カナタは日南町議と懇意にしていた。そこに至るまでの経緯は知らない。カナタは打たれ弱いが立身出世欲が強かった。日南町議が南部町議団にカナタを紹介したのかもしれないが、カナタは南部町議を勇退すると決めていたケンサクの後継者に決まった。上位機関の承認もなく決めるのは規約違反だ。それに若いカナタを新見の支部は手放したくない。したがって、新見市内某所で岡山県党の書記長、南部町議団、カナタの三者会談が秘密裏に行われた。カナタは27歳で市区町村における被選挙権の年齢条件を満たしており会談は滞りなく終了した。問題は住居をどうするかだったが、それも問題なく勇退するケンサク議員の家で間借りすることになった。鳥取県委員会の承認を得たカナタは告示日より五か月早い南部町に転居した。転入日から三ケ月住み続けていれば被選挙権の条件は満たせる。しかし、五か月では町民にカナタを売り込むには短すぎる。カナタは予定候補として連日、家々をまわって挨拶していたようだが、突然のハプニングに襲われた。島根県委員会からカナタの人柄などについて聞いた鳥取西部地区委員会は発達障害を理由にカナタを予定候補から外した。これは西部地区委員会の独断であり規約違反だ。すでに党中央も県委員会も承認しており、それを地区機関が上位機関への了解を経ずに候補から外すことはあってはならない。が、実際にそれは起こってしまった。カナタは多くを語ってくれなかったが、地区委員会総会でのお披露目があってしかるべきだが、地区委員長以下、地区常任委員会の独断で決定したと思われる。南部町議団はそれから手の平返しで、カナタは議員には向いていないと批判した。カナタはお世辞にも体力があるとはいえず、町役場や担当地域での新聞配達、集金を毎月できるとは思えなかった。町議団は痛いところを突いてきたというわけだ。かくしてカナタは南部町に転入してほどなく新見に戻ることになった。その後、カナタは中央に訴願し、組織局の職員が鳥取に来て島根、鳥取の各機関から事情聴取したが、西部地区委員長がしらばっくれて何も進捗しなかった。この話を聞いてから随分と時が経った。カナタが地区委員会からの謝罪を受けたのは問題発生から二年後、それも中央の人間と岡山県党の書記長が伝達しに来ただけだった。カナタはいまなお鳥取県西部地区委員会から直接謝罪を求めている。が、中央は解決済みの案件としてまったく相手にしてくれないという。党は声なき声を拾い、草の根の運動を広げるという建前を掲げてはいるが、その実相は虚構にすぎない。(了)



