そしてアドカヤ、クロワからの税収の半分も私たちに入ってくることになっていた。
試算ではネフィリムたちからの上納金は、毎年8500億シェケルほどになる。税収は毎年変わるけれど、だいたいの平均値の上で。
二人の魔族の支配地域であるクロワからの上納金が毎年1200億シェケルほど。
サクロ率いる魔王軍の支配地域であるアドカヤからの毎年の上納金が750億シェケル入ってくるはずである。
それに加えて三軍のエルヨ、ネフィリム、不死者たちが作り出すグールは私たちのもとに送られてくるので、年を追うごとにグールたちの数は増えていく。
現在夜の城に存在するグールは三千体。
夜の城の限界収容人数は三万人であるから、まだまだキャパシティに余裕があったが、今後グールの数が増産されていくことを見越して、居住地域を増やす必要があった。
なので夜の城から人間世界への前哨基地である砦とその集落に、居住地を増築することにした。
砦とその集落は以前から増築を重ており、既に三千人が暮らせる規模の集落になってはいたが、水道がないうえに食料庫とアパートが乱立して、中途半端に開墾された農地があるだけで、ここも開発する必要性があった。
まず水道を引くことにした。夜の城には水道設備がある。森の中にあるケヤンの泉から、夜の城へと水を引いている。
そして夜の城から砦と集落まで、水道管を引いて、水を流すことにした。
そのために人間の奴隷300人とグールを千体動員し、作業にあたらせた。
土木に詳しいグールや奴隷のおかげで、作業工程に関しては他国の人間や商人の力を借りずに済んだが、資材については銅管を使うので、闇商人から加工された銅管を輸入する必要があった。
聖王国から輸入してもよかったが、多少割高でも闇商人との商いを維持するのがいざという時生命線となるので、闇商人を利用することに決めていた。
水道が完成するころ、闇商人に発注していた人間の奴隷が、追加で百人届いた。奴隷は農作業に従事させるつもりである。
この時代、戦乱がやむことが無かったから、捕虜となったり、誘拐されたりしたものが、奴隷に身をやつすことがよくある。
一人平均180万シェケルで、人間の奴隷が買えるが、常に豊富に市場があるわけではなく、極端な数の買い入れは出来なかった。
次に肝心の居住地域については、相変わらずのアパート建築に頼った。
出来れば砦のほうも石垣を増築して堀も作りたかったが、いまはちょっとそこまでは人手が足りない。
集落と砦を増築すれば、次は砦から夜の城までの街道の整備と、森林の伐採を行う計画もあったが、それはまだ先の先の話になりそうなあんばいで、それはまだ着手しないでおいた。
聖王国を保護国化してからは、人間の各国はそれを承認せず、聖王国との取引の停止、保護国の承認を拒否し、魔族を討伐の対象に指定する、という通告を出してきたが、さすがにまだ攻め込んでくる国はなかったようで、どこの国も軍事行動に出てこなかった。
どこかの国が、あるいはその同盟が、攻め込んでくれば、聖王国の民の保護を名目に、一戦交え、「魔族の生存する権利の確立」のために、また侵略してきた国へ略奪へ出かける口実となる、という予定でいた。
12
聖王国属国化から15年経ってもどこの国からの侵略もなかった。それは聖王国が、大陸の西の端にあったからかもしれない。
聖王国の同盟国だった神鷹国も、海を隔てた北方の半島にあったし、わざわざ海を渡って聖王国解放のための軍を動かす気はないようだった。聖王国と隣接する大国カーリャも、別の大国との戦争でそれどころではないようだった。
人間の世界でかつては宗教的に目の敵にされてきた魔族も、最近では人間の野蛮な亜種に過ぎない、という見解が広まり始め、私たちエルヨは、人類の間では類人猿的地位にこき下ろされていた。
私たちからすれば、エルヨが、使役するために人を創ったという伝承があるのだけど。
