鳥取は永遠に輝く――May the gods bless Tottori Prefecture.

 日南町のカメムシの数は異常だ。鳥取県の病害虫発生予察を見たことはないが、どうも町民にとっては当たり前のようだ。発生シーズンになると町中でも平気で羽音が聞こえる。町内で唯一のスーパー「まるごう」の自動ドアにはカメムシの死骸が堆積している。そのせいで自動ドアが開きにくいときもある。店内に足を踏み入れた瞬間にあの嫌な臭いが嗅覚に突き刺さる。レジ打ちの店員はガムテープを常備していて、商品にくっついていた場合に早急に処理する。客は当たり前のことなので何も言わない。私の妹は米子市彦名町に住んでいて、彦名でも米子空港にかなり近い田畑の多い場所に住んでいるがカメムシ被害を聞いたことはない。おそらく中海に近く、森林や雑木林がないからだろう。
 先般、といっても去年の夏だが、日南町に詳しい友人と一緒に車で日南町に行った。夏だったので、カメムシがフロントガラスに激突してくるということはなかった。「にちなん中国山地林業アカデミー」で働く大学院の同期を表敬訪問しようとしたが、その日は休日だったので諦めた。
 友人はゴーカートに乗れると言って小学校の跡地を改装したような施設に案内した。そこは物産展と食事処を兼ねていた。たしか、ぶっかけうどんを注文した気がする。「FREE Wi-Fi」だったのには少々驚いた。食事を終えてゴーカートに乗った。広いグラウンドにくたびれたサッカーゴールがあった。私は旧時代の人間なのでツーペダルに戸惑ったが、すぐに慣れた、正直、ものすごく怖かった。高さがあるのでスピードを出すと転倒しそうだった。怖いもの知らずの私はアクセルベタ踏みで旋回してみたが転倒することはなかった。
 一通り楽しんだ後は神社に向かった。完全に友人の趣味だ。境内への階段が急勾配だったので、私は車を駐車場の日陰に止めて煙草を吸っていた。神社の石碑が車内から見えたので考えもなしに眺めていたら「平沼騏一郎」と刻まれていた。岡山県の平沼と日南との関係がまったくわからなかった。考えても仕方ないので煙草を吸い続けていたら友人が戻ってきた。特別なおみくじがあったようで、たいそう満足していた。それから友人の知人の墓参り、大山が見えるスポットなどに案内され随分疲れた。大山は見る場所によって姿を変える霊山だ。日本海側から「出雲富士」と呼ばれるくらい、まさに富士山のように見える。それとは逆の日南町からは峻厳な山に見えた。かつて志賀直哉が『暗夜行路』で書いていた天台宗において比叡山に次ぐ霊山にふさわしい姿だった。
 友人に振り回されて疲れたので、その旨を伝えると道の駅「にちなん日野川の郷」に行くよう提案されたので向かった。とにかく暑かったので私は車内の冷房でしばらく涼んでいた。ほぼガラス張りでレストランと物産展があるのが容易にわかった。友人が戻るのが遅いので私も建物内に足を踏み入れた。自動ドアを抜けた瞬間に目に入ったのは、「山口陽世さんと平尾帆夏さんを応援します」というポスターだった。明らかに行政が製作したものではないとわかった。似顔絵だった気がするが、そっくりで完成度が高い。ポスターの下部には地元の組合か自治会の名称が標記されていた気がする。いずれにしても米子市出身の二人を全力で応援するという熱意が伝わってきてしばらくその場を動くことができなかった。友人が物産展でうろうろしているのが遠めに見えたので車に戻った。私は自動ドアの先のポスターをずっと見ていた。が、道の駅のスタッフと思われる男性がポスターの前に物を置いたので見えなくなってしまった。私は一抹の淋しさを抱きしめながら友人が戻るのを待ち続けた。