大丈夫だよ、と僕の背中を押してくれたあの力強い声がトラックに響きわたる。
その声に勇気をもらい、差し出されたバトンを強く握りしめた。
掌が他人と重なる不快感。指先に冷たい金属と、岡崎くんの熱い熱が伝わる。
だけど、不思議と前回のようにはならなかった。ちゃんと前を向くことができている。それはきっと、この先に月城くんが待っているからだ。
僕は必死になってバトンを握り直し、一気に加速した。スマートな渡し方ではなかったけれど、落とさなかった。
うまくできた。ちゃんと、受け取れた。
大丈夫、僕は走れる。
走らなきゃ。
後ろを振り返らず、ひたすらに前だけを見据える。
トラックを半周した先に月城くんがいる。
まだ遙か遠くで、豆粒みたいに小さくて、顔なんて見えないはずなのに。
それでも、僕が落とさずにバトンを受け取った瞬間、彼が太陽みたいに笑っているとわかった。
——死ぬ気で走って、絶対一位でゴールしてみせるから。
月城くんがそう言ってくれたから、僕は彼の言葉を信じている。僕がどんなに失敗しても、彼なら絶対一位でゴールしてくれると。
僕に責任を感じさせないために。
もしさっき、バトンを落としたのが僕だったら、月城くんはあんな風に怒鳴りつけたりしなかったはずだ。
落としたのが岡崎くんだったから、あえて普段通りに怒鳴りつけた。その方が、岡崎くんが過剰な責任を感じずに、反骨心で走りきれると分かっていたからだ。
彼はいつも、ちゃんとその人のことを見て言葉を選んでいる。
そしてこのあと、岡崎くんのミスを帳消しにするため、彼はバトンをもらったら死ぬ気で走るだろう。
月城くんは誰かのためになら、自分を顧みず躊躇なく行動してしまうから。
誰かを助けたいと思ったら、見返りなんて求めずに無茶をしてしまう。
かつて、大事な人の不調に気づけなかった、守れなかったと自分の行動を後悔しているから。
そんな彼が、僕のために死ぬ気で走ると言ってくれるのなら。
——僕は、少しでも君の負担を減らしたい。
君が、誰かのために無理をして、もう傷つかなくてもいいように。
そう思った瞬間、不思議なことに、リレーに対する恐怖よりも「月城くんにできるだけ早く、バトンを渡したい」という気持ちが、僕の中で爆発的に膨れ上がった。
リレーは一人で走るものじゃないと、教えてくれたのは月城くんだ。
だから、僕も全力で応えたい。
僕は思い切り地面を蹴り飛ばした。ただ月城くんのために走ろう、そう心に決めた。
走りながら、心の中で強く願う。
どうか無事に、バトンをつなげますように。
「白倉! いけぇ! 抜かせ!」
テントの方から、誰かの叫ぶような声が聞こえてきた。
周囲からの熱い声援が、僕の背中を強烈に押し上げてくれる。普段なら注目されるだけで縮こまってしまうのに、今は前しか見えないからか、その熱さが心地よくさえあった。
「前、見えてる! 追いつけるぞ‼」
クラスメイトの声に奮い立たされながら、もう少しだけ足を速める。
目の前を走っていた走者の背中が、みるみるうちに近づいてくる。
一人、一気に抜き去った。だけど、それでも足は緩めない。
月城くんのいる位置まで、まだ距離はある。あと三人、抜かなきゃいけない。
一位で月城くんに渡せば、いくら彼でも無理をせずに走れるかな。
「白倉すげえ!」
「めちゃくちゃ速え! あいつ陸上部だっけ⁉」
「もう一人抜け——‼」
地響きのようなどよめきが湧き起こる中、前を走る走者をもう一人、さらにもう一人と鮮やかに抜き去っていくことができた。
身体が焼け付くように熱い。でも、信じられないほど気持ちよかった。
なぜか笑みさえこぼれてしまいそうなほどの、圧倒的な爽快感に満たされていた。
もともと、走ること自体は嫌いじゃなかった。むしろ得意な方だ。無心で足を動かせばいいだけだから。
