あさきゆめ

なので、夜の城の第一の蔵は金貨、銀貨、宝石、財宝の収容が限界となり、百年ぶりに第二の蔵も開けて、金銀財宝を運び込むようになった。


次の戦略目標はどうしよう。シホンには豊富な金と宝石がある。貿易も盛んな国柄で、富にあふれたまさに黄金京だ。

カーリャを超えて東進すればアメルという大国があり、ここは銀と鉄、良質な木材が容易に手に入る。

北方の神鷹国に目を向ければ、土地柄は貧しいし人口も少ないが、造船の技術が高く、占領すればこちらに海軍造船に関する知識が少なからず入ってくるはずである。


一番おいしいのはシホンだろうが、ここはまた東国の国々と防衛的同盟を結んでいるから、攻め込む場合には東部諸国と大きな戦争になることになる。

ではアメルはどうかというと、ここの軍隊は、単独の国家の軍隊としてはミリアを除くこの地域全体で最強と言われており、冒険者組合の大きな支部も置かれている。

前回冒険者組合の主力軍にてこづった経験があるから、侵略するならそれなりの被害を覚悟しなければならなかった。

そして神鷹国の場合、攻め込むのに海軍がいるから、侵略には準備が整うまで時間がかかる。しかし神鷹国を落とせる程度の海軍を育てれば、海外への侵略できる国々が一気に増えるから、海軍は育てておきたいものの一つだった。

結果的に、ルキフグスとの話し合いで、海軍の増強を進めながら、国内を開発し、長期的にはシホンへ攻め込むことを決めた。

すぐにはことを起こす気はないが、いずれ攻め込む。今は新たに獲得した支配地域の安定と開発をする必要があるからだ。

なに、私たちには長大な寿命がある、いくらでも待って、時期が来たら行動することにした。


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夜の城を囲む砦は完成を見ていた。

12の主要塞を等間隔で円形に配置し、それぞれの主要塞をコンクリートの城壁で結び、城壁の前には鉄条網のエリアを設けて、敵の侵略を阻むという構造の要塞線であった。

南部カーリャ侵略の折に、シホン軍との戦闘の勝利で獲得した数千の最新式歩兵銃と、12の主力の兵器であるアーティファクトを配備し、12の主要塞に総計86門の大砲と、9000のグールを配備した、対聖伐用の防御施設だった。

要塞線の内部には、夜の城に続く街道沿いに砦の町が二つあり、それぞれ夜の城に近いほうから第一砦町、第二砦町と名付けていた。

要塞線内部の中心である夜の城自体も、古代のエルヨによって建造された、今ではロストテクノロジーとなっている極めて頑丈な鉱石によって作られて建造されており、大砲の砲弾くらいじゃびくともしない。

千年ものあいだ私の根城に使って、一度も陥落したことのない城だ。これは私の父母から受け継いだ最大の遺産でもあった。

更に夜の城にもアーティファクトが三門備えられており、いざという時の侵略に備えられてもいた。


それで、防衛施設はまだ拡充するけれど、とりあえずそこで一つの区切りがつき、次は海軍の建設に着手することにした。

帆船については、数十年前に聖王国から接収した42隻あまりの帆船がアドカヤの港に繋いである。

42隻のうち20隻が貿易のためのもので、フリュート船を中心とした商船艦隊となっていた。

戦闘用には戦列艦が四隻。うち三隻は四等艦相当の50門艦で、旗艦となる一隻だけ三等艦相当の大砲70門を搭載していた。

また大砲28門のフリゲート艦が12隻、8門のコルベットが6隻となっていた。












魔族領には新たに港を築いていた。
魔族の領土に含まれる地域の、ロトスという漁村に港に適した岬があったので、ルキフグスがロトスまで街道を伸ばして、港の建設を始めたのが17年くらい前の話。港湾を整備し、船舶の係留のための岸壁、物資を保管する倉庫、街道までの臨港道路などを建設し、同時にアドカヤから技師を招いて、造船所の建設も始めた。

