大山から戻り病臥の身となった時任謙作はその後死亡した。そして異世界に転生した。が、学習院卒の彼は旧西洋風の王を前にしても横柄な態度を崩さず、国外追放処分となった。辺境の地と噂される松江に流されることとなったものの、そこでの生活は退屈なもので彼は口癖のように「不愉快だ」「不快だ」と独りごちた。彼の寓居は内中原にあり、敬愛する小泉八雲旧居の近所だった。夏の真っ盛り、城山で絨毯爆撃のように鳴く蝉の大合唱に参ってしまった彼はこの旧居を訪ねた。徒歩で五分もかからぬ場所にあったが車夫を呼んだ。縁で首を長くして待っていてもなかなか姿を現さない。謙作はだんだんイライラしてきた。癇癪を鎮めるために生け捕りにしていたヤモリを一匹踏み潰した。ヤモリは意外にも頑丈で潰れていても尾が別の生物のようにゆらゆら揺れていた。彼がジッとヤモリの死骸を観察していると、額に汗を流した車夫が声をかけた。
「じとうさんですかいな?」
謙作は車夫を睨んだ。落ちくぼんだ眼に日焼けした肌。彼は車夫の鍛えられた肉体を美しいと思う一方で貧相な身なりに不快感を覚えた。
「じとうじゃない。と、き、と、お。君は客の名前も覚えられないのかネ?」
「いやあ、ごめんくさい」
悠長な返事にイライラしながら謙作は俥に乗った。ひどく乗り心地が悪かったので、彼は徒歩で向かわなかったことを後悔した。一万ゴールドを車夫に渡して追い払うと八雲旧居の門をくぐった。思っていたより質素なものだと感心していると後ろで群衆が騒ぎ出した。爆竹が鳴るような音まで聞こえるので、彼は再び門をくぐり往来に出た。
「勇者さまだ!」
群衆は祭りのように踊り狂っている。遠めに大名行列を思わせる煌びやかな籠や旗、軽率らがナメクジが這うようにゆっくりとうねりを伴って近づいて来る。自分以外に勇者を名乗る不逞の輩の存在に彼はムカムカしてきた。彼はスマートフォンが異世界でも使えることを確認すると兄の信行に架電した。
「やあ、信さん、久しいね。ちょいとアレを頼みたいのだが、いいかい?」
『おまえのことだから無茶はしないと思うが、父上が何を言い出すか心配だ』
「大丈夫だよ。とにかく頼んだよ」
メッセージアプリで大名行列の座標を信行に送信した。まもなく天が光り、曇天の空が綺麗な快晴になった。(了)
「じとうさんですかいな?」
謙作は車夫を睨んだ。落ちくぼんだ眼に日焼けした肌。彼は車夫の鍛えられた肉体を美しいと思う一方で貧相な身なりに不快感を覚えた。
「じとうじゃない。と、き、と、お。君は客の名前も覚えられないのかネ?」
「いやあ、ごめんくさい」
悠長な返事にイライラしながら謙作は俥に乗った。ひどく乗り心地が悪かったので、彼は徒歩で向かわなかったことを後悔した。一万ゴールドを車夫に渡して追い払うと八雲旧居の門をくぐった。思っていたより質素なものだと感心していると後ろで群衆が騒ぎ出した。爆竹が鳴るような音まで聞こえるので、彼は再び門をくぐり往来に出た。
「勇者さまだ!」
群衆は祭りのように踊り狂っている。遠めに大名行列を思わせる煌びやかな籠や旗、軽率らがナメクジが這うようにゆっくりとうねりを伴って近づいて来る。自分以外に勇者を名乗る不逞の輩の存在に彼はムカムカしてきた。彼はスマートフォンが異世界でも使えることを確認すると兄の信行に架電した。
「やあ、信さん、久しいね。ちょいとアレを頼みたいのだが、いいかい?」
『おまえのことだから無茶はしないと思うが、父上が何を言い出すか心配だ』
「大丈夫だよ。とにかく頼んだよ」
メッセージアプリで大名行列の座標を信行に送信した。まもなく天が光り、曇天の空が綺麗な快晴になった。(了)



