あさきゆめ

なので、サクロ、カルキ、ヨミアエル、ヘルエムメレク、ルキフグス、わたし、のそれぞれが軍団を持ち、それぞれが協調して動く、という手はずにした。
これはカーリャを侵略する準備でもある。カーリャを侵略すれば支配地域が増えるだろうから、事前に軍を細分化させて、支配地域の増加に対応しようという意図である。


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カーリャの国境に軍勢を集結させて、たびたび越境させ、近隣の村々を襲った。それに対してカーリャ側は特使を派遣してきて、どういうことかと説明を求めてきた。こちらは反乱分子を追ってきたが、村に逃げ込んだために、村の代表に引き渡しを求めたが、協力を拒まれたため、押し入った、と侵略させたネフィリムに説明させた。
反乱分子が逃げ込んだというのはうそだったのだけど、カーリャへの挑発のつもりで、嫌がらせをしたつもりだ。

また聖王国に駐留している、カーリャの大使も、本国へ帰らせた。
大使には、人間の生存圏に比べ、魔族の生存圏が釣り合わない、という相談をしたところ、その相談には応じられず、講和条約の内容で解決済みのはずである、という返答をされたので、本国へ帰っていただいた。

要はこっちは早く侵略をしたいのだ。
そこでカーリャの新王、以前講和交渉をした元カーリャ第一王子に要求を突き付けた。
1、カーリャ王の死によって、講和は失陥したので、新たな条約の締結を望む。
2,魔族の生存圏の確立のための、領土の割譲を要求したい。これは人間の生存圏と魔族の生存圏のバランスを拮抗させるための提案である。内容に関しては、カーリャ八州のうち、南部のサヘン州、ミトワ州の魔族側への割譲を求める。
3,聖王国保護の追認の要求をする。
4,カーリャを魔族側の友邦国とし、「保護」する用意のあること。
5,以上の要求をのまない場合、貴国との条約は完全に失陥したものと判断する。

という極めて舐め切った内容をカーリャの王都へ遣いを送って知らせた。

カーリャのお怒り具合は凄かった。派遣したグールは捕らえられ、そう時を待たずにカーリャ側からわざわざ宣戦布告してきてくれた。

加えて対魔同盟、というものをカーリャ側が発足して、近隣諸国を誘って、私たちと事を構える気でいるらしい。すぐにいくつかの国が支援の用意があることを表明し始めた。
シホンと神鷹国だ。

ずいぶん反応が早いから、カーリャもカーリャでいざという時のために、他国に手をまわしていたのかもしれない。

シホンは陸続きであるからともかく、神鷹国は海の向こうだから面倒くさい。
海軍の着手はまだぜんぜん始まっておらず、港の建設がまだ半ばで、艦船の導入もしていない。
聖王国から接収した艦船が40隻ばかりアドカヤに駐留させているけれど、これだけで神鷹国に攻め込むのは自殺行為と言えた。

向こうは完全な海洋国家で、海軍の経験と知識、艦船の質に至るまで、まったく向こうが上だったからだ。

まぁ神鷹国は上陸してきたら叩くとして、聖王国と魔族領にルキフグスの軍団を駐屯させ、神鷹国の上陸に備えつつ、残る全軍でカーリャに侵略することにした。

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一応、敵の主力軍を一気に叩きたかったので、カーリャが侵略するまで三か月ほど待ってみたのだが、来ないので、こちらから、北部カーリャ、中部カーリャ、南部カーリャへ進軍した。


北部はカーリャの王都に近いので、恐らくカーリャの主力軍とぶつかるだろう。
決戦をするために軍団を三つ配備した。
カルキ、ヨミアエル、ヘルエムメレクの三軍団である。三個軍でだいたい13万5千くらいの軍勢だ。

サクロの軍団は中部カーリャ諸州へ攻め入り、私の軍団は南部カーリャへ侵攻する手はずである。
北方でカーリャの主力軍を相手にし、そのすきに中部と南部のカーリャの州を奪えるだけ奪おう、という戦略である。

カーリャは開戦と同時に各州の軍勢を王都に招集していたから、中部と南部には守備兵くらいしか残っていないと、密偵から報告があった。


私の配下には五人のネフィリムの師団長がいる。

彼らを率いてアドカヤから、南部カーリャへと続く街道を進み、道なりにある集落を無視しながら、野営を繰り返し進んだ。

アドカヤに隣接する、南部カーリャの州のひとつ、ミトワ州にあるサス城が最初の目標になった。



南部カーリャには主要な六つの城と州があり、ミトワのサス城は魔族領から最も近い城であり、脅威でもあり獲物でもあったので、まずはここを落とすことを目標に定めた。

カーリャの主力軍は北方へ渡っているとはいえ、シホン国が南部カーリャに隣接しており、シホンの軍勢が動けばその相手をするのはもろに私の軍団ということになる。


サスの城に不死者の率いる無数の大隊と指揮官である五人のネフィリム、総勢五万で攻め込む。
わたしの直属の不死者の中には高位の魔術すら扱える不死者もいるし、ネフィリムたちも中位の魔術を扱えるし、その他の不死者も個人差はあるが下位から中位の魔術を扱える。

