今週から中間テストが開始した。しかし、腹が減っては戦はできぬ!
「南、俺、今回はマジでやべーかもしんない……憂さ晴らしにゲーセン行こ? テストのことなんて忘れさせて……?」
早くも魂が抜けかかってる顔で、高野が俺にもたれかかってくる。
愛しのマナちゃんとは、テストが終わるまで会えないらしい。というのもマナちゃんの家はなかなか厳しいみたいで、マナちゃん本人からも『成績が落ちたら、親に彼氏ができたせいだ、別れろって言われるかもしれない』と告げられたんだそうな。
やべーとわかってるならゲーセンなんか行かずに勉強すりゃいいのに、それができないのが高野なのである。
抱き着くついでに何故か腹肉まで揉んでくる高野を引き剥がし、俺は真顔で告げた。
「仮初めの恋人がほしいなら、他を当たれ。テストのことだけじゃなくて、マナちゃんのことも忘れるというなら、考えてやらなくはないがな」
「そ、そんなアサヒ……お前まで俺を見捨てるのか! お前だけは俺の味方だと思っていたのに!」
高野ユウセイ、ノリノリである。南アサヒ、ドン引きである。俺もマナちゃんみたいにユウって呼んでやろうか、この野郎。
「うるせえ、アサヒちゃんを都合の良い愛人扱いすんな。今日は先約があるんだよ」
再び縋り付いてきた高野を躱し、俺は窓際の一番後ろの席を振り向いた。
「北大路ー、帰る準備できたかー? 早く行こーぜ!」
ぎょっとしたような顔で高野が俺を見る。教室に残っていた皆も、同じように俺に視線を向けた。
「うん、待たせてごめん。もう行ける」
モタモタと教科書をバッグに詰めていた北大路が、やっと席を立つ。そしてこちらに駆け寄ってきて、俺の隣にいる高野に目を向けた。
「じゃあね、高野くん。また明日」
「お、おう……また、な?」
初めて見る王子様スマイルに気圧されたんだろう、高野は呆然としたまま、オウム返しみたいに答えた。我に返ったらうるさく連絡してきそうだなーと思いつつ、俺は北大路と共に教室を出た。
「あの店のラーメン、すごかったね! あんな大きい器に入ったあんなに大きいラーメンなんて見たことなかったから、ビックリした!」
そのデカ盛りマシマシラーメンをペロリと平らげて店を出た後も、北大路は興奮冷めやらぬといった感じで、輝かんばかりの笑顔で喋り続けた。
店員達だけじゃなく、店内にいた野郎共も『こんなヒョロいイケメンに食い切れるもんか』と言いたげに好奇の目を向けてきたけれど、最終的には皆して度肝を抜かしたよ。北大路が完食してみせたら拍手喝采まで贈ってくれて、俺まで何だか気分が良かった。
「北大路って、あんまり外食しなかったのか? 前いたとこって、ここより都会じゃん。デカ盛りの店もたくさんあるだろうし、いろいろ食い尽くしてんのかと思ってた」
何気なく聞いただけだったのに北大路はふっと黙り、それから少し間を置いて答えた。
「えっとね……俺、前の学校でも友達がいなかったんだ。家族とも、その……ちょっと複雑な感じで」
長い睫毛が、北大路の整った顔面に影を落とす。
そういえば、と俺は思い出した。アヤカさんは現在独身だと聞いている。つまり北大路の父親とは、既に離婚していることになるんだ。
北大路は多分これまで父親と暮らしていたんだろうけれど、何か家族間で問題があって、こっちにやって来たのかもしれない。
「そ、そっか。まぁほら、生きてりゃいろいろ大変なこともあるって! 今は俺っていう友達ができたんだからいいじゃん、な?」
突っ込んだ話を聞いたことに対して謝るとますます暗い雰囲気になりそうだったので、俺は適当に流してばしばしと北大路の背中を叩いた。
「ちょっと、いきなり張手食らわさないでくれるー? 俺、鉄砲柱じゃないんですけどー? 背骨折れるかと思ったし」
鼓舞してやろうとしたというのに北大路の奴、この俺を力士扱いしてきやがった。こいつ、本当に学校じゃ猫被りならぬ王子被りだよな!
「この程度で折れるなら、お前の修行が足りないんだよ! 稽古つけてやるから、南乃旭部屋に入門するでごわす!」
「ちゃんこが美味しいなら、南乃旭部屋に入門していいでごわすよ? ただ俺、たくさん食べるんで覚悟するでごわすよ!」
くだらない会話をしながら、俺達はそのまま北大路の家へと向かった。
一応これでも中間テスト中の身、頭の良い北大路先生に勉強を教えてもらう……のはついでで、アヤカさんが作ったというチョコレートケーキを食後のデザートに味わうことが一番の目的なのである。
いやー、アヤカさんのチョコレートケーキ、すっごく美味しかった! やはり持つべきは料理上手な美人母のいる友だな!!