けれど、自分のためではなく、誰かのために「行動したい」と心の底から思える日が来るなんて、想像もしなかった。
それが少しだけ嬉しくて、視界が熱くなる。
こんな気持ちになれたのは全部、月城くんのおかげだ。
「湊——!」
月城くんが大きく手を振っているのが見えた。でも、その前にもう一人走者がいる。
気がつけば、僕は最下位から一気に二位まで浮上していた。
トップを走る他クラスの生徒の背中が間近に迫る。僕が一位になって月城くんにバトンを渡せば、きっと彼はもっと楽に、気持ちよく走れるはずだ。
だから、絶対に抜く。絶対、一位で渡す。
その一心で、僕は最後の力を振り絞った。
周囲の歓声がより一層大きくなった気がしたけれど、僕の耳にはもう風の音しか聞こえなかった。
テイクオーバーゾーンに入る直前、ついに先頭を走っていた走者を外側から抜き去ることに成功した。
僕は手を思い切り後ろから前へと伸ばす。
誰かが自分の領域に侵入してくることへの恐怖よりも、この想いをしっかりと託さなければという、使命感だけで胸がいっぱいだった。
今までずっと怖くて、触れてこなかった境界線の向こう側に、僕の方から手を差し伸べる。
彼の領域に、自分から触れに行く。
触れたい、つなげたい、つながりたいと願った、初めての強い感情だった。
「月城くん!」
思い切り振りかぶってバトンを叩きつけた。
瞬間、僕の右手と月城くんの左手が重なる。掌に硬いバトンが食い込み、肌と肌が直接擦れ合う。
心の奥底に重くのしかかっていた恐怖が、弾けるように消えていく。
ゾッとするような悪寒は一切なかった。代わりに込み上げてきたのは、胸が震えるほどの得体の知れない幸福感だった。
これまで自分が抱えていた孤独のすべてが、この一瞬のつながりによって救われたような錯覚。
高揚感と圧倒的な安心感が混ざり合って、息ができなくなる。
つなげた。ちゃんと、僕の手で。
「やりすぎだ、バカ。俺の見せ場なくなっただろ」
月城くんが眩しいほどの笑顔を見せながら、僕の指先からバトンを奪い去っていく。悔しそうな口調とは裏腹に、その声音は最高に弾んでいた。
「——でも、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとな、湊!」
そう言い残した刹那、月城くんは爆発的な勢いで加速し、一瞬にして二位の選手を置き去りにした。
あれだけ自信満々に宣言していただけのことはある。誰も追いつけないスピードで、トラックを颯爽と駆け抜ける、まるで風みたいな彼の背中に、完全に目を奪われた。
僕は膝に手を当てて、激しく肩を揺らしながら必死に空気を吸い込んだ。
彼の本気の走りを見るのは、これが初めてだった。あまりにも綺麗で、圧倒的にカッコよくて、呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。
危なげなく余裕に満ちた月城くんの背中が、あっという間にゴールテープを突き破った。
ぶっちぎりの一位で、僕たちのクラスの逆転勝利が決定した瞬間だった。
「白倉~! お前ほんとすげえよ‼」
突然、背後から弾けたような声がしたかと思うと、振り向くより早く背中に衝撃が走った。
そのまま岡崎くんに思い切り飛びつかれたらしい。よほど嬉しかったのだろう、大きな身体でぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられ、肋骨が軋んで痛い。
「おかげで俺の大失態が帳消しになった! ありがとな! まじでありがとう‼」
「わ、わかったから、ちょっと離して……苦しい……っ」
全身を硬直させながら、なんとかそれだけを返す。
