「……どうもー! 砂の惑星と王子様です!」
センターマイクの前に立った瞬間、地鳴りのような歓声が降り注いだ。決勝の舞台、スポットライトの熱は想像以上に熱く、視界は白く飛んでいる。けれど、僕の右側には、世界で一番信頼できる「相方」の体温があった。
ネタが始まれば、あとは濁流のような時間だった。 僕が放つ孤独で歪んだ言葉を、神崎くんが太陽のような明るさで救い上げる。一条たちが舞台袖で見つめる中、僕たちの漫才は、誰への復讐でもなく、ただ「今、隣にいる君を笑わせたい」という純粋な熱だけで加速していった。
会場が揺れるほどの爆笑。 その渦の真ん中で、僕は神崎くんと目が合った。 彼は笑っていた。王子様の仮面を脱ぎ捨て、一人の少年として、僕の言葉を全身で楽しんでいる。
ネタの終盤、僕はあのアドリブを繰り出した。
「……ねえ、神崎くん。僕、ラジオネーム変えようと思うんだ」 「えっ、ここで!? 何に変えるんだよ」
台本にない僕の言葉に、一瞬だけ神崎くんの目が見開かれる。けれど、彼はすぐに最高の「待ち」の姿勢に入った。
「……『王子様の隣』」
客席から「ヒュー!」という歓声と、どよめきが上がる。 神崎くんは一瞬絶句したあと、これ以上ないほど幸せそうに崩れ落ち、僕の肩を抱き寄せた。
「……採用! お前のそのボケ、一生かけて俺がツッコミ続けてやるよ!」
「もうええわ!」
鳴り止まない拍手の中、僕たちは深く頭を下げた。 結果は、準優勝。 優勝は一条たちの『三連対』だった。けれど、舞台を降りる僕たちを呼び止めたのは、あの一条だった。
「……負けたよ。技術じゃなく、『幸福量』で」 彼は少しだけ憑き物が落ちたような顔で、僕たちに右手を差し出した。
---------------------------------------------
数日後。いつもの放送部室。 グランプリのトロフィーはないけれど、僕たちの手元には、いつも通りのラジオと、一通の採用通知が届いていた。
「高田、見て。来月から始まる新番組の構成作家、お前にオファー来てるぞ」 「……神崎くん。それ、僕だけじゃないよ。『神崎龍一のパートナーとして』って書いてある」
神崎くんは僕のノートを取り上げると、最後のページの空白に、新しくペンを走らせた。
『砂の惑星と王子様、結成から一生。』
「漫才師でも、ラジオ屋でも、なんだっていい。俺は、お前の隣で、一生笑ってたいんだ」
神崎くんが僕の指に、自分の指を絡める。 かつては1.5メートルあった僕たちの距離。 今は、どちらかが息を吸えば、もう一人の胸が膨らむほどに近い。
「……神崎くん。次のネタ、もう考えてあるんだ」 「おっ、どんなやつ?」 「『王子様が、ラジオネームの由来を聞かれて、恥ずかしさで爆発する話』」
「……それ、実話じゃねーか!」
僕たちの笑い声が、狭い部室を通り抜けて、夕暮れの空へと溶けていく。 深夜ラジオのノイズの向こう側にあった孤独な夜は、もう終わった。 これからは、君と二人で刻む、終わらないフリートークの始まりだ。
(完)
センターマイクの前に立った瞬間、地鳴りのような歓声が降り注いだ。決勝の舞台、スポットライトの熱は想像以上に熱く、視界は白く飛んでいる。けれど、僕の右側には、世界で一番信頼できる「相方」の体温があった。
ネタが始まれば、あとは濁流のような時間だった。 僕が放つ孤独で歪んだ言葉を、神崎くんが太陽のような明るさで救い上げる。一条たちが舞台袖で見つめる中、僕たちの漫才は、誰への復讐でもなく、ただ「今、隣にいる君を笑わせたい」という純粋な熱だけで加速していった。
会場が揺れるほどの爆笑。 その渦の真ん中で、僕は神崎くんと目が合った。 彼は笑っていた。王子様の仮面を脱ぎ捨て、一人の少年として、僕の言葉を全身で楽しんでいる。
ネタの終盤、僕はあのアドリブを繰り出した。
「……ねえ、神崎くん。僕、ラジオネーム変えようと思うんだ」 「えっ、ここで!? 何に変えるんだよ」
台本にない僕の言葉に、一瞬だけ神崎くんの目が見開かれる。けれど、彼はすぐに最高の「待ち」の姿勢に入った。
「……『王子様の隣』」
客席から「ヒュー!」という歓声と、どよめきが上がる。 神崎くんは一瞬絶句したあと、これ以上ないほど幸せそうに崩れ落ち、僕の肩を抱き寄せた。
「……採用! お前のそのボケ、一生かけて俺がツッコミ続けてやるよ!」
「もうええわ!」
鳴り止まない拍手の中、僕たちは深く頭を下げた。 結果は、準優勝。 優勝は一条たちの『三連対』だった。けれど、舞台を降りる僕たちを呼び止めたのは、あの一条だった。
「……負けたよ。技術じゃなく、『幸福量』で」 彼は少しだけ憑き物が落ちたような顔で、僕たちに右手を差し出した。
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数日後。いつもの放送部室。 グランプリのトロフィーはないけれど、僕たちの手元には、いつも通りのラジオと、一通の採用通知が届いていた。
「高田、見て。来月から始まる新番組の構成作家、お前にオファー来てるぞ」 「……神崎くん。それ、僕だけじゃないよ。『神崎龍一のパートナーとして』って書いてある」
神崎くんは僕のノートを取り上げると、最後のページの空白に、新しくペンを走らせた。
『砂の惑星と王子様、結成から一生。』
「漫才師でも、ラジオ屋でも、なんだっていい。俺は、お前の隣で、一生笑ってたいんだ」
神崎くんが僕の指に、自分の指を絡める。 かつては1.5メートルあった僕たちの距離。 今は、どちらかが息を吸えば、もう一人の胸が膨らむほどに近い。
「……神崎くん。次のネタ、もう考えてあるんだ」 「おっ、どんなやつ?」 「『王子様が、ラジオネームの由来を聞かれて、恥ずかしさで爆発する話』」
「……それ、実話じゃねーか!」
僕たちの笑い声が、狭い部室を通り抜けて、夕暮れの空へと溶けていく。 深夜ラジオのノイズの向こう側にあった孤独な夜は、もう終わった。 これからは、君と二人で刻む、終わらないフリートークの始まりだ。
(完)

