「奴隷たちの数を増やして、衣服の生産をさせましょう。布から作ると色々と大変だから、布等は最初は輸入して。そういえば、グールたちの生活はどうなっているの? おもに軍事に対する給与と砦や町の建設で収入を得ていると聞いているけれど、私たちが食料その他の物質を仕入れているのよね?」
ルキフグスは答えた。
「城の商い担当グループで聖王国やカーリャからまとめて仕入れて、砦街の市で販売しています。輸入品を買い付けてくる不死者のグループ、輸入品の搬入を担当するグールのグループ、輸入品を市場で販売する奴隷のグループ、という具合に。グールたちには兵士としての給与に、建設作業手当なども出していますし、不死者にはグール生産手当、指導手当なども財宝庫から出しておりますので、それで食料や生活用品を購入しているようです。こちらはこちらで、輸入品の価格に多少上乗せして、販売しています。資金が不足しがちな奴隷たちには、農地や仕事の斡旋などもしておりますし、傷病などで生活ができない場合には財宝庫から支出して生活の工面をしています。それがだいたいの彼らのここでの生活の実態ですね」
私は急に財宝庫のほうが心配になってきた。
「そうすると財宝の支出がかなりの額に上るんじゃないの?」
ルキフグスは頷く。
「そうですが、いまのところ歳入のほうが大きいです。聖王国からの上納金、三軍の支配地域からの上納金だけで、私たちの支配領域全体の支出をかなり上回っています。具体的には年間の支出が6000億シェケル、歳入が一兆シェケルちょっとです。これは要塞線建設費用が3500億シェケルを占め、その他に街の建設関連の資材費、牧畜、農業の発展の支援、建築、輸送等に使った人件費、グール全体の給与と手当、不死者に対する給与と手当が残りの全てです。対して収入が聖王国、クロワ、アドカヤからのものが総額でほぼ1兆シェケルなので、かなり余ってる状態です。加えて五年賦でのカーリャの賠償金が既に支払われ、財宝庫に元々あった金銀と合わせて総額、17兆シェケルは超えています。その内の大半が新貨です。なのでお金の心配は当面ないかと」
私はわかった、と頷いて、更に聞いた。
「軍備の備えはどうなっているの? 12の要塞はアーティファクトで守るというけれど、グールや不死者たちの武装はどうなっているの?」
「武具はほぼ輸入に頼っていますが、略奪品の剣や槍、モーニングスター、斧、弓、弩なども配備されています。最近鉄砲の導入も始めましたが、まだ数は少ないです。集団では大砲も配備しています。防具は私服に鎖帷子を着せ、その上から革鎧をかぶせる形です。それに軽盾を配備しています。まぁ防衛に関しては不死者の操るアーティファクトと魔術が頼りですね」
私は頷いて言う。
「なるほど、よくわかったよ。今回は聖伐を乗り越えたいからね、軍備に力を入れて行こう。そのためにもお金貯めてね。
久々に視察に行こうかな、街に散歩がてらに。それから、お食事もお願いできるかしら?」
ルキフグスはくすくす笑う。
「起きたらすぐ食べますよね、サリエル。まぁ六年も寝てたら当然か」
そう言ってルキフグスは部屋から出て行った。
18
基本的に唯一の隣接国であるカーリャと講和しているから、攻め込む場所がなくなっていた。
カーリャと永久の平和を築いたわけではないから、何か口実があれば攻め込むし、今のカーリャの王が死去、或いは退位したら、講和条約も失効したと解釈して、また一戦交えるつもりでいる。
この講和はカーリャの王太子と交渉して結んだものだから、カーリャの王家と結んだものであり、ひいてはカーリャ王との講和である、という論法で、カーリャ王が死んだらまた難癖をつけて攻め込む算段なのだ。
それまでは、三軍と私たちの勢力、それぞれの支配地域を発展させ、軍備を増強し、来るべきカーリャとの戦争、更には最も恐ろしいイベントである聖伐に備えようということになっている。