こういう気安いスキンシップも、最近の月城くんからの不意打ちのせいで少しは耐性がついたと思っていたけれど、やっぱり他人にされると落ち着かない。ジタバタともがいてみるけど、興奮状態の岡崎くんは微動だにしなかった。
諦めかけたその時、一位でゴールしたはずの月城くんが、その勢いのままトラックを戻ってきて、もの凄い剣幕で僕たちのもとへと駆け寄ってきた。
「おい岡崎! 湊から離れろ、潰れるだろ!」
「うっせえなあ! ちょっとくらい良いだろ……って、うおお⁉ やめろお前、力強すぎだって!」
月城くんは凄まじい力で岡崎くんを無理やり引き剥がすと、僕の腕を引いて自分の側へと引き寄せた。
助かった、とホッとしたのも束の間。今度はなぜか、月城くん自身がそのまま僕の身体を両腕で強く抱きすくめてきた。彼の広い胸の中に、すっぽりと閉じ込められてしまう。
「ちょ、月城くん……っ!」
「湊、めちゃくちゃかっこよかった……!」
耳元で直接囁かれて、頭のてっぺんまで沸騰したように熱くなる。
状況的にはさっきの岡崎くんと同じはずだった。けれど、岡崎くんからされるのとは全然違って、全身の神経が、密着している月城くんの体温と心音だけに集中してしまい、指一本動かせなくなる。抵抗なんて到底できなかった。
月城くんがそのまま僕の髪に顔を埋めてきて、心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。
くすぐったさと、恥ずかしさで、頭の中がぐちゃぐちゃに溶けていきそうだった。
「おい、航。もう離してやれよ。白倉が茹で蛸みたいになって死にそうな顔してる」
「そうそう。お前さっき俺が白倉に抱きついてた時めちゃくちゃキレてたくせに、人のこと言えないじゃん」
「うるせえ」
冷静にツッコむ佐々木くんと、隣でギャーギャー喚く岡崎くんに不機嫌そうに応戦しながらも、月城くんは僕を羽交い締めにしたまま、しばらくの間、絶対に離してくれなかった。
その声に勇気をもらい、差し出されたバトンを強く握りしめた。
掌が他人と重なる不快感。指先に冷たい金属と、岡崎くんの熱い熱が伝わる。
だけど、不思議と前回のようにはならなかった。ちゃんと前を向くことができている。それはきっと、この先に月城くんが待っているからだ。
僕は必死になってバトンを握り直し、一気に加速した。スマートな渡し方ではなかったけれど、落とさなかった。
うまくできた。ちゃんと、受け取れた。
大丈夫、僕は走れる。
走らなきゃ。
後ろを振り返らず、ひたすらに前だけを見据える。
トラックを半周した先に月城くんがいる。
まだ遙か遠くで、豆粒みたいに小さくて、顔なんて見えないはずなのに。
それでも、僕が落とさずにバトンを受け取った瞬間、彼が太陽みたいに笑っているとわかった。
——死ぬ気で走って、絶対一位でゴールしてみせるから。
月城くんがそう言ってくれたから、僕は彼の言葉を信じている。僕がどんなに失敗しても、彼なら絶対一位でゴールしてくれると。
僕に責任を感じさせないために。
もしさっき、バトンを落としたのが僕だったら、月城くんはあんな風に怒鳴りつけたりしなかったはずだ。
落としたのが岡崎くんだったから、あえて普段通りに怒鳴りつけた。その方が、岡崎くんが過剰な責任を感じずに、反骨心で走りきれると分かっていたからだ。
彼はいつも、ちゃんとその人のことを見て言葉を選んでいる。
そしてこのあと、岡崎くんのミスを帳消しにするため、彼はバトンをもらったら死ぬ気で走るだろう。
月城くんは誰かのためになら、自分を顧みず躊躇なく行動してしまうから。
誰かを助けたいと思ったら、見返りなんて求めずに無茶をしてしまう。
かつて、大事な人の不調に気づけなかった、守れなかったと自分の行動を後悔しているから。
そんな彼が、僕のために死ぬ気で走ると言ってくれるのなら。
