13
毎年貯めこんだ金銀財宝は、次の聖伐に備えて、防備に費やすことに決めた。実際聖伐のたびに軍備と財宝を略奪されては、今後こちらがいくら頑張っても同じことの繰り返しだ。
防御。私たちエルヨは防御の大切さについて学ばなければならない時期に来た。
ルキフグスが持ってきた要塞の計画は、かなり大規模な建築物になる計画だった。
「夜の城を囲むように、12の要塞を建築します。すべて砂と砂利をセメントで固めたコンクリート造りにします。12の要塞の周囲は鉄条網で囲み、12の要塞同士は堡塁で繋げます。堡塁からは弓と、最新兵器である鉄砲による攻撃をし、砲台も設けて、大砲による攻撃も行います。それぞれの要塞の中には指揮所、観測所、給水設備、武器庫、グールたちの待機所などを設けます。また十二の要塞にはそれぞれアーティファクトを配備する予定です」
アーティファクト。
現在の人間の技術にはない、古代にエルヨが造った武具。
単純に火砲系が多いが、その全ては魔術的作用で動く。
火力一点集中型の重魔道砲。一撃で直線状五キロ以内の障害物を破壊する兵器。
軽魔道砲。一撃の威力は重魔道砲に遥かに劣るが、比較的連射に向いている兵器。
広域魔道砲。この兵器より周辺二十キロの距離までの、範囲1,2㎞の範囲内の障害物、建築物を破壊する兵器。
いずれも高位の魔術に精通した、ネフィリム、エルヨ級の存在か、もしくは極めて優れた不死者でなければ扱えないのが難点で、恐らくルキフグスが12個のアーティファクトを持ち出すのは、現在の戦力でそれが運用できる限界だからだろうと思った。
重すぎて持ち出すのが大変なうえ、鹵獲されて逆利用されたらこちらがやばくなるので、前線には持ち出せない兵器でもあった。
私たち侵略を是とする魔族の切り札でもある。
夜の城が聖伐から守りきれたのは、夜の城の異常な堅牢さと、これらアーティファクトのおかげでもあった。
私はルキフグスに感想を言う。
「ものすごいお金がかかりそうだね。でも人間に奪われるよりいいか。まずは安全を確保すべきというのは、そうかもしれない」
夜の城とその周辺の森、砦の街、禁足地の面積を総合でグールに測量させたことがある。
総面積はおよそ2200平方キロメートル。
恐らく夜の城の周辺だけを囲むと言っても相当な距離になりそう。
城にいるグールを総動員して建築に当たっても、何年かかるのだろう。
私はそろそろ眠りにつきたい。
「じゃあわたし、眠るから、お金の試算しといて。必要な時起こしていいから」
ルキフグスは言う。
「緊急の時だけ、起こすね。貴方の寝顔を見てるのが好きなの」
なんだか困ってしまうような返答だったけど、私は結構眠くなっていたので、横になった。睡眠時間が長い代わりに、起きている時間も結構数か月単位で起きていることが多いのだ。今回も二か月寝ていない。
じゃあおやすみー、とわたしはルキフグスに言って、ベッドの深みに入った。
14
五年が経って、隣国の大国、カーリャが私たちが保護国にしている聖王国の解放のために、宣戦布告してきた。
聖王国の保護国化から20年も経過している。人間もずいぶん呑気なものだ。
その間にグールたちの総数は11万を超えていたし、サクロ、魔族、ネフィリムの三軍が聖王国に対する防備を固めていた。
私たちはと言えば、要塞線の建設に忙しい。12の要塞のうち、人間の世界へ続く街道側の三つの要塞が完成し、二つは構築中、残り七つはまだ建設していなかった。
相手がもう少し親切ならば、十年、十五年、まだ時間をかけてほしかった。
ルキフグスがソファに座り、私はテーブルに座っている。ルキフグスは私と付き合ってからも相変わらずで、距離を詰めてこようとしない、独特な間合いがあった。
数日に一回キスを迫るようになったのはちょっと妙な気分というか変な感覚だったが、まぁそれ以外は今まで通りだった。
ルキフグスが唐突に言う。