わたしたち四つの軍勢のそれぞれがグールと不死者を増やし、税収から、武具、輜重品、輜重隊の維持、主要地区や要衝の砦の建築や街道の整備、など、とりかかるべき事業が多すぎて、お金も人手も足りないらしく、最近では三軍に対して私たちの勢力から融資なども始めている。
ちょっと把握する範囲が煩雑になってきているので、それぞれの支配地域の現状と軍備の状況を共有するために、四つの勢力の現況報告のために連絡会を、年に一回開くようになったらしく、私も今日アドカヤの州都ロアンで、その連絡会に参加していた。
「私たちネフィリムの軍備の現況は、ネフィリム40名。不死者は0人から現在122名ほどに増やしました。グールの数は31000人です。聖王国の管理は主に政務を行う人間たちの監視、暴動の抑制を主軸に管理しています。人間の人口は857万人ということが戸籍統計からわかっています。都市の開発や、防備の建設等、特別な建設事業は今のところしていません」
ネフィリムの代表者であるカルキが簡単にそう報告した。何やら眠いのか、目の下にクマができているし、瞼も落ちそうになっている。
次に魔族のヨミアエルが報告する。
「俺たちはクロワを支配していますが、幾つかの街道の要衝部に砦を建設中です。これは聖伐への備えのためです。軍備は俺たちエルヨが二人。配下の不死者は51名まで増やしました。グールは20000体。クロワの人間の人口は91万人で、税収は年初に報告した通りです」
続いてサクロが報告する。
「私たちは不死者が65名。グールが31000人です。ロアンの城壁の拡充と、防衛設備の拡張をメインに都市開発しています。人口は微増して11万人。以上です」
最後にルキフグスが立ち上がって報告を始める。
「私たちは不死者が22名。グールが72000体。三つの軍に対するグール貸し付けが37000体。融資の貸し付けが4500億シェケル。金銀の資産残高が17兆4000億シェケルほど。人間の人口はほとんどが奴隷で、1800人ほどです。以上です。それぞれ要望や提案はありますか?」
サクロが言いづらそうにしてそれをごまかすように笑いながら言う。
「ルキフグスさんたちからお金を借りたいです。追加で一千五百億ほど」
ヨミアエルも言う。
「俺も借りたい。一千億。砦の建設に金がかかるが、聖伐への備えを疎かにするわけにもいかない」
ルキフグスはあっさりいいよー、と言ってお金を貸す約束をする。
ちなみに夜の城の財宝はルキフグスと私の共同のものなので、どっちがいくら使ってもいいということにしていたから、城のお金を貸すのはルキフグスの自由だった。
目下の基本方針は軍備防衛施設の拡充と、カーリャの王が死んで、カーリャに攻め込む手はずを整えること。そのためにお金を費やすこと、ということになった。
海を渡れれば、他にも攻め込める地域はあるのだが、そのためには帆船に莫大なお金がかかるし、帆船の整備のための港や水兵の経験者も必要になる。まして聖伐が始まれば人間世界の海軍が総動員されてとても勝ち目がないので、半端な海軍を持ってもしょうがない。
それでも、長期目標として海軍の存在は不可欠と言える。百年前の大戦争の折も、海外からの収入は大切な財政源となっていたし、海軍の育成には長い時間とお金がかかる。今から育てておいてもいいかもしれない。
連絡会議が終わると、私はルキフグスに私の考えを伝え、海岸線に近い漁師集落の中から、港を建設できそうな領地を探してもらうように頼んだ。
ルキフグスは少し考えた後、
「造船の建設にたずさわっていた奴隷たちに選定させましょう。結構奴隷の中には海軍で働かされていた者たちもいるのですよ。多くは造船業の工員や、漕ぎ手としてですが。海外から来る闇商人にも相談させます。彼らはその手のことに明るいでしょうから」
