色々あって、BL動画を撮ることになりました

「うわ、暑っ」

「でも、風があってめちゃくちゃ気持ちいいじゃないですか」

「確かに。東京みたいな籠った暑さじゃないのがいいな」

「海、めっちゃ透き通ってるよ!」

「あぁー、本物の自然、本物の森って感じ。昆虫天国だー」

口々に勝手なことを言い、彼らは動画撮影用カメラを片手に、スーツケースを引きずって小型船を降りた。
スタッフ班の僕も、大きな荷物を持って下船する。

もうすぐ夏至を迎える6月中旬。
14時を過ぎた太陽の日差しは、ギラギラとして、かなり強い。

そのとき。
僕らを揶揄うように、海からの風が「ビューッ」と吹き抜けた。

「あっ」

お気に入りのキャップが、風に舞って飛ばされてしまった。
僕はそれを追いかけ、慌てて走る。
すると、同じ船に乗っていた透き通るような金髪の男が、僕よりも早く走り出した。
足の長い彼はすぐにキャップに追いつく。

「はい、これ。風強いね」

「あ、ありがとうございます」

疎い僕ですら、彼のYouTubeをチラッと見たことがある。
「ミツバ」だ。

クールな印象と、キラキラ輝く髪。
本物は動画よりも更に美しく、思わず息を呑む。
さすが「黄金の貴公子」。
そんなよくわからない通り名を持っていることも、納得できる。
僕は、拾ってもらったキャップを握りしめ、彼らの後に続いてホテルへ向かった……。



この「赤樹島(あかじゅしま)」は1年前まで灯台のみがある、無人島だったらしい。

そんな島に、昨年秋オープンしたのが、真っ白い箱のような3階建ての建物。
リゾートホテル「レッドツリー」だ。

島の手つかずの自然を最大限活かしたロケーションで、灯台のある船着き場近くに建てられている。

散歩するようなガーデンはなく、プールも、カラオケもないホテルは、衣食住のみがハイクオリティで提供される。

島の中には、ゴルフ場や、アミューズメント施設もない。
自転車が走れる道路すら、整備されていない。
あるのは、とにかく手付かずの自然のみ。

この新しいコンセプトは、刺さる人には刺さるだろう。
しかし、宣伝不足なのか認知度が全く上がらず……。
ゆえに、予約が伸び悩んでいるという。

そこで今回「レッドツリー」は、夏休みを前に、現役大学生YouTuber5人に、ある案件を持ち込んだのだ。



ホテルのラウンジに一同が集められた。
その風景に、ベテランっぽい撮影クルーが、レンズを向けている。
あれは、どこのカメラなのだろう?

「遠いところから遥々お越しいただき、ありがとうございます。当ホテル「レッドツリー」の支配人代理、藤原と申します」

支配人代理だと名乗ったのは、40代ぐらいの仕事ができそうな女性だった。

今回、この案件の関係者のみでホテルは貸し切られており、他の宿泊客は見当たらない。
そもそも客室数自体、多くはないようだ。

「まずはこの赤樹島のご案内から。先ほど船をお降りいただいたのが、この島唯一の船着き場となります」

船着き場からホテルまでは、徒歩3分の距離だ。

「人工物は、船着き場と、その隣の灯台と、そして当ホテルのみ。島は海岸沿いを徒歩でぐるっと回った場合、1周3時間ほどかかります。高低差は少なく、険しい岩場などは存在しません」

沖縄の竹富島と同じくらいの広さだろうか。

「島のどこからでも、この灯台が見えますので、それを目指して戻ってきていただければ、迷うことはございません。また危険な野生動物も存在しておりません」

「なるほど。それは安心ですね」

「続きまして、今回の趣旨を今一度ご説明いたします。この赤樹島に本日より1週間ご滞在いただき、自由に動画を撮影していただきます。それを1本1時間以上の見ごたえある動画にまとめて、YouTubeにアップロードしてください」

「アップロードは、こっちのタイミングでいいんですか?」

「いえ、皆さんの進捗具合を伺いつつになりますが、概ね、島を出られてから1週間後、タイミングを合わせ一斉に公開していただきます」

「了解でーす」

「そこから更に1か月後、5人の中で、最も動画再生回数の多かった方を優勝とし、PR案件報酬とは別に、賞金100万円を出させていただきます。お一人、何本の動画をあげていただいても構いません。再生回数は合算いたします」

「はいはい」

「今回、皆さんにこの案件をお願いしたのは、大学のサークルなどを来客のコア層と捉えているからです。そういった点も考慮し、大学生に刺さる動画を作成いただけると助かります」

皆、納得したように頷いている。

「続きまして、お一人お一人に、サポートスタッフを1名ずつ配置させていただきます。それが彼らです」

ようやくYouTuber5人の視線が、端っこにいる僕らバイト5人へと向く。

「皆さんと感性が近いであろう大学生を、スタッフとしてご用意いたしました」

YouTuberは5人とも男性、学生スタッフも全員男性だ。

「どの方にどのスタッフが付くかは、今から「あみだくじ」で決めさせていただきますが、異論はございませんか?」

彼らは「異議なし」と頷いた。