「カーリャは別の国との戦争が終結したばかりなのに、性急ですね。密偵からは敵軍の規模は14万から16万人ほどと報告が入っています。多くは旧式の装備ですが、鉄砲の配備もされているとか。まぁ敵じゃありませんね。万が一、三軍が敗れても、この夜の城とアーティファクトを配備した要塞を突破できるわけありませんし」
いままで防衛設備に力を入れたことが無かったが、密かにこのような事態になると、要塞の存在は心強かった。
私は問いかける。
「アーティファクトを扱うものは決まっているの?」
彼女は言う。
「私たち直轄の不死者のうち、12名はアーティファクトを扱えます。いま稼働できる要塞は三つなので、現時点では人材に余裕があるほどです」
アーティファクトの運用は問題ないようだ。
私たち直属の不死者たちは、不死者の中でも魔術に極めて精通しているものが多いから、魔術の扱いに関してだけは、中堅のエルヨに迫る力があった。
正直人間の軍勢とアーティファクトの火力は次元が違うから、それこそ人間世界が総がかりで攻めてこない限り安泰と言えた。
「じゃあ何の問題もない」といって私は安心しきってあくびをした。
聖王国や三軍の支配地域から上納される金貨や財宝は、要塞線の建設費、資材、食料調達、アパート建築、家畜の購入と飼料や小屋の建設、上下水道の延伸、輜重用の馬や荷車とその管理費、そしてグールや不死者たちに配る報酬の金貨で、毎年ごっそり持っていかれた。
それですら黒字で、毎年蔵に積みあがる金貨の数は増えていく。
それだけ聖王国からの上納金が大きいのだ。
何としても三軍にはカーリャの侵攻を止めていただき、聖王国の支配の維持を継続したいところだった。
「今回はカーリャが雇った勇者と冒険者の軍勢7000人がいます。サクロにとって魔王として名を売るチャンスですね」とルキフグスが楽しそうに言う。
勇者とはネフィリムを五名以上殺した者の尊称で、人間の中でも魔術を使える稀有な存在だ。
さらに英雄はエルヨを二名殺した者に対する称号で、その両方を為したものは神人と呼ばれる。
神人は滅多にいない。なぜならエルヨとネフィリムを敵に回して、長く生きていられる人間はそうはいないからだ。
人間の個人が名が売れれば売れるほど、ネフィリムは襲おうと躍起になる。仲間殺しを許さない部族が多いからだ。
エルヨである私でさえ、悪名が高まりすぎてネフィリムに殺されかけたのだから、人間が神人となったら、真っ先に潰しにかかってくるのだ。
こちらはグール11万体のうち、85000を三軍に振り分けた。
サクロの軍に35000。
魔族の軍に25000。
ネフィリムの軍に25000。
という案配だ。
サクロの軍は不死者の数が多いから、大目に振り分けた。
残る二万五千は夜の城の防衛に当たらせている。
夜の城の不死者の数は私の直轄の不死者が七名。ルキフグス直轄の不死者が九名。その他にグール教育用の不死者が6名いた。
私とルキフグス直轄の不死者は高位の魔術を扱えるものが多く、不死者の中でも飛びぬけていた。
サクロも私の血を受けたために、最近では高位魔術を扱えるようになっている。
第六位階のカイツール級の魔術までを扱える。
なかなか魔王として様になってきたと私は感心している。
密偵から報告が入った。
カーリャ第一王子率いるカーリャ国軍は、いきなり聖王国の頭、首都であるポルタを抑えようと国境を侵攻してきた。
それに対して魔族とネフィリムの軍が早々に会戦を仕掛け、遅れてサクロの軍が二軍の後を追いかけた。
不死者やネフィリム、エルヨに目が行きがちだが、一般兵であるグールも、高位のグールは不死者に近い存在だし、身体能力と打たれ強さに加え、勘が良い。戦闘で勘が良いということは、死の予感を感じて、それを回避する行動がとれる。
死に対して克服しようと敏感であるために、人間の剣兵とは相性が良かった。