私は手間をかけさせてごめんね、と言いながら、港の選定をルキフグスに託した。
アドカヤや聖王国には大きな港があるが、私たちの領地にはないので、闇商人との貿易を円滑化させるにも、海軍を育成するにも、港の存在は必須だった。
お金もちょっとだいぶ余っているし、海軍の建造に着手するにはいいタイミングかもしれないと考えながら、夜の城への帰路についた。
19
それから13年経った今年。聖王国の属国化から39年が経ち、カーリャとの講和から19年が経った今年。
かねてより病状悪化が噂されていたカーリャ国王が72歳で死去した。
人間の命は儚い。こうも短い間に老い、死に、世代が入れ替わるのだから。
しかしそれと同時期に予期しない事態が起こった。
聖王国を表向き支配する聖王が、他の領国の視察中に、暗殺されるという事件が起こったのだ。
首謀者はハランという領国の貴族の自警団による組織的な反乱ということで、早々にネフィリムの軍勢が彼らを捕らえ、関係するものを投獄したり処刑したりした。
それで、ハランの貴族は隠居させ、その子供である長男をハランの貴族に据えた。
問題は、聖王国の聖王の血筋が、複数存在したということだ。
聖王の長女の派閥。聖王の弟の派閥。聖王の妃の派閥という風に、三つの後継者に分かれて、後継者争いを誰にするか、という政争のネタが生まれてしまったため、私たちはその問題にかかわる羽目になり、すぐにカーリャにことを起こせる状態ではなくなってしまっていた。
聖王の後継者は、聖王の遺言に従って継承されるが、その遺言がない場合、王位継承順位の高いものが、貴族たちの承認によって位につくものとされている。
問題は、今回の事態だと、どの王位継承者も、過半数の貴族の承認を得ることができず、誰も聖王の座に着けないということにあった。
その場合、歴史においては血なまぐさい謀略と政争と内乱がはじまるのだが、そんな面倒な事態はごめんなので、私たち魔族側の四つの勢力は、こぞって聖王の長女を擁立する派閥を支持する旨を発表した。
それはアドカヤ、クロワ、また夜の城の国主として、保護国の王位継承権争いに参政し、聖王国の統治の混乱を治めるため、と説明した。
大多数の貴族と領主は、その旨に従ったが、聖王の弟の一派の一部は聖王の長女の擁立に反対した。
しかし過半数の貴族の支持は得たので、法的に問題なく、聖王の長女が継いだ。
ちなみに長女を推したのは単純に若かったからである。若ければ長く統治して安定をもたらすでしょう、という私の単純な発想だった。
女の方が長生きするし。その点彼女は要件を満たしていた。
それで、聖王国の国政と内情が落ち着くまで、数年様子を見ようということを、魔族の連絡会議で確認し合った。
20
聖王国の新聖王は、私たちが後ろ盾になったせいか、私たちに忠実な王となった。
頻繁にネフィリムたちと会見を持ち、ヨミアエルやヘルエムメレクとも食事会を開いたり、サクロたち魔王とその幹部とも臆さずに交流を深めた。
これまで聖王国に対しては、軍備を極端に制限して、警察的な最小限の組織しか許してこなかったのだが、聖王に関しては、親衛隊的な軍隊を持つことを許した。
これには若干意図があって、これからカーリャに侵略するにあたって、聖王国に駐留する軍隊を削減したいという狙いがあった。
今の新聖王は忠実だし、軍隊を持たせることで聖王国の治安を自力で維持させ、私たちは侵略に出かけるという図式にしたかった。
それに伴って、四つの軍勢のグールの総数が27万体まで膨れ上がっていたため、大きな軍制改革を行うことにした。
グール千人につき一人の不死者をつけ、それを指揮する不死者の軍を「大隊」とした。
その隊を十個合わせたものをネフィリムに指揮させ、それを「師団」とした。
さらに師団を三つないし五つあわせたものをエルヨが指揮し、それを「軍団」という感じにして、組織体系を簡略化した。