造船所は主に艦船の修理と小型帆船の建造を主軸に考えており、軍艦などの大型の帆船は輸入することを考えていた。


なので修理台をメインに、造船台、ドッグをこしらえた作りになっている。

港の設備も修理造船所もすべてアドカヤの港湾で働いていた技術者と、聖王国の港湾の公務官を招いて指導に当たらせ、建築の作業にはグールや奴隷に任せた。資材は聖王国やアドカヤから輸入している。カーリャとの戦争中は建設がストップしたが、戦争が終わると復員したグールによって急ピッチで港がとりあえず形になった。

それまで闇商人との貿易は三百年以上前に接収した夜の城に比較的近い小さな港で取引していたが、今後はこの新しく建設したロトスの港から闇商人との貿易を行うことになった。


闇商人は遠い海の向こうの大陸から来た、という話だが、文明の水準は高く、船舶の質においては闇商人側の文明のほうが上かもしれないと感じる節があった。

ロトスには外国からくる商人のための宿泊施設や、食事処も着々と建設を始めていた。

そんな状況。

停泊の施設が増えたので、闇商人に、70門の戦列艦三隻と武装コルベット20隻を発注した。納入までに七年かかる、と言われたが、請け負ってくれた。その代わり前払いで全額支払ってほしいと要望があったので、長年の付き合いのある商人だったし、見積書にあった6400億シェケルを支払った。

もっと大量に発注したかったが、闇商人側の都市群の造船能力にそれ以上の余力がないため、と断られた。

闇商人も不死者で、別の大陸のエルヨの部下らしく、三百年以上の付き合いがあるから、お金だけ持って逃げるということは全く考えていないし、商品もその内容について裏切られたことはほとんどない。

その間、海軍の水兵となるグールを、アドカヤで教育のため、千人ほど赴任させることにし、アドカヤで海兵の養成所の建設と、仮の教育施設を開設した。

この千人の海兵候補生の訓練が終了したら、ロトスの港に戻して、他のグールにも海兵の心得を教えさせて、海軍の人材を確保する算段である。

以後アドカヤでは海兵の指導者候補を育成し、ロトスでは乗員の教育を行う、という流れにする予定でいる。



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次の侵略先はシホンに定めた。理由はカーリャとの戦でシホンの主力軍に打撃を与えていたこと。シホンの冒険者組合の人材も前回の戦いで大部分が失っていることで、つまり相手は同盟国の軍隊が頼りの、弱体になっていると判断したからだ。

講和条約による停戦期間は10年で、残り7年は侵略することはできない。
それまではシホンへの侵略は控えるが、各軍団長には次の戦略的な目標はシホンということを伝え、そのための軍備を進めるように、と伝えた。

シホンはこの地域有数の豊かな経済圏で、国というよりは複数の大都市の緩やかな連合国という体裁に近い。


カーリャ、アメル、シホン、東国のイテ、更に東の遠国ミリアを、聖教圏全域のうちの五大国と呼ぶ。

聖伐はミリアの首都にいる聖宗主卿の呼びかけによって毎回始まる。聖教圏28カ国の大半が聖伐に毎度参加し、海軍、陸軍、民兵、各国の冒険者組合、果ては海賊までエルヨとネフィリムの支配地域へ攻め込み、財宝を奪ってグールたちを血祭りにあげる、人間世界のお祭り的イベントだ。

それを阻止するには、ミリアを落としてしまうのが手っ取り早そうだが、ミリアは他の諸国とはちょっと次元の違う大国で、これまでどのような国々にも、エルヨやネフィリムにも滅ぼされたことのない国で、単純に国土と人口がけた外れに大きい。