それでも兵力の数の差は結構な数開いており、特に魔族の軍は特に損耗率が激しかった。その分敵部隊の撃破数も一番多かったのだけど。
押し寄せる敵部隊を抑え込むネフィリムの軍とサクロの軍もさすがだったが、魔族の軍はその軍団だけで敵の右翼を崩して突破。カーリャの第一王子がいる本陣にまで迫り、敵軍は撤退した。
勇者とその軍勢はネフィリムの軍勢とぶつかり、何もできずに本隊と共に撤退したらしい。
こちらの三軍はその足でさらにカーリャ本国まで敵軍を追いかけ、カーリャの領内に入り、略奪を開始した。
カーリャ国軍は自国の首都まで撤退したらしく、立て直すのにかなり時間がかかりそう、との密偵の報告だった。
ちなみに密偵は以前勧誘したネフィリムの、アイテール君とその配下の不死者三名に依頼している。
彼らは軍勢に属させず、戦場の番人として密偵に適した魔術に長けているからだ。持つべきものは友。彼らの報告ならば信用できた。
負傷した人間の兵士には、死ぬか、血を飲むか、選ばせて、グール化させた。
後日夜の城にはグール化して間もない元カーリャ国軍の兵士たちが五千数百名ほど運ばれてきた。
不死者の血のおかげで痛覚が鈍り、自己治癒力も高まっているが、治療が必要なものが多く、基礎的な医療に精通しているグールたちに介抱させた。
そのうち体の痛みよりグール化とその進行による心の悩みで泣き叫ぶようになるが、それは精神教育、主に精神療法や心理療法について学ばせて、自分で乗り越えてもらう必要があった。
この精神療法や心理療法も、長いグール化の研究で蓄積された知識だった。
完全な不死の状態である不死者になるまで、長いグール化の進行過程に耐える精神は不可欠だ。
それでも不死化せずに寿命が来て死んでしまうグールが圧倒的に多いのだが、それを超えて誕生した不死者は非常に強力な戦力となる。
まぁ不死者になっても寿命がほぼないだけで、絶対に死なないわけではないけれど、それはエルヨやネフィリムでも同じだったから、不慮の死はどうしようもない。
戦闘で体が著しく損傷を受けたら、不死者でもエルヨでも普通に死ぬし。
とにかく防衛担当の私たちはまだまだ出番がありそうにない。人間の聖伐もいつ来るかわからないけど、まだ二十年前に発動されたばかりで当分来ないだろうし、私とルキフグスはまた退屈な時間を過ごすしかなさそうだった。
最近では要塞線の構築を視察に行き、グールたちの作業を眺めるのがちょっと日課になっている。ルキフグスは砦街の増改築にはまってるらしい。ルキフグスの計画では、砦街だけではなく、要塞線で囲ったエリアに、幾つか同じように砦と街をつくりたいらしい。
今回の勝ち戦で、また略奪品が増えるし、蔵もまた満たされるだろう。
街を造る予算は、その略奪した財宝の上納金で賄おうと考えていた。
要塞線で囲ったエリアに、更に砦と街を築いていく。そして夜の城の周辺をグールと奴隷の街で満たす、というのがルキフグスの構想のようだった。
わたしもそれはなかなか面白そうと感じている。
今回は聖伐が来たときどの程度防ぎきれるか、と考えると、ちょっとわくわくした。
今まで聖伐がきたらそこでゲーム終了だったから、それを超えて、更に略奪ができるかもしれない、と思うと、エルヨの本能から、少し楽しくなってきた。
15
撤退したカーリャの軍勢はカーリャの王都、メルべに集結し、もう一戦決戦を挑むつもりのようだった。
ここは重要な一戦であったが、前回の戦闘でグールの損耗は多く7000体が死傷し、内、負傷したグールはしばらく戦える状態にはなかった。
負傷兵4500体を夜の城へ下がらせ、私とその配下の不死者は夜の城に駐留させていたグール二万五千体のうち、一万五千体を率いて、三軍と合流して、王都を攻め込むつもりでいた。残りの一万体は夜の城に残した。
しばらく守る必要はないし、この一戦で一気にカーリャとの戦争を決着させたかったので、自ら出向いたというわけだ。
