十一月も一週目を過ぎると、すっかり冬の空気になってきた。
ちなみに俺は寒がりだ。デブなのに寒がりっておかしい、デブは暑がりなものだろうって皆は笑うけど、脂肪は熱しやすく冷めやすいんだよ! おかしいのは俺じゃなくて、世間のデブに対する勝手なイメージなの!
「おー! マジで北大路が来てくれたぞっ!」
坂井の声に、俺は震えながらスマホゲームに没頭していた手を止め、マフラーに包まれた首を上げた。すると大通りの向こう側に、こちらのコンビニへと駆けてくる北大路の姿が目に映る。
さすがは王子様、離れていても美青年とわかるのがすごい。
「おっしゃ、北大路がいればナンパも捗るな。神様仏様王子様、どうか素敵な出会いがありますように」
上尾に至っては、手を合わせて祈る始末。ったくこいつは、いつでもどこでも女の子のことばっかなんだからよー。
「おい、北大路をナンパの餌にするなよな。うまくいっても『えー北大路くんとは仲良くなりたいけど上尾くんはちょっと……』とか言われて後で泣くことになんぞ?」
「っせーな、わかってるよ。イケメンは敵、ヨシキ知ってる」
「上尾ヨシキにも、そこは理解できる知能があったか。じゃ俺の彼女が可愛くても横取りしない、これもわかってるな?」
「ヨシキ、それはわかんない。好みのタイプだったら、友達の彼女だろうと遠慮なく容赦なく手を出す。自分にウソ、つけない」
「んなことしたらマジでしばくぞ」
「ご、ごめん、遅くなって」
くだらない会話をしている間に、道を渡ってきた北大路が到着した。
「全然いいよ。高野もまだだし。あいつ、いっつも待ち合わせに遅れるて来るからさ」
申し訳なさそうに眉を寄せて謝る北大路にそう答えて、俺はスマホゲームを再開するフリをしてメッセージを送った。
『ちゃんと食ってきた?』
『うん! がっつりご飯食べてから来た』
『念のため、お菓子ポケットに忍ばせとけば?』
『それいいね! ちょっと買ってくる』
『俺も行くよ』
すると返ってきたのは、変な顔の猫が伸び上がって『にゃおっふん★』と叫んでいる謎スタンプ。
いや、全く意味わかんないっす。北大路って顔も良ければスタイルも良い、さらには勉強もスポーツも人並み以上なのに、スタンプの趣味だけは悪いと思うんだ……。
坂井と上尾に一言かけて、ついでに高野に『はよ来い置いてくぞボケが』とメッセージを送ってから、俺と北大路はコンビニに入った。ふわぁ……店の中、あったかいなりー!
外で冷え切った体を温めるには、やっぱりあたたかーいココアが一番!
ホットドリンクの棚からミルクココアのミニペットボトルを取って、その温かさにニンマリしていると、隣から北大路がおずおず声をかけてきた。
「ねえ、南くん。俺、本当に来て良かったのかな? 皆、迷惑に思ってるんじゃない? 社交辞令で誘っただけだったのに、真に受けてんじゃねーよってうんざりさせてるんじゃ……」
あーもう、こいつはどこまでも果てしなくめんどくせー性格してるよなー。
「お前なー、あいつらが社交辞令なんて高等なテクニック使えるほど頭良さそうに見えるか? 皆揃って見事なまでにアホなんだから、んな回りくどいことできねーし、来てほしくないなら最初から言わねーよ」
ココアを片手に、俺はお菓子のコーナーに移動してポケット菓子を適当に選んでやりながら、北大路に説明した。
実はさ、昨晩も嫌というほどこのやり取りをしたんだよ……。本当に行っていいのかな嫌がられないかなって、ついには半泣きで電話までしてきたから、これでもかってくらい心配ない大丈夫だと繰り返し繰り返し言い聞かせたんだけど。
「北大路、お前もっと自信持てよ」
「え?」
俺の言葉に、北大路が不思議そうに首を傾げた。
自信という言葉も知りませんという無垢な表情が、全パーツイケメンでバランスまでイケメンなイケメン・オブ・イケメン顔を可愛らしく演出してきやがる。イケメンがこんな顔すると普通なら嫌味に見えるところなのに、イケメンレベルが高すぎるとイケメンで染められて、何もかもがイケメンになってしまうんだな……って見とれてんじゃねーよ、俺。
「いろいろあったんだろうけどさ、そんな卑屈になることないじゃん? 北大路は顔も良いし頭も良いんだから、堂々としてていいんだよ。俺が言うのもアレだけど、お前ってすげー面白いし優しいし、なのに自分なんて……って引いちゃってるとこ、すごくもったいないと思う。だからこの際、たくさん友達作って自信をつけたらいいんじゃないかって」
そう考えて今日、俺は坂井の彼女が通う学校の文化祭に北大路を誘った。坂井と上尾と高野にも前もって相談してたんだけど、三人共大喜びで賛成してくれた。
だけどもしかしたら北大路にとっては、それこそありがた迷惑だったのかも、なんて今更思う。自信持てと言っておいて、俺も自信がないんだ。
北大路から過去の話を聞いて、あんな悲しいことは忘れて笑ってほしいと心から思った。追い出されて仕方なくこの地に来たわけだけど、それでも北大路にもここに来て良かったと思ってほしい。
だけどどうしたらいいのか、全然わからなかったんだ。だから今回の件は、我ながら強引な手段に出てしまったと思ってる。でもこのくらいしないと北大路はいつまで経っても他の人と打ち解けられなさそうだし、でもでも強引すぎて精神的に大きな負担をかけてしまったような気がするし、でもでもでも……!
「南くん、ありがとね」
もだもだと脳内会議をしていた俺の耳元に、優しい囁きが落ちた。
「南くんは、俺のことを思って誘ってくれたんだよね。なのに俺、ウジウジしてばっかりで……こんなんじゃ、南くんの友達として恥ずかしいよな。今日は皆と話せるように頑張ってみるよ。自信がついたら、南くんも俺のことを見直してくれるかもしれないし?」
北大路は最後にいたずらっぽく笑って、俺がずっと握り締めていたココアをひょいと取ってレジに向かった。
さりげなーく、奢られてしまったんですが……?
こういうことをさらっとできちゃうとか、少女漫画の王道ヒーローかよ! 俺、ふくよかDKであって全く少女漫画のヒロインって感じじゃないのに……ちょっとヒロインになりたいなんて不気味なこと思っちゃったじゃねーか!
北大路って、間違いなく天然たらしだと思う!!