それから、戦にも新しい武器が加わり始めていた。鉄砲という武器だ。
まだ配備している国は少ないし、部隊数もわずかだが、弩のさらに強化機械化されたものだという認識で、新しいものが好きな私は何丁か取り寄せた。
高級な弓、という程度の認識だったが、マッチロック式という火を導火線に点火させて鉛を射出するというの発想はなかなか面白かった。
これがさらに鉛ではない威力の高い破裂する玉を射出できれば、低位の魔術に匹敵する武器になると思う。
ルキフグスに見せたら、なぜか「爆発する棒!」と言って逃げてしまった。
15年の間に、二人の魔族とネフィリムに貸していたグール15000体が返却された。
加えてサクロたち魔王軍から、生産したグール二万体あまりの上納があり、夜の城のグールだけで38000体にまで増えていた。
奴隷の数もじわじわ増やして現在千人。奴隷は農作業などの生産活動に携わらせるための要員だったから、いくらいても困ることはない。
グールが夜の城のキャパシティを超えて増えたので、砦と集落をまた急ピッチで増築していくことになった。
アパートの増築で集落の収容可能人数は八千人にまで拡大されていた。それは単純にアパート群の収容可能人数で、仮設テントを含めた食料備蓄からの最大収容可能人数は15000人を超えていた。
グールたちは土木建設要員にもなるから、砦集落群と夜の城までの街道を整備させ、その間の森を切り開かせた。おかげで人間世界への夜の城からのアクセスが楽になった。
砦とその集落も、名称を考え、そのまんま、砦街、という名前で呼ぶことにした。
砦の街の汚染水の処理がにおい的に割と急務だったので、砦の街から海まで、汚染水を流す銅管と設備を建築させて、簡単な下水も配備することにした。
農地とその生産は奴隷に一任している。食料は基本的に闇商人や聖王国の市場から調達しているが、少しでも自家生産できればいいと思い、奴隷たちに農地開墾と生産をやらせている。
また食料自給率をあげるために、畜産も始めることにして、聖王国から子牛を買い上げ、試験的に肥育することにした。
グールの中には元が農家や畜産農家だったものが多いから、その手の技術と経験を期待してのことだ。
砦街の全体を柵で囲い、砦を石垣で囲うように、また建築を始めたころには、なかなか街のような情景になり始めていた。
ちなみに、グールも不死者も子供をつくることができる。作ることはできるが、その子供は人間の子供よりはグールに近い性質で生まれてくる。
生まれつきエルヨやネフィリムの血がわずかでも継承されるから、その子供は成長すればグールと同じ扱いにしている。
しかしつがいとなって子供をつくるグールも不死者もそんなに多くはない。
その理由は謎だが、ここまでグールが増えてくると、さすがにグールの子供たちの数も増えてきているので、その子供たちの養育と教育も必要になり始めていた。
そこで、砦の街にグールの子の教育施設を建築し始めた。
今は7歳以上のグールの子を夜の城に集めて、不死者や高位のグールに教育させているが、成人までの長い期間を教育させるためには、専用の教育施設があった方が人員配備の削減の観点から都合がよかった。
子供好きのグールもいるし、こういうのはそういった教養と適正があってグールの心構えも知っているものたちに任せた方がいい。
教育施設の建設が終わると、適性のあるグールと不死者を選抜して、教育に充てた。
子供の人口が増えたことは、街の雰囲気を柔らかくさせる。グールの子はグール、奴隷の子は人間、という住み分けは行ったが、その内奴隷の子も教育施設に編入するようになった。
子供が増えた影響だろうか、グールや不死者から有事の際の行動計画の策定を求める声が上がってきた。子供の存在は町の防衛意識を強める効果があるらしい。
有事には砦の街の成人していないグールと、奴隷たちは夜の城へ避難させ、更に砦の街を守護する新たな要塞の建築を約束することで、そのニーズを満たした。