毎年貯めこんだ金銀財宝は、次の聖伐に備えて、防備に費やすことに決めた。実際聖伐のたびに軍備と財宝を略奪されては、今後こちらがいくら頑張っても同じことの繰り返しだ。
防御。私たちエルヨは防御の大切さについて学ばなければならない時期に来た。
ルキフグスが持ってきた要塞の計画は、かなり大規模な建築物になる計画だった。
「夜の城を囲むように、12の要塞を建築します。すべて砂と砂利をセメントで固めたコンクリート造りにします。12の要塞の周囲は鉄条網で囲み、12の要塞同士は堡塁で繋げます。堡塁からは弓と、最新兵器である鉄砲による攻撃をし、砲台も設けて、大砲による攻撃も行います。それぞれの要塞の中には指揮所、観測所、給水設備、武器庫、グールたちの待機所などを設けます。また十二の要塞にはそれぞれアーティファクトを配備する予定です」
アーティファクト。
現在の人間の技術にはない、古代にエルヨが造った武具。
単純に火砲系が多いが、その全ては魔術的作用で動く。
火力一点集中型の重魔道砲。一撃で直線状五キロ以内の障害物を破壊する兵器。
軽魔道砲。一撃の威力は重魔道砲に遥かに劣るが、比較的連射に向いている兵器。
広域魔道砲。この兵器より周辺二十キロの距離までの、範囲1,2㎞の範囲内の障害物、建築物を破壊する兵器。
いずれも高位の魔術に精通した、ネフィリム、エルヨ級の存在か、もしくは極めて優れた不死者でなければ扱えないのが難点で、恐らくルキフグスが12個のアーティファクトを持ち出すのは、現在の戦力でそれが運用できる限界だからだろうと思った。
重すぎて持ち出すのが大変なうえ、鹵獲されて逆利用されたらこちらがやばくなるので、前線には持ち出せない兵器でもあった。
私たち侵略を是とする魔族の切り札でもある。
夜の城が聖伐から守りきれたのは、夜の城の異常な堅牢さと、これらアーティファクトのおかげでもあった。
私はルキフグスに感想を言う。
「ものすごいお金がかかりそうだね。でも人間に奪われるよりいいか。まずは安全を確保すべきというのは、そうかもしれない」
夜の城とその周辺の森、砦の街、禁足地の面積を総合でグールに測量させたことがある。
総面積はおよそ2200平方キロメートル。
恐らく夜の城の周辺だけを囲むと言っても相当な距離になりそう。
城にいるグールを総動員して建築に当たっても、何年かかるのだろう。
私はそろそろ眠りにつきたい。
「じゃあわたし、眠るから、お金の試算しといて。必要な時起こしていいから」
ルキフグスは言う。
「緊急の時だけ、起こすね。貴方の寝顔を見てるのが好きなの」
なんだか困ってしまうような返答だったけど、私は結構眠くなっていたので、横になった。睡眠時間が長い代わりに、起きている時間も結構数か月単位で起きていることが多いのだ。今回も二か月寝ていない。
じゃあおやすみー、とわたしはルキフグスに言って、ベッドの深みに入った。
14
五年が経って、隣国の大国、カーリャが私たちが保護国にしている聖王国の解放のために、宣戦布告してきた。
聖王国の保護国化から20年も経過している。人間もずいぶん呑気なものだ。
その間にグールたちの総数は11万を超えていたし、サクロ、魔族、ネフィリムの三軍が聖王国に対する防備を固めていた。
私たちはと言えば、要塞線の建設に忙しい。12の要塞のうち、人間の世界へ続く街道側の三つの要塞が完成し、二つは構築中、残り七つはまだ建設していなかった。
相手がもう少し親切ならば、十年、十五年、まだ時間をかけてほしかった。
ルキフグスがソファに座り、私はテーブルに座っている。ルキフグスは私と付き合ってからも相変わらずで、距離を詰めてこようとしない、独特な間合いがあった。
数日に一回キスを迫るようになったのはちょっと妙な気分というか変な感覚だったが、まぁそれ以外は今まで通りだった。
ルキフグスが唐突に言う。