——僕は、少しでも君の負担を減らしたい。
君が、誰かのために無理をして、もう傷つかなくてもいいように。
そう思った瞬間、不思議なことに、リレーに対する恐怖よりも「月城くんにできるだけ早く、バトンを渡したい」という気持ちが、僕の中で爆発的に膨れ上がった。
リレーは一人で走るものじゃないと、教えてくれたのは月城くんだ。
だから、僕も全力で応えたい。
僕は思い切り地面を蹴り飛ばした。ただ月城くんのために走ろう、そう心に決めた。
走りながら、心の中で強く願う。
どうか無事に、バトンをつなげますように。
「白倉! いけぇ! 抜かせ!」
テントの方から、誰かの叫ぶような声が聞こえてきた。
周囲からの熱い声援が、僕の背中を強烈に押し上げてくれる。普段なら注目されるだけで縮こまってしまうのに、今は前しか見えないからか、その熱さが心地よくさえあった。
「前、見えてる! 追いつけるぞ‼」
クラスメイトの声に奮い立たされながら、もう少しだけ足を速める。
目の前を走っていた走者の背中が、みるみるうちに近づいてくる。
一人、一気に抜き去った。だけど、それでも足は緩めない。
月城くんのいる位置まで、まだ距離はある。あと三人、抜かなきゃいけない。
一位で月城くんに渡せば、いくら彼でも無理をせずに走れるかな。
「白倉すげえ!」
「めちゃくちゃ速え! あいつ陸上部だっけ⁉」
「もう一人抜け——‼」
地響きのようなどよめきが湧き起こる中、前を走る走者をもう一人、さらにもう一人と鮮やかに抜き去っていくことができた。
身体が焼け付くように熱い。でも、信じられないほど気持ちよかった。
なぜか笑みさえこぼれてしまいそうなほどの、圧倒的な爽快感に満たされていた。
もともと、走ること自体は嫌いじゃなかった。むしろ得意な方だ。無心で足を動かせばいいだけだから。
けれど、自分のためではなく、誰かのために「行動したい」と心の底から思える日が来るなんて、想像もしなかった。
それが少しだけ嬉しくて、視界が熱くなる。
こんな気持ちになれたのは全部、月城くんのおかげだ。
「湊——!」
月城くんが大きく手を振っているのが見えた。でも、その前にもう一人走者がいる。
気がつけば、僕は最下位から一気に二位まで浮上していた。
トップを走る他クラスの生徒の背中が間近に迫る。僕が一位になって月城くんにバトンを渡せば、きっと彼はもっと楽に、気持ちよく走れるはずだ。
だから、絶対に抜く。絶対、一位で渡す。
その一心で、僕は最後の力を振り絞った。
周囲の歓声がより一層大きくなった気がしたけれど、僕の耳にはもう風の音しか聞こえなかった。
テイクオーバーゾーンに入る直前、ついに先頭を走っていた走者を外側から抜き去ることに成功した。
僕は手を思い切り後ろから前へと伸ばす。
誰かが自分の領域に侵入してくることへの恐怖よりも、この想いをしっかりと託さなければという、使命感だけで胸がいっぱいだった。
今までずっと怖くて、触れてこなかった境界線の向こう側に、僕の方から手を差し伸べる。
彼の領域に、自分から触れに行く。
触れたい、つなげたい、つながりたいと願った、初めての強い感情だった。
「月城くん!」
思い切り振りかぶってバトンを叩きつけた。
瞬間、僕の右手と月城くんの左手が重なる。掌に硬いバトンが食い込み、肌と肌が直接擦れ合う。
心の奥底に重くのしかかっていた恐怖が、弾けるように消えていく。
ゾッとするような悪寒は一切なかった。代わりに込み上げてきたのは、胸が震えるほどの得体の知れない幸福感だった。
これまで自分が抱えていた孤独のすべてが、この一瞬のつながりによって救われたような錯覚。
高揚感と圧倒的な安心感が混ざり合って、息ができなくなる。
つなげた。ちゃんと、僕の手で。