確かにここまで手塩にかけて築いた砦の街を、人間の侵略で壊されたくはない。
そのため、砦の街からアドカヤ方面の街道に、もう一つ要塞を築いて、そこで砦街への侵略を食い止める要衝を築くことにした。
ルキフグスが私の部屋で、一緒に食事をとりながらに、言う。
「要塞の建築はかなり大規模なものにする必要があります。アドカヤが落ちた後、夜の城までの道を守る最前線の基地となるからです。少なくとも三万人を収容できる軍事拠点にしたいです」
私は卵焼きと、領内で生産した牛乳を飲み、頷く。
「いいと思うよ、資材の手配や金貨は出すから、どのような資材が必要で、どのくらい必要か、また羊皮紙に書いて」
分かった、と言ってルキフグスは料理に目を移す。何か考え事をしているようで、フォークを動かしていない。私はその様子を見ていたが、彼女はやがてぽつりと言った。
「わたし、実は女性が好きなんだ」
何を言い出すかと思えば、急に突拍子もないことを言っている。
私は疑問に思って言う。
「あれ? 以前は男性と付き合ってなかったっけ?」
ルキフグスは照れたように言う。
「いや、あれ嘘。男性はなんか好みじゃないというか、種族としてありえないというか…」
以前は好きな男性の話や、付き合ってる男性の話をよくしていた気がしたが、それも嘘だったのか。どうしてそんな嘘をつくのかよくわからない。
「昔からサリエルが好きだったから、なるべく警戒されないように男性が好きって嘘をついていたんだ。ごめんね」
なんかいきなり告白されている。しかも同性から。わたしは平静を装っていたが内心動揺しまくっていた。
ルキフグスは妹のようで可愛いし好きだが、それは恋人としての好きという感情ではない。きわめて家族的友情的な好きに近い感情だ。
「そ、そうなんだ。貴方と意味は違うけど、友達として、私も大好きだよ。家族くらいに思ってる」
どう回答していいかわからず、そのまんま本心を言う。
ルキフグスは自嘲気味にふう、と息をついた。
「恋人になってくれない?」
とうとう直球で言われた。イエスかノーかしか答えようのない問。いやいや、ノーしかないのだけど、どうやったら円満に「ノー」が言えるだろうかと私は必至で思考を回転させた。
「断ったら出て行っちゃうかも」「イエス。イエスだよ。ルキフグス。だからまずは落ち着いて、食事をとろう」
ルキフグスに出ていかれると、夜の城の防衛が難しくなる。私は不定期に眠ってしまう。その隙を守っていたのはルキフグスだったので、ルキフグスがいなくなれば最悪私の命の危険まであった。
同性はちょっと勘弁してほしかったけど、自分の命と比べれば、ノーとは言えなくなっていた。
ルキフグスは顔を真っ赤にして俯く。
「ありがとう。正直受け入れてくれるとは思わなかった」
目が潤んでいる。耳まで真っ赤になっている。こんな彼女は初めて見た。そこまで喜んでくれるなら、まあイエスと言っておいてよかったかな、とも思った。
今までもずっと同じ部屋で生活していたのだから、まぁ別に何が変わるわけでもないか、と思って、私は納得した。鼓動を落ち着ける。なんだかこっちまでびっくりしてドキドキする。
私はルキフグスを見て言う。
「まぁ、ご飯食べよ? その話はまた追々するとして…」
ルキフグスは顔を真っ赤にしたまま俯く。
「うん…ありがとう」
「ご飯食べないの?」と私は普段と違う様子に心配になって言う。
ルキフグスは「いや、ちょっと、ドキドキしすぎて、喉に入らないかも」と答えた。
じゃあ食事を下げようと言って、私はグールに言いつけた。
部屋の中で完全に二人になる。
ルキフグスは顔を真っ赤にしてこちらから顔を隠すようにしながら、「ごめんね、ちょっとドキドキしすぎて、横になるね」と言った。
嬉しそうに笑みをこぼしながら、ベッドに入り込んでしまった。
