くことから始まり、色々な難関を乗り越え、2人はひとつになった。

恋をしたい、ただそう思っていた僕は、当たり前に行きつく先に、びっくりする。
僕も、僕も、たとえば、ミツバくんと、恋人になったりしたら、こんなことをするのだろうか……?

いや、したくないか?と聞かれたから、してみたい……。
でも、それはとても過剰な行為に思え、あまりにも僕から遠い出来事だと感じた。

さっきミツバくんが隠した残りの2冊は、これよりもずっと過激だったのだろう。

明日から撮影するBL動画って、いったいどこまでを撮るつもりなのか……。
急に不安になった僕は、ふと、これがYouTubeだと思い出した。
確か、性的なコンテンツへのポリシーが、厳しく設定されているはずだ。

1人で心配になって、1人で安心する僕は、なんだか滑稽だった。