他の四つの大国を合わせたより大きな国土と、聖教圏全体の三分の一の人口を持つ国で、反エルヨ、反ネフィリムを掲げる厄介な宗教国家でもある。

まさにこの地域の文明の中心にある国で、大陸の中央部の大帝国とも同盟を結んでいるという、世界の最強国家の一つだ。

ミリアを落とせれば、それこそ世界征服まで視野に入ってくるわけで、私の侵略先における最大の目標国家であるともいえた。

百年前の勢力全盛期のころの私たちは、カーリャ、シホン、イテ、アメルまで落とし、南の大陸の一部まで進出していた。
200万の軍隊とほどほどの海軍を有していたが、ミリアの聖伐の宣告によって、200万のグールの軍は各地域で猛反攻にあい、海軍は数年で壊滅、南の大陸に配備していた軍団との連絡は途絶え、どうなったのか未だに私は知らない。
神出鬼没な海洋の国々の上陸部隊の迎撃にも追われ、次第に兵力は分散し、広大な支配領域で各個撃破されまくり、おまけにネフィリムの軍団が反乱を起こして、支配領域の一部を占領する。
とうとうカーリャからも撤退し、わずかな聖王国の領土も、敵軍の追撃で失陥し、夜の城に引きこもってアーティファクトで人間の進撃をかろうじて防いだ、というのが、百年前の大戦争の顛末である。


なんで負けたのか。それは戦力を各地域に分散していたのと、ミリアをすぐに落とそうとしなかったことに最大の要因があると思っている。
他のエルヨの活動も大人しかったし、目立って活動しているのは私たちとごく一部の魔族だけで、人間の総力をあげた攻撃のほとんどを私たちが受けることになったのも痛かった。

ミリアを落としても聖伐というものはどこかの国の祭司が宣言するだろうが、ミリアさえ落とせば、そもそも聖教圏自体もう制覇したも同然で、聖伐もまったく怖くなくなる。

まだ遠い。
ミリアを落とすには手前のイテを落とす必要があり、イテを落とすには最低でもアメルかシホンのどちらかの国を落とさねば、侵攻路が開けない。

しかもその間、黙ってミリアがこちらの侵略を眺めててくれるかどうかもかなり疑問がある。


様々な不足な事態に対応するためにも、軍備を増強して、国土を開発して国力を増し、金をためるだけ貯めこんで、そして躊躇わず攻めるときは攻めるしかない。

そしていずれミリアを倒して、この地域にエルヨの平和で恒久的な支配が確立すれば、ここに移住するエルヨもネフィリムも増えるだろうし、そうすればまた更なる戦力増強につながる。

それは人間の時代の終わりに近づく、一つの兆候となるでしょう。
別に人間を滅ぼす気はないが、今の状態は人間に優勢すぎて、ネフィリムとエルヨは下手をすれば絶滅の恐れすらある状況だ。

そもそもエルヨもネフィリムも寿命が長く、反面人間よりは生殖にそれほど関心を示さないから、数が少ない。

そこに人間の優位があるわけだが、このままでは本当に、人間が主張するように、類人猿の一つとして滅びる恐れすらあった。

「それは笑えない」私はそう独り言を言って、紅茶をすする。



人間というのは古代、サルの原種に私たちエルヨの血を与え、限りなく私たちに近づけた存在なのだ。いわば私たちが作り、保護してきた存在だ。

それがいつの間にか私たちがサルの仲間にされ、人間にとって代わられようとしている。

わたしの人間への敵対は、その状況に対するささやかな反抗であるともいえた。

とにかくシホンとの停戦期間が終わるまでは、支配地域の開発と、軍備の増強に勤しむことにして、私は食事のあとまた港や砦の視察に行くことにした。


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シホンとの停戦期間が満期を迎える今年、私たち魔族の勢力全体の軍勢の数は40万人に達していた。その大半はグールだが、魔術を扱う不死者の数もじわじわと伸ばしていっている。

不死者だけでも4500人に達しているから、最初のささやかな規模の軍隊とは桁が違って、組織管理が大変になってきている。

エルヨやネフィリムは数を増すことができず、サクロのような不死者の中から有能なものを師団長に抜擢したり、軍団長に据えたりしている。

実際、不死者は人間として行きつくところまで行きついたものたちで、ネフィリムやエルヨとは種族が根本的に違うけれど、個体としての強さは半端なネフィリムやエルヨより優秀なものが多い。

それでも彼らがネフィリムやエルヨの下につくのは、血を欲するからであり、本能的に自らの血の源であるエルヨに惹かれる傾向にあった。