「カーリャは別の国との戦争が終結したばかりなのに、性急ですね。密偵からは敵軍の規模は14万から16万人ほどと報告が入っています。多くは旧式の装備ですが、鉄砲の配備もされているとか。まぁ敵じゃありませんね。万が一、三軍が敗れても、この夜の城とアーティファクトを配備した要塞を突破できるわけありませんし」
いままで防衛設備に力を入れたことが無かったが、密かにこのような事態になると、要塞の存在は心強かった。
私は問いかける。
「アーティファクトを扱うものは決まっているの?」
彼女は言う。
「私たち直轄の不死者のうち、12名はアーティファクトを扱えます。いま稼働できる要塞は三つなので、現時点では人材に余裕があるほどです」
アーティファクトの運用は問題ないようだ。
私たち直属の不死者たちは、不死者の中でも魔術に極めて精通しているものが多いから、魔術の扱いに関してだけは、中堅のエルヨに迫る力があった。
正直人間の軍勢とアーティファクトの火力は次元が違うから、それこそ人間世界が総がかりで攻めてこない限り安泰と言えた。
「じゃあ何の問題もない」といって私は安心しきってあくびをした。
聖王国や三軍の支配地域から上納される金貨や財宝は、要塞線の建設費、資材、食料調達、アパート建築、家畜の購入と飼料や小屋の建設、上下水道の延伸、輜重用の馬や荷車とその管理費、そしてグールや不死者たちに配る報酬の金貨で、毎年ごっそり持っていかれた。
それですら黒字で、毎年蔵に積みあがる金貨の数は増えていく。
それだけ聖王国からの上納金が大きいのだ。
何としても三軍にはカーリャの侵攻を止めていただき、聖王国の支配の維持を継続したいところだった。
「今回はカーリャが雇った勇者と冒険者の軍勢7000人がいます。サクロにとって魔王として名を売るチャンスですね」とルキフグスが楽しそうに言う。
勇者とはネフィリムを五名以上殺した者の尊称で、人間の中でも魔術を使える稀有な存在だ。
さらに英雄はエルヨを二名殺した者に対する称号で、その両方を為したものは神人と呼ばれる。
神人は滅多にいない。なぜならエルヨとネフィリムを敵に回して、長く生きていられる人間はそうはいないからだ。
人間の個人が名が売れれば売れるほど、ネフィリムは襲おうと躍起になる。仲間殺しを許さない部族が多いからだ。
エルヨである私でさえ、悪名が高まりすぎてネフィリムに殺されかけたのだから、人間が神人となったら、真っ先に潰しにかかってくるのだ。
こちらはグール11万体のうち、85000を三軍に振り分けた。
サクロの軍に35000。
魔族の軍に25000。
ネフィリムの軍に25000。
という案配だ。
サクロの軍は不死者の数が多いから、大目に振り分けた。
残る二万五千は夜の城の防衛に当たらせている。
夜の城の不死者の数は私の直轄の不死者が七名。ルキフグス直轄の不死者が九名。その他にグール教育用の不死者が6名いた。
私とルキフグス直轄の不死者は高位の魔術を扱えるものが多く、不死者の中でも飛びぬけていた。
サクロも私の血を受けたために、最近では高位魔術を扱えるようになっている。
第六位階のカイツール級の魔術までを扱える。
なかなか魔王として様になってきたと私は感心している。
密偵から報告が入った。
カーリャ第一王子率いるカーリャ国軍は、いきなり聖王国の頭、首都であるポルタを抑えようと国境を侵攻してきた。
それに対して魔族とネフィリムの軍が早々に会戦を仕掛け、遅れてサクロの軍が二軍の後を追いかけた。
不死者やネフィリム、エルヨに目が行きがちだが、一般兵であるグールも、高位のグールは不死者に近い存在だし、身体能力と打たれ強さに加え、勘が良い。戦闘で勘が良いということは、死の予感を感じて、それを回避する行動がとれる。
死に対して克服しようと敏感であるために、人間の剣兵とは相性が良かった。