例外として、魔王役をやっていたサクロとネフィリムの代表であるカルキはエルヨと同格という扱いで、「軍団」を指揮することとした。
ルキフグスは答えた。
「城の商い担当グループで聖王国やカーリャからまとめて仕入れて、砦街の市で販売しています。輸入品を買い付けてくる不死者のグループ、輸入品の搬入を担当するグールのグループ、輸入品を市場で販売する奴隷のグループ、という具合に。グールたちには兵士としての給与に、建設作業手当なども出していますし、不死者にはグール生産手当、指導手当なども財宝庫から出しておりますので、それで食料や生活用品を購入しているようです。こちらはこちらで、輸入品の価格に多少上乗せして、販売しています。資金が不足しがちな奴隷たちには、農地や仕事の斡旋などもしておりますし、傷病などで生活ができない場合には財宝庫から支出して生活の工面をしています。それがだいたいの彼らのここでの生活の実態ですね」
私は急に財宝庫のほうが心配になってきた。
「そうすると財宝の支出がかなりの額に上るんじゃないの?」
ルキフグスは頷く。
「そうですが、いまのところ歳入のほうが大きいです。聖王国からの上納金、三軍の支配地域からの上納金だけで、私たちの支配領域全体の支出をかなり上回っています。具体的には年間の支出が6000億シェケル、歳入が一兆シェケルちょっとです。これは要塞線建設費用が3500億シェケルを占め、その他に街の建設関連の資材費、牧畜、農業の発展の支援、建築、輸送等に使った人件費、グール全体の給与と手当、不死者に対する給与と手当が残りの全てです。対して収入が聖王国、クロワ、アドカヤからのものが総額でほぼ1兆シェケルなので、かなり余ってる状態です。加えて五年賦でのカーリャの賠償金が既に支払われ、財宝庫に元々あった金銀と合わせて総額、17兆シェケルは超えています。その内の大半が新貨です。なのでお金の心配は当面ないかと」
私はわかった、と頷いて、更に聞いた。
「軍備の備えはどうなっているの? 12の要塞はアーティファクトで守るというけれど、グールや不死者たちの武装はどうなっているの?」
「武具はほぼ輸入に頼っていますが、略奪品の剣や槍、モーニングスター、斧、弓、弩なども配備されています。最近鉄砲の導入も始めましたが、まだ数は少ないです。集団では大砲も配備しています。防具は私服に鎖帷子を着せ、その上から革鎧をかぶせる形です。それに軽盾を配備しています。まぁ防衛に関しては不死者の操るアーティファクトと魔術が頼りですね」
私は頷いて言う。
「なるほど、よくわかったよ。今回は聖伐を乗り越えたいからね、軍備に力を入れて行こう。そのためにもお金貯めてね。
久々に視察に行こうかな、街に散歩がてらに。それから、お食事もお願いできるかしら?」
ルキフグスはくすくす笑う。
「起きたらすぐ食べますよね、サリエル。まぁ六年も寝てたら当然か」
そう言ってルキフグスは部屋から出て行った。
18
基本的に唯一の隣接国であるカーリャと講和しているから、攻め込む場所がなくなっていた。
カーリャと永久の平和を築いたわけではないから、何か口実があれば攻め込むし、今のカーリャの王が死去、或いは退位したら、講和条約も失効したと解釈して、また一戦交えるつもりでいる。
この講和はカーリャの王太子と交渉して結んだものだから、カーリャの王家と結んだものであり、ひいてはカーリャ王との講和である、という論法で、カーリャ王が死んだらまた難癖をつけて攻め込む算段なのだ。
それまでは、三軍と私たちの勢力、それぞれの支配地域を発展させ、軍備を増強し、来るべきカーリャとの戦争、更には最も恐ろしいイベントである聖伐に備えようということになっている。