それからルキフグスの様子が元に戻るまで、二日もかかった。
試算ではネフィリムたちからの上納金は、毎年8500億シェケルほどになる。税収は毎年変わるけれど、だいたいの平均値の上で。
二人の魔族の支配地域であるクロワからの上納金が毎年1200億シェケルほど。
サクロ率いる魔王軍の支配地域であるアドカヤからの毎年の上納金が750億シェケル入ってくるはずである。
それに加えて三軍のエルヨ、ネフィリム、不死者たちが作り出すグールは私たちのもとに送られてくるので、年を追うごとにグールたちの数は増えていく。
現在夜の城に存在するグールは三千体。
夜の城の限界収容人数は三万人であるから、まだまだキャパシティに余裕があったが、今後グールの数が増産されていくことを見越して、居住地域を増やす必要があった。
なので夜の城から人間世界への前哨基地である砦とその集落に、居住地を増築することにした。
砦とその集落は以前から増築を重ており、既に三千人が暮らせる規模の集落になってはいたが、水道がないうえに食料庫とアパートが乱立して、中途半端に開墾された農地があるだけで、ここも開発する必要性があった。
まず水道を引くことにした。夜の城には水道設備がある。森の中にあるケヤンの泉から、夜の城へと水を引いている。
そして夜の城から砦と集落まで、水道管を引いて、水を流すことにした。
そのために人間の奴隷300人とグールを千体動員し、作業にあたらせた。
土木に詳しいグールや奴隷のおかげで、作業工程に関しては他国の人間や商人の力を借りずに済んだが、資材については銅管を使うので、闇商人から加工された銅管を輸入する必要があった。
聖王国から輸入してもよかったが、多少割高でも闇商人との商いを維持するのがいざという時生命線となるので、闇商人を利用することに決めていた。
水道が完成するころ、闇商人に発注していた人間の奴隷が、追加で百人届いた。奴隷は農作業に従事させるつもりである。
この時代、戦乱がやむことが無かったから、捕虜となったり、誘拐されたりしたものが、奴隷に身をやつすことがよくある。
一人平均180万シェケルで、人間の奴隷が買えるが、常に豊富に市場があるわけではなく、極端な数の買い入れは出来なかった。
次に肝心の居住地域については、相変わらずのアパート建築に頼った。
出来れば砦のほうも石垣を増築して堀も作りたかったが、いまはちょっとそこまでは人手が足りない。
集落と砦を増築すれば、次は砦から夜の城までの街道の整備と、森林の伐採を行う計画もあったが、それはまだ先の先の話になりそうなあんばいで、それはまだ着手しないでおいた。
聖王国を保護国化してからは、人間の各国はそれを承認せず、聖王国との取引の停止、保護国の承認を拒否し、魔族を討伐の対象に指定する、という通告を出してきたが、さすがにまだ攻め込んでくる国はなかったようで、どこの国も軍事行動に出てこなかった。
どこかの国が、あるいはその同盟が、攻め込んでくれば、聖王国の民の保護を名目に、一戦交え、「魔族の生存する権利の確立」のために、また侵略してきた国へ略奪へ出かける口実となる、という予定でいた。
12
聖王国属国化から15年経ってもどこの国からの侵略もなかった。それは聖王国が、大陸の西の端にあったからかもしれない。
聖王国の同盟国だった神鷹国も、海を隔てた北方の半島にあったし、わざわざ海を渡って聖王国解放のための軍を動かす気はないようだった。聖王国と隣接する大国カーリャも、別の大国との戦争でそれどころではないようだった。
人間の世界でかつては宗教的に目の敵にされてきた魔族も、最近では人間の野蛮な亜種に過ぎない、という見解が広まり始め、私たちエルヨは、人類の間では類人猿的地位にこき下ろされていた。
私たちからすれば、エルヨが、使役するために人を創ったという伝承があるのだけど。
それから、戦にも新しい武器が加わり始めていた。鉄砲という武器だ。
