色々あって、BL動画を撮ることになりました

朝、早過ぎて、メイキングカメラはまだ動き出していない。

「おはよう」
「おはようございます」
「はーよー」

朝6時のレストランに、再び10人が集結した。
これは昨晩、イタルさんが提案してくれたことだ。

地理を専攻している彼は撮影開始から丸2日間で、島の全貌を把握し、簡易的な地図を作りあげたという。

ただし、この島の魅力は未開拓の自然だから「具体的過ぎる地図は作っても公表しない」と契約時に支配人と約束済みらしい。
実際、ホテル公式の地図も存在しない。

今回その「イタル地図」を10人の間で共有し、各々、残りの撮影に役立てよう、ということになった。

彼が持参した模造紙のような紙には、島の輪郭、灯台、ホテル、船着き場に加え、主要な小道、小川、池、巨木、野原などが書き込まれている。

「俺がまだ見れていない目標物もあると思う。まずそれを教えてほしい」

イタルさんの言葉に、皆が身を乗り出し、地図を指差す。

「ここの森を抜けた海岸には、白い砂浜が広がっていて、海水浴に使えます」

「このあたりは湿地になっていて、カニがいた」

「この先で森が開けて、広場みたいな平地がある」

イタルさんは、聞き取りながら付箋を貼っていく。

実は、僕は地図が苦手で、昨日、一昨日と自分が歩いた箇所も上手く把握できていない。
ミツバくんがそれに気がつき、指でなぞりながら説明してくれた。

「昨日俺たちは、ここから、こう歩いて、東に曲がった。それで、この辺りでマナトが体調を崩した」

「あぁ」

ホテルからはそれなりに距離があったことがわかり、背負ってもらったことを、改めて申し訳なく思う。

「で、一昨日は、この辺りを歩き回って、ここに地蔵岩を見つけた」

「地蔵岩?」

ユーキさんが食いつく。

「俺たちが勝手に名付けただけだけど、大きな岩の上に丸い岩がのってるんだ。その姿が地蔵に見える」

「いいネーミング!」

イタルさんは、その場所にペタリと付箋を貼る。

「マナト、俺たちも、サイカワが教えてくれた白い浜辺に行ってみよう。いい絵が撮れそうな気がする」

ミツバくんの意見に、僕は「はい」と頷いた。

「あ、あの……」

ユーキさんのサポートスタッフが、遠慮がちに挙手をする。

「すみません。1つ質問をいいですか?」

「どうぞ」

皆を代表するように、ミツバくんが了承する。

「動画アップロードから1カ月後、最も再生回数が多い人が優勝。賞金は100万円なんですよね?ということは、皆さんはライバル同士。なのにどうして情報共有に積極的なんですか?」

確かに。
いくら、藤原さんの鼻を明かしたくとも、100万円だって欲しいはずだ。

「あぁ、ごめん。そう思うよね。サポートスタッフの皆にもちゃんと説明しておくべきだった」

ユーキさんがスマホを開き、ある写真を見せてくれる。

「俺たち、同世代のYouTuber同士、結構仲良くしてるんだけど、集まる時はいつも6人なんだ」

写真の真ん中、ミツバくんの隣で、今回は居ない眼鏡の男性が笑っている。

「この彼が、春頃に酷い怪我をしちゃって。今、療養中なんだ。だから、100万円の半分は彼への見舞い金に。残りの半分は彼が復帰した時、みんなで企画やるための資金にしようと決めてて」

「賞金がなくても、案件報酬をしっかりもらえれば、充分だしね」

そうだったのか。
知らなかった……。
ここにいる5人は優勝賞金争いではなく、純粋にいい動画を作るために、頑張っていたのだ。

「はい、というわけで。続いて他チームへのアドバイスを……」

イタルさんが場を仕切り直す。

「ナーゴさん、ここ、小さい白い花がたくさん咲いてて、蝶々が飛んでました」

「サイカワ、ここらへんの土、赤い粘土層だったぞ」

「ユーキくん、こっち側の海岸は、タイドプールが出来てて、ヒトデとかナマコいっぱいいたよ」

「ミツバ、この辺りが少し窪地になってるんだ。だから、全く灯台が見えない箇所がある。なんかの仕掛けに使えるかも」

その時、慌てたようにメイキングカメラのクルーがやってきて、レンズを僕らに向けた。

イタルさんはクルクルっと地図を丸め、素早く片付ける。
他の皆は席を立ち、レストランのバイキングを取りに行き始めた。

会話の内容は、無意味なものへと急変する。

「ユーキ、フレンチトースト食べた?ハチミツとめっちゃ合うよ。取ってやるから食べてみ」

そう言ったミツバくんは、サイカワさんに熱心にコーンスープを勧められていた。

僕はといえば、恥ずかしながら複雑な心境だ……。

彼らの以前からの友情に触れ、6人で親しげに撮った写真も見せてもらえた。
志が同じ、いい仲間なのだと、感じとれた。

なのに。
ここにはいない人物とミツバくんが、親しげに肩を組んでいたことに、嫉妬のような醜い感情を抱いている自分がいる。

まだ彼らの中に混ぜてもらえて4日目の僕が、何を思っちゃってるのだろう。
頭ではわかっているのに、心はズキリと痛んでいた。