わたしたち四つの軍勢のそれぞれがグールと不死者を増やし、税収から、武具、輜重品、輜重隊の維持、主要地区や要衝の砦の建築や街道の整備、など、とりかかるべき事業が多すぎて、お金も人手も足りないらしく、最近では三軍に対して私たちの勢力から融資なども始めている。
ちょっと把握する範囲が煩雑になってきているので、それぞれの支配地域の現状と軍備の状況を共有するために、四つの勢力の現況報告のために連絡会を、年に一回開くようになったらしく、私も今日アドカヤの州都ロアンで、その連絡会に参加していた。
「私たちネフィリムの軍備の現況は、ネフィリム40名。不死者は0人から現在122名ほどに増やしました。グールの数は31000人です。聖王国の管理は主に政務を行う人間たちの監視、暴動の抑制を主軸に管理しています。人間の人口は857万人ということが戸籍統計からわかっています。都市の開発や、防備の建設等、特別な建設事業は今のところしていません」
ネフィリムの代表者であるカルキが簡単にそう報告した。何やら眠いのか、目の下にクマができているし、瞼も落ちそうになっている。
次に魔族のヨミアエルが報告する。
「俺たちはクロワを支配していますが、幾つかの街道の要衝部に砦を建設中です。これは聖伐への備えのためです。軍備は俺たちエルヨが二人。配下の不死者は51名まで増やしました。グールは20000体。クロワの人間の人口は91万人で、税収は年初に報告した通りです」
続いてサクロが報告する。
「私たちは不死者が65名。グールが31000人です。ロアンの城壁の拡充と、防衛設備の拡張をメインに都市開発しています。人口は微増して11万人。以上です」
最後にルキフグスが立ち上がって報告を始める。
「私たちは不死者が22名。グールが72000体。三つの軍に対するグール貸し付けが37000体。融資の貸し付けが4500億シェケル。金銀の資産残高が17兆4000億シェケルほど。人間の人口はほとんどが奴隷で、1800人ほどです。以上です。それぞれ要望や提案はありますか?」
サクロが言いづらそうにしてそれをごまかすように笑いながら言う。
「ルキフグスさんたちからお金を借りたいです。追加で一千五百億ほど」
ヨミアエルも言う。
「俺も借りたい。一千億。砦の建設に金がかかるが、聖伐への備えを疎かにするわけにもいかない」
ルキフグスはあっさりいいよー、と言ってお金を貸す約束をする。
ちなみに夜の城の財宝はルキフグスと私の共同のものなので、どっちがいくら使ってもいいということにしていたから、城のお金を貸すのはルキフグスの自由だった。
目下の基本方針は軍備防衛施設の拡充と、カーリャの王が死んで、カーリャに攻め込む手はずを整えること。そのためにお金を費やすこと、ということになった。
海を渡れれば、他にも攻め込める地域はあるのだが、そのためには帆船に莫大なお金がかかるし、帆船の整備のための港や水兵の経験者も必要になる。まして聖伐が始まれば人間世界の海軍が総動員されてとても勝ち目がないので、半端な海軍を持ってもしょうがない。
それでも、長期目標として海軍の存在は不可欠と言える。百年前の大戦争の折も、海外からの収入は大切な財政源となっていたし、海軍の育成には長い時間とお金がかかる。今から育てておいてもいいかもしれない。
連絡会議が終わると、私はルキフグスに私の考えを伝え、海岸線に近い漁師集落の中から、港を建設できそうな領地を探してもらうように頼んだ。
ルキフグスは少し考えた後、
「造船の建設にたずさわっていた奴隷たちに選定させましょう。結構奴隷の中には海軍で働かされていた者たちもいるのですよ。多くは造船業の工員や、漕ぎ手としてですが。海外から来る闇商人にも相談させます。彼らはその手のことに明るいでしょうから」
私は手間をかけさせてごめんね、と言いながら、港の選定をルキフグスに託した。
アドカヤや聖王国には大きな港があるが、私たちの領地にはないので、闇商人との貿易を円滑化させるにも、海軍を育成するにも、港の存在は必須だった。