まだ配備している国は少ないし、部隊数もわずかだが、弩のさらに強化機械化されたものだという認識で、新しいものが好きな私は何丁か取り寄せた。
高級な弓、という程度の認識だったが、マッチロック式という火を導火線に点火させて鉛を射出するというの発想はなかなか面白かった。
これがさらに鉛ではない威力の高い破裂する玉を射出できれば、低位の魔術に匹敵する武器になると思う。
ルキフグスに見せたら、なぜか「爆発する棒!」と言って逃げてしまった。
15年の間に、二人の魔族とネフィリムに貸していたグール15000体が返却された。
加えてサクロたち魔王軍から、生産したグール二万体あまりの上納があり、夜の城のグールだけで38000体にまで増えていた。
奴隷の数もじわじわ増やして現在千人。奴隷は農作業などの生産活動に携わらせるための要員だったから、いくらいても困ることはない。
グールが夜の城のキャパシティを超えて増えたので、砦と集落をまた急ピッチで増築していくことになった。
アパートの増築で集落の収容可能人数は八千人にまで拡大されていた。それは単純にアパート群の収容可能人数で、仮設テントを含めた食料備蓄からの最大収容可能人数は15000人を超えていた。
グールたちは土木建設要員にもなるから、砦集落群と夜の城までの街道を整備させ、その間の森を切り開かせた。おかげで人間世界への夜の城からのアクセスが楽になった。
砦とその集落も、名称を考え、そのまんま、砦街、という名前で呼ぶことにした。
砦の街の汚染水の処理がにおい的に割と急務だったので、砦の街から海まで、汚染水を流す銅管と設備を建築させて、簡単な下水も配備することにした。
農地とその生産は奴隷に一任している。食料は基本的に闇商人や聖王国の市場から調達しているが、少しでも自家生産できればいいと思い、奴隷たちに農地開墾と生産をやらせている。
また食料自給率をあげるために、畜産も始めることにして、聖王国から子牛を買い上げ、試験的に肥育することにした。
グールの中には元が農家や畜産農家だったものが多いから、その手の技術と経験を期待してのことだ。
砦街の全体を柵で囲い、砦を石垣で囲うように、また建築を始めたころには、なかなか街のような情景になり始めていた。
ちなみに、グールも不死者も子供をつくることができる。作ることはできるが、その子供は人間の子供よりはグールに近い性質で生まれてくる。
生まれつきエルヨやネフィリムの血がわずかでも継承されるから、その子供は成長すればグールと同じ扱いにしている。
しかしつがいとなって子供をつくるグールも不死者もそんなに多くはない。
その理由は謎だが、ここまでグールが増えてくると、さすがにグールの子供たちの数も増えてきているので、その子供たちの養育と教育も必要になり始めていた。
そこで、砦の街にグールの子の教育施設を建築し始めた。
今は7歳以上のグールの子を夜の城に集めて、不死者や高位のグールに教育させているが、成人までの長い期間を教育させるためには、専用の教育施設があった方が人員配備の削減の観点から都合がよかった。
子供好きのグールもいるし、こういうのはそういった教養と適正があってグールの心構えも知っているものたちに任せた方がいい。
教育施設の建設が終わると、適性のあるグールと不死者を選抜して、教育に充てた。
子供の人口が増えたことは、街の雰囲気を柔らかくさせる。グールの子はグール、奴隷の子は人間、という住み分けは行ったが、その内奴隷の子も教育施設に編入するようになった。
子供が増えた影響だろうか、グールや不死者から有事の際の行動計画の策定を求める声が上がってきた。子供の存在は町の防衛意識を強める効果があるらしい。
有事には砦の街の成人していないグールと、奴隷たちは夜の城へ避難させ、更に砦の街を守護する新たな要塞の建築を約束することで、そのニーズを満たした。