「やりすぎだ、バカ。俺の見せ場なくなっただろ」
月城くんが眩しいほどの笑顔を見せながら、僕の指先からバトンを奪い去っていく。悔しそうな口調とは裏腹に、その声音は最高に弾んでいた。
「——でも、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとな、湊!」
そう言い残した刹那、月城くんは爆発的な勢いで加速し、一瞬にして二位の選手を置き去りにした。
あれだけ自信満々に宣言していただけのことはある。誰も追いつけないスピードで、トラックを颯爽と駆け抜ける、まるで風みたいな彼の背中に、完全に目を奪われた。
僕は膝に手を当てて、激しく肩を揺らしながら必死に空気を吸い込んだ。
彼の本気の走りを見るのは、これが初めてだった。あまりにも綺麗で、圧倒的にカッコよくて、呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。
危なげなく余裕に満ちた月城くんの背中が、あっという間にゴールテープを突き破った。
ぶっちぎりの一位で、僕たちのクラスの逆転勝利が決定した瞬間だった。
「白倉~! お前ほんとすげえよ‼」
突然、背後から弾けたような声がしたかと思うと、振り向くより早く背中に衝撃が走った。
そのまま岡崎くんに思い切り飛びつかれたらしい。よほど嬉しかったのだろう、大きな身体でぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられ、肋骨が軋んで痛い。
「おかげで俺の大失態が帳消しになった! ありがとな! まじでありがとう‼」
「わ、わかったから、ちょっと離して……苦しい……っ」
全身を硬直させながら、なんとかそれだけを返す。
こういう気安いスキンシップも、最近の月城くんからの不意打ちのせいで少しは耐性がついたと思っていたけれど、やっぱり他人にされると落ち着かない。ジタバタともがいてみるけど、興奮状態の岡崎くんは微動だにしなかった。
諦めかけたその時、一位でゴールしたはずの月城くんが、その勢いのままトラックを戻ってきて、もの凄い剣幕で僕たちのもとへと駆け寄ってきた。
「おい岡崎! 湊から離れろ、潰れるだろ!」
「うっせえなあ! ちょっとくらい良いだろ……って、うおお⁉ やめろお前、力強すぎだって!」
月城くんは凄まじい力で岡崎くんを無理やり引き剥がすと、僕の腕を引いて自分の側へと引き寄せた。
助かった、とホッとしたのも束の間。今度はなぜか、月城くん自身がそのまま僕の身体を両腕で強く抱きすくめてきた。彼の広い胸の中に、すっぽりと閉じ込められてしまう。
「ちょ、月城くん……っ!」
「湊、めちゃくちゃかっこよかった……!」
耳元で直接囁かれて、頭のてっぺんまで沸騰したように熱くなる。
状況的にはさっきの岡崎くんと同じはずだった。けれど、岡崎くんからされるのとは全然違って、全身の神経が、密着している月城くんの体温と心音だけに集中してしまい、指一本動かせなくなる。抵抗なんて到底できなかった。
月城くんがそのまま僕の髪に顔を埋めてきて、心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。
くすぐったさと、恥ずかしさで、頭の中がぐちゃぐちゃに溶けていきそうだった。
「おい、航。もう離してやれよ。白倉が茹で蛸みたいになって死にそうな顔してる」
「そうそう。お前さっき俺が白倉に抱きついてた時めちゃくちゃキレてたくせに、人のこと言えないじゃん」
「うるせえ」
冷静にツッコむ佐々木くんと、隣でギャーギャー喚く岡崎くんに不機嫌そうに応戦しながらも、月城くんは僕を羽交い締めにしたまま、しばらくの間、絶対に離してくれなかった。