お金もちょっとだいぶ余っているし、海軍の建造に着手するにはいいタイミングかもしれないと考えながら、夜の城への帰路についた。
19
それから13年経った今年。聖王国の属国化から39年が経ち、カーリャとの講和から19年が経った今年。
かねてより病状悪化が噂されていたカーリャ国王が72歳で死去した。
人間の命は儚い。こうも短い間に老い、死に、世代が入れ替わるのだから。
しかしそれと同時期に予期しない事態が起こった。
聖王国を表向き支配する聖王が、他の領国の視察中に、暗殺されるという事件が起こったのだ。
首謀者はハランという領国の貴族の自警団による組織的な反乱ということで、早々にネフィリムの軍勢が彼らを捕らえ、関係するものを投獄したり処刑したりした。
それで、ハランの貴族は隠居させ、その子供である長男をハランの貴族に据えた。
問題は、聖王国の聖王の血筋が、複数存在したということだ。
聖王の長女の派閥。聖王の弟の派閥。聖王の妃の派閥という風に、三つの後継者に分かれて、後継者争いを誰にするか、という政争のネタが生まれてしまったため、私たちはその問題にかかわる羽目になり、すぐにカーリャにことを起こせる状態ではなくなってしまっていた。
聖王の後継者は、聖王の遺言に従って継承されるが、その遺言がない場合、王位継承順位の高いものが、貴族たちの承認によって位につくものとされている。
問題は、今回の事態だと、どの王位継承者も、過半数の貴族の承認を得ることができず、誰も聖王の座に着けないということにあった。
その場合、歴史においては血なまぐさい謀略と政争と内乱がはじまるのだが、そんな面倒な事態はごめんなので、私たち魔族側の四つの勢力は、こぞって聖王の長女を擁立する派閥を支持する旨を発表した。
それはアドカヤ、クロワ、また夜の城の国主として、保護国の王位継承権争いに参政し、聖王国の統治の混乱を治めるため、と説明した。
大多数の貴族と領主は、その旨に従ったが、聖王の弟の一派の一部は聖王の長女の擁立に反対した。
しかし過半数の貴族の支持は得たので、法的に問題なく、聖王の長女が継いだ。
ちなみに長女を推したのは単純に若かったからである。若ければ長く統治して安定をもたらすでしょう、という私の単純な発想だった。
女の方が長生きするし。その点彼女は要件を満たしていた。
それで、聖王国の国政と内情が落ち着くまで、数年様子を見ようということを、魔族の連絡会議で確認し合った。
20
聖王国の新聖王は、私たちが後ろ盾になったせいか、私たちに忠実な王となった。
頻繁にネフィリムたちと会見を持ち、ヨミアエルやヘルエムメレクとも食事会を開いたり、サクロたち魔王とその幹部とも臆さずに交流を深めた。
これまで聖王国に対しては、軍備を極端に制限して、警察的な最小限の組織しか許してこなかったのだが、聖王に関しては、親衛隊的な軍隊を持つことを許した。
これには若干意図があって、これからカーリャに侵略するにあたって、聖王国に駐留する軍隊を削減したいという狙いがあった。
今の新聖王は忠実だし、軍隊を持たせることで聖王国の治安を自力で維持させ、私たちは侵略に出かけるという図式にしたかった。
それに伴って、四つの軍勢のグールの総数が27万体まで膨れ上がっていたため、大きな軍制改革を行うことにした。
グール千人につき一人の不死者をつけ、それを指揮する不死者の軍を「大隊」とした。
その隊を十個合わせたものをネフィリムに指揮させ、それを「師団」とした。
さらに師団を三つないし五つあわせたものをエルヨが指揮し、それを「軍団」という感じにして、組織体系を簡略化した。
例外として、魔王役をやっていたサクロとネフィリムの代表であるカルキはエルヨと同格という扱いで、「軍団」を指揮することとした。

