「南って、小学校の時からデブだったんだよ。なのにすばしっこくてさー、こんなに体積でけーのにドッジボール全然当たらねーの。ありえなくね?」
「高野がクソほどノーコンで鈍足でアホだからだろ。人のことデブデブ抜かしてバカにすっから、ドッジボール対決で勝負してやったのにボロ負けだったもんなー。デブに負けて悔しいのう、悔しいのう」
「おい、アホは関係ねーだろ! こないだのテストがちょっと良かったからって調子乗ってんじゃねーぞ!?」
「うっせ、元々お前よりは頭良いわ! 五教科も赤点になるなんてアホとしか言いようねーだろ、アホ高野!」
「……二人は本当に仲良しなんだね」
肩パンを食らわせ合いながら罵り合っていた俺と高野は、北大路の声に、きっと振り向いた。
「仲良くねーし!」
申し合わせたように、同じ言葉、同じタイミングで俺と高野の声が被る。すると北大路だけでなく、坂井と上尾も吹き出した。
「ものっすげー仲良いじゃん!」
「お前ら、ツンデレカップルかよ!」
二人のツッコミに釣られて、俺も高野も笑ってしまった。まあ、ここは素直に認めるしかないか。これだけお互いに言いたい放題できるのも、仲が良いからだし。
何故こんなアホな昔話をしていたかというと、俺と高野が小学校からの付き合いだと知って、北大路が昔の話を聞きたがったからだ。
それからも道中、いろいろなエピソードを思い出しては語ってたんだけど、同時に過去にムカついたことまでもが蘇って、何度かまた高野とケンカになりかけた。
時刻は昼過ぎ。一日の中で最も気温が高い時間帯といっても、晩秋の空気は冷たい。
でも皆でバカなことを言って笑い合っていると、寒さも全く気にならなかった。北大路も楽しそうに笑ってはいた――けれども、ちょっと寂しそうにも見えた。奴には友達が全くいなかったというから、クソガキがバカなことしてただけの話とはいえ、そんな思い出を持っている俺達を羨ましく思ったのかもしれない。
待ち合わせのコンビニから歩くこと三十分、ようやく俺達は目的地である朝里高校に辿り着いた。
歴史を感じさせる古くて大きな正門前には、文化祭の文字が描かれた大きな看板がでんと掲げられていて、吸い込まれるようにどんどん人が入っていく。ちょっと覗いてみただけでも、たくさんの人がいてたくさんの店があって、盛り上がっているのがわかった。
ウチの織翼高校では、創立記念日となる六月に学園祭が行われる。なので九月から転入してきた北大路は、参加できなかったのだけれど。
「今年は俺らのクラス、喫茶店やったんだけど、男子は裏方ばっかでクソ大変だったんだよなー」
「ウチのクラスの女子、どいつもこいつも人使い荒くてさ。準備期間は死ぬかと思うくらいこき使われたよ」
「あ、でも北大路がいれば男子も覇権を握れるかも! 来年はあいつらを裏方にして仕返ししてやろーぜ!」
こんな感じで三人が言うもんだから、ちょっと寂しそうな顔をしていた北大路にも笑顔が戻った。
俺もこの面子で文化祭ができたらいいなと思った。でも三年になればクラス替えがあるし、皆とまた同じクラスで……っていうのは難しいかもしれない。だけど北大路はすっかり三人とも打ち解けられたみたいだし、この調子なら俺と離れ離れのクラスになったって、きっと皆と仲良く……。
それを考えると、何故かちくりと胸が痛んだ。
どうしたんだろう?
北大路が自分で友達を作れるようになるのは、いいことじゃないか。俺に頼らず、俺がいなくても毎日を楽しく笑顔で過ごせるようになれたら、幸せなことじゃないか。
なのに何で、そんな未来を想像するとこんなに気分が落ち込むんだ?
「南くん、どうしたの?」
隣から北大路が俺を覗き込んでくる。顔を上げると、通り過ぎる女の子やら模擬店にいた男子高生やら、いろんな人達が北大路に視線を送っているのが目に入った。
「あ、いや、ほら、あちこちでいい匂いがするからお腹空いちゃって! 早く坂井の彼女の店、行こーぜ!」
不意に湧いた奇妙な感情ごと笑い飛ばして、俺は皆を急かした。
そうだそうだ、やけに暗くて変なことを考えたのは空腹のせいだ! そうに決まってる! それしかありえない!