それでも兵力の数の差は結構な数開いており、特に魔族の軍は特に損耗率が激しかった。その分敵部隊の撃破数も一番多かったのだけど。
押し寄せる敵部隊を抑え込むネフィリムの軍とサクロの軍もさすがだったが、魔族の軍はその軍団だけで敵の右翼を崩して突破。カーリャの第一王子がいる本陣にまで迫り、敵軍は撤退した。
勇者とその軍勢はネフィリムの軍勢とぶつかり、何もできずに本隊と共に撤退したらしい。
こちらの三軍はその足でさらにカーリャ本国まで敵軍を追いかけ、カーリャの領内に入り、略奪を開始した。
カーリャ国軍は自国の首都まで撤退したらしく、立て直すのにかなり時間がかかりそう、との密偵の報告だった。
ちなみに密偵は以前勧誘したネフィリムの、アイテール君とその配下の不死者三名に依頼している。
彼らは軍勢に属させず、戦場の番人として密偵に適した魔術に長けているからだ。持つべきものは友。彼らの報告ならば信用できた。
負傷した人間の兵士には、死ぬか、血を飲むか、選ばせて、グール化させた。
後日夜の城にはグール化して間もない元カーリャ国軍の兵士たちが五千数百名ほど運ばれてきた。
不死者の血のおかげで痛覚が鈍り、自己治癒力も高まっているが、治療が必要なものが多く、基礎的な医療に精通しているグールたちに介抱させた。
そのうち体の痛みよりグール化とその進行による心の悩みで泣き叫ぶようになるが、それは精神教育、主に精神療法や心理療法について学ばせて、自分で乗り越えてもらう必要があった。
この精神療法や心理療法も、長いグール化の研究で蓄積された知識だった。
完全な不死の状態である不死者になるまで、長いグール化の進行過程に耐える精神は不可欠だ。
それでも不死化せずに寿命が来て死んでしまうグールが圧倒的に多いのだが、それを超えて誕生した不死者は非常に強力な戦力となる。
まぁ不死者になっても寿命がほぼないだけで、絶対に死なないわけではないけれど、それはエルヨやネフィリムでも同じだったから、不慮の死はどうしようもない。
戦闘で体が著しく損傷を受けたら、不死者でもエルヨでも普通に死ぬし。
とにかく防衛担当の私たちはまだまだ出番がありそうにない。人間の聖伐もいつ来るかわからないけど、まだ二十年前に発動されたばかりで当分来ないだろうし、私とルキフグスはまた退屈な時間を過ごすしかなさそうだった。
最近では要塞線の構築を視察に行き、グールたちの作業を眺めるのがちょっと日課になっている。ルキフグスは砦街の増改築にはまってるらしい。ルキフグスの計画では、砦街だけではなく、要塞線で囲ったエリアに、幾つか同じように砦と街をつくりたいらしい。
今回の勝ち戦で、また略奪品が増えるし、蔵もまた満たされるだろう。
街を造る予算は、その略奪した財宝の上納金で賄おうと考えていた。
要塞線で囲ったエリアに、更に砦と街を築いていく。そして夜の城の周辺をグールと奴隷の街で満たす、というのがルキフグスの構想のようだった。
わたしもそれはなかなか面白そうと感じている。
今回は聖伐が来たときどの程度防ぎきれるか、と考えると、ちょっとわくわくした。
今まで聖伐がきたらそこでゲーム終了だったから、それを超えて、更に略奪ができるかもしれない、と思うと、エルヨの本能から、少し楽しくなってきた。
15
撤退したカーリャの軍勢はカーリャの王都、メルべに集結し、もう一戦決戦を挑むつもりのようだった。
ここは重要な一戦であったが、前回の戦闘でグールの損耗は多く7000体が死傷し、内、負傷したグールはしばらく戦える状態にはなかった。
負傷兵4500体を夜の城へ下がらせ、私とその配下の不死者は夜の城に駐留させていたグール二万五千体のうち、一万五千体を率いて、三軍と合流して、王都を攻め込むつもりでいた。残りの一万体は夜の城に残した。
しばらく守る必要はないし、この一戦で一気にカーリャとの戦争を決着させたかったので、自ら出向いたというわけだ。

