「合宿……って、どこでするの? 放送部には予算なんてないよ」
僕が呆れ顔で問いかけると、神崎くんは「心配ないよ」と言わんばかりに、眩しい笑顔で一枚の鍵を指先で弄んだ。
「俺の家の、離れ。親父が昔、趣味のオーディオルームに使ってた場所があるんだ。防音設備は完璧。つまり、深夜3時にどれだけ大声で漫才しても、誰にも文句は言われない」
それが、週末の「秘密の合宿」の始まりだった。 神崎くんの家は、想像を絶する豪邸だった。だけど、案内された離れは、彼が言う通り少し古びていて、真空管アンプや古いレコードが並ぶ、まるで大人の秘密基地のような場所だった。
「……ここ、すごいね。なんか、深夜ラジオのスタジオみたいだ」 「だろ? ここなら、お前がハガキを書く時の、あの『深夜のノイズ』に近い状態でネタが作れると思ってさ」
神崎くんはそう言って、床に二つの寝袋を並べた。 一つ屋根の下、いや、一つ離れの下。 夜が深まるにつれ、僕たちの会話はネタ合わせから、次第にプライベートな「フリートーク」へと脱線していく。
「高田。お前さ、ラジオネーム『砂の惑星』にした理由って、何なの?」 寝袋に潜り込み、天井を見つめながら神崎くんが訊ねてきた。
「……砂漠ってさ、何もないじゃない。でも、そこに一粒の砂として紛れていれば、誰からも見つからないし、傷つかない。そう思ってたんだ。でも……」 「でも?」 「神崎くんに見つかっちゃったから。もう、砂の惑星には戻れないよ」
暗闇の中、隣で神崎くんが身をよじる気配がした。 「……お前、そういうことサラッと言うよな。ネタに書く時より、素の方が破壊力あるぞ」
「……何それ」 僕が少し照れて顔を伏せると、不意に、隣の寝袋から手が伸びてきた。 その手は迷うことなく僕の寝袋の隙間に滑り込み、僕の手をそっと握った。
「見つけたのが俺で、良かっただろ?」 神崎くんの声は、昼間の王子様のものとは違う、熱を帯びた、少しかすれた響きだった。
「……最悪だよ。おかげで、僕の静かな深夜が、全部君のことで塗りつぶされちゃったんだから」
僕が少しだけ力を込めて握り返すと、神崎くんは嬉しそうに、でも少しだけ切なそうに笑った。 「塗りつぶしてやるよ。お前の24時間、全部俺の周波数でさ」
握り合った手のひらから、ドクドクと伝わる心音。 狭い離れの中で、僕たちの呼吸が次第に重なっていく。 ネタ合わせのために来たはずなのに、僕の頭の中は、今、彼と繋がっているこの「現実」をどうやって言葉にすればいいのか、そればかりを考えていた。
「……神崎くん、寝袋、もっと近くにしてもいい?」 「……許可制かよ。勝手にしろよ」
僕たちは、寝袋ごと芋虫みたいに動き、肩が触れ合う距離まで近づいた。 深夜2時。ラジオの放送は始まったばかりだけど、僕たちの夜は、もう言葉なんて必要ないところまで加速していた。
僕が呆れ顔で問いかけると、神崎くんは「心配ないよ」と言わんばかりに、眩しい笑顔で一枚の鍵を指先で弄んだ。
「俺の家の、離れ。親父が昔、趣味のオーディオルームに使ってた場所があるんだ。防音設備は完璧。つまり、深夜3時にどれだけ大声で漫才しても、誰にも文句は言われない」
それが、週末の「秘密の合宿」の始まりだった。 神崎くんの家は、想像を絶する豪邸だった。だけど、案内された離れは、彼が言う通り少し古びていて、真空管アンプや古いレコードが並ぶ、まるで大人の秘密基地のような場所だった。
「……ここ、すごいね。なんか、深夜ラジオのスタジオみたいだ」 「だろ? ここなら、お前がハガキを書く時の、あの『深夜のノイズ』に近い状態でネタが作れると思ってさ」
神崎くんはそう言って、床に二つの寝袋を並べた。 一つ屋根の下、いや、一つ離れの下。 夜が深まるにつれ、僕たちの会話はネタ合わせから、次第にプライベートな「フリートーク」へと脱線していく。
「高田。お前さ、ラジオネーム『砂の惑星』にした理由って、何なの?」 寝袋に潜り込み、天井を見つめながら神崎くんが訊ねてきた。
「……砂漠ってさ、何もないじゃない。でも、そこに一粒の砂として紛れていれば、誰からも見つからないし、傷つかない。そう思ってたんだ。でも……」 「でも?」 「神崎くんに見つかっちゃったから。もう、砂の惑星には戻れないよ」
暗闇の中、隣で神崎くんが身をよじる気配がした。 「……お前、そういうことサラッと言うよな。ネタに書く時より、素の方が破壊力あるぞ」
「……何それ」 僕が少し照れて顔を伏せると、不意に、隣の寝袋から手が伸びてきた。 その手は迷うことなく僕の寝袋の隙間に滑り込み、僕の手をそっと握った。
「見つけたのが俺で、良かっただろ?」 神崎くんの声は、昼間の王子様のものとは違う、熱を帯びた、少しかすれた響きだった。
「……最悪だよ。おかげで、僕の静かな深夜が、全部君のことで塗りつぶされちゃったんだから」
僕が少しだけ力を込めて握り返すと、神崎くんは嬉しそうに、でも少しだけ切なそうに笑った。 「塗りつぶしてやるよ。お前の24時間、全部俺の周波数でさ」
握り合った手のひらから、ドクドクと伝わる心音。 狭い離れの中で、僕たちの呼吸が次第に重なっていく。 ネタ合わせのために来たはずなのに、僕の頭の中は、今、彼と繋がっているこの「現実」をどうやって言葉にすればいいのか、そればかりを考えていた。
「……神崎くん、寝袋、もっと近くにしてもいい?」 「……許可制かよ。勝手にしろよ」
僕たちは、寝袋ごと芋虫みたいに動き、肩が触れ合う距離まで近づいた。 深夜2時。ラジオの放送は始まったばかりだけど、僕たちの夜は、もう言葉なんて必要ないところまで加速していた。