確かにここまで手塩にかけて築いた砦の街を、人間の侵略で壊されたくはない。
そのため、砦の街からアドカヤ方面の街道に、もう一つ要塞を築いて、そこで砦街への侵略を食い止める要衝を築くことにした。
ルキフグスが私の部屋で、一緒に食事をとりながらに、言う。
「要塞の建築はかなり大規模なものにする必要があります。アドカヤが落ちた後、夜の城までの道を守る最前線の基地となるからです。少なくとも三万人を収容できる軍事拠点にしたいです」
私は卵焼きと、領内で生産した牛乳を飲み、頷く。
「いいと思うよ、資材の手配や金貨は出すから、どのような資材が必要で、どのくらい必要か、また羊皮紙に書いて」
分かった、と言ってルキフグスは料理に目を移す。何か考え事をしているようで、フォークを動かしていない。私はその様子を見ていたが、彼女はやがてぽつりと言った。
「わたし、実は女性が好きなんだ」
何を言い出すかと思えば、急に突拍子もないことを言っている。
私は疑問に思って言う。
「あれ? 以前は男性と付き合ってなかったっけ?」
ルキフグスは照れたように言う。
「いや、あれ嘘。男性はなんか好みじゃないというか、種族としてありえないというか…」
以前は好きな男性の話や、付き合ってる男性の話をよくしていた気がしたが、それも嘘だったのか。どうしてそんな嘘をつくのかよくわからない。
「昔からサリエルが好きだったから、なるべく警戒されないように男性が好きって嘘をついていたんだ。ごめんね」
なんかいきなり告白されている。しかも同性から。わたしは平静を装っていたが内心動揺しまくっていた。
ルキフグスは妹のようで可愛いし好きだが、それは恋人としての好きという感情ではない。きわめて家族的友情的な好きに近い感情だ。
「そ、そうなんだ。貴方と意味は違うけど、友達として、私も大好きだよ。家族くらいに思ってる」
どう回答していいかわからず、そのまんま本心を言う。
ルキフグスは自嘲気味にふう、と息をついた。
「恋人になってくれない?」
とうとう直球で言われた。イエスかノーかしか答えようのない問。いやいや、ノーしかないのだけど、どうやったら円満に「ノー」が言えるだろうかと私は必至で思考を回転させた。
「断ったら出て行っちゃうかも」「イエス。イエスだよ。ルキフグス。だからまずは落ち着いて、食事をとろう」
ルキフグスに出ていかれると、夜の城の防衛が難しくなる。私は不定期に眠ってしまう。その隙を守っていたのはルキフグスだったので、ルキフグスがいなくなれば最悪私の命の危険まであった。
同性はちょっと勘弁してほしかったけど、自分の命と比べれば、ノーとは言えなくなっていた。
ルキフグスは顔を真っ赤にして俯く。
「ありがとう。正直受け入れてくれるとは思わなかった」
目が潤んでいる。耳まで真っ赤になっている。こんな彼女は初めて見た。そこまで喜んでくれるなら、まあイエスと言っておいてよかったかな、とも思った。
今までもずっと同じ部屋で生活していたのだから、まぁ別に何が変わるわけでもないか、と思って、私は納得した。鼓動を落ち着ける。なんだかこっちまでびっくりしてドキドキする。
私はルキフグスを見て言う。
「まぁ、ご飯食べよ? その話はまた追々するとして…」
ルキフグスは顔を真っ赤にしたまま俯く。
「うん…ありがとう」
「ご飯食べないの?」と私は普段と違う様子に心配になって言う。
ルキフグスは「いや、ちょっと、ドキドキしすぎて、喉に入らないかも」と答えた。
じゃあ食事を下げようと言って、私はグールに言いつけた。
部屋の中で完全に二人になる。
ルキフグスは顔を真っ赤にしてこちらから顔を隠すようにしながら、「ごめんね、ちょっとドキドキしすぎて、横になるね」と言った。
嬉しそうに笑みをこぼしながら、ベッドに入り込んでしまった。
それからルキフグスの様子が元に戻るまで、二日もかかった。