だから、人間の城の、城門や城壁など、全く問題にならなかった。

爆発と燃焼。まずかれらの城門と城壁を襲ったのはそれらの事象。

グールの中にすら、上位のグールなら下位の魔術を扱えるものもいる。

下位の魔術は爆発や燃焼、飛ぶ斬撃、雨を降らす、など、物理的な攻撃的魔術が多い実用に富んだものだ。

中位の魔術は豪雨、落雷、地震、大規模な爆発、集団発火、などの地域的自然現象から広範囲の戦場で効果がある攻撃的な魔術がある。

上位の魔術は地域の環境的要因、地形や気温を変化させるものから、水質を汚染するもの、大気組成を変更させるもの、恒久的に永久的な取り返しのつかない、世界のシステムを改変するもの、など、広域に対する事象の変化や、地域的な災いのような神がかった魔術が多かった。

上位の魔術の行使はそれだけで、世界史に影響を与えうるほどの危険性すらある。

一歩間違えれば終末すらもたらしかねないようなものばかりだ。


実際そのため、戦場での戦術単位では、中位以下の魔術が用いられることが多かった。



城門は実際、最初の一日目の、五つのネフィリムの師団の、魔術攻勢で、原形を留めないほど壊された。

城門を突破するとサスの小さな町がすっぽりと入っており、そこには守備兵が私たちの軍勢を押しとどめようと、数百程度の軍勢で街に入らせまいとしていた。

が、しょせん多勢に無勢で、魔術と剣ですぐに蹴散らされた。
魔術は生命力を極度に消費するため、一人一人は連発できないが、数百人規模で魔術を扱えるものがいる現状では、交代で魔術を放っていた。
家々の扉は閉まっており、無抵抗を示す白い旗がいたるところに飾られていた。


私たちはサスの城塞へ進軍していった。

事前の密偵の報告によれば、サスの城の守備兵は二千もいないらしい。


さすがにこれは戦にもならないし、城を壊したくもなかったので、一度講和の使者を出してみることにした。

1、立ち退け。
2,立ち退く際の将兵の安全を保障する。
3,城の宝物を持ち出すことは許さないが、食料については自由に持ち出してよい。


相手はこれを飲んだ。

城の明け渡しのために、不死者の大隊を一つ派遣し、彼にサスの城の将との交渉や、兵の監視をさせた。

サスの守備兵隊に武装を解かせ、早々に立ち去るように通告すると、将兵たちは逃げるように出て行った。

禍根を残すかもしれないサスの城主を逃がしたのは、城の破壊を免れることの対価である。

城が一つ丸々無傷で手に入り、おまけに城下の町までついてきたのだから、彼の命を助けることは、それと引き換えならば安い対価であった。

まぁ城門と城壁の一部はかなり跡形もなく壊れたけれど、それはしょうがない。早々に城に迫ったからこそ、勝ち目がないとあっさり守備隊も降伏したのだろうし。


サスの城には最低限の防衛と、反乱の抑止のため、四つの不死者の大隊を置いて、私たちは次の城の攻略に向かった。
中部ではサクロの軍団が中部各城の攻略を目指し、北部では複数の軍団が王都へ迫る手はずであった。



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サスの城を抑えて、ミトワ州全体に睨みをきかせながら、次はサヘンの州都クロワクロワスへと向かった。
ここは堅牢と名高い城壁と、城塞のある都市である。街も発展しており、南部カーリャの中心的大都市でもある。

ここは百年前の戦争の折にもカーリャの重要な三つの拠点、として、陥落させた記憶のある都市だ。当時はそこまで手こずった記憶はないが、さて、今回はどうなるか。


クロワクロワスへと向かう道中で、密偵から報告があった。神鷹国の軍が北部カーリャに上陸し、カーリャ主力軍と合流しようとしている、とのことだ。

魔族領と聖王国を狙って上陸してくると思っていたから、それは予想外だったが、好都合だった。北部には手厚く複数の軍団を配備している。

カーリャの主力軍15万と、神鷹国の上陸部隊が六万とのことで、北部の軍は数の上ではかなり劣勢になるが、それくらいの数の差なら跳ね返せると思った。

というか余裕だろう。カルキ、ヨミアエル、ヘルエムメレクの三人の軍団長は、三人とも高位の魔術が扱えるし。

配下のネフィリムも不死者も果ては高位のグールもある程度魔術を扱えるのだから、魔術をほとんど扱えない人間の軍勢など敵ではない。

サスの城を出て、サヘンの州に入ったころ、再び密偵から連絡が入った。

シホンの軍勢七万が南部カーリャに入ったとのこと。進路は不明で、北上するか、それともこちらに来るか、現状ではわからないとのことだった。
それならばさっさとクロワクロワスを落として、シホンの軍勢の来襲に備えたいと思い、行軍を速めた。

クロワクロワスの城門に攻撃を仕掛けて、三日が経ったころ、城門を破壊した。夜通しで不死者たちやネフィリムに魔術による攻勢をかけさせていたのだが、城門が鉄城門でかつ分厚く、なかなか破壊できなかったが、三日目でついに破壊した。

と思ったら今度は城門の中に土嚢が山と積まれており、爆破や延焼では突破が難しかった。

そこで城壁の破壊に取り掛かり、これもかなり難儀したのだが、壁の一部に突破口を開くことに成功した。

土嚢が積んであったが、慌てて積んだのか、まだ積み方が甘く、魔術の集中砲火で蹴散らし、クロワクロワスの街の中に入っていった。

ここには五千ほどの守備兵がいると報告があったが、分散的な攻撃を蹴散らして、クロワスの城塞に迫っていく。

サスの城と同じように降伏の勧告を出したが、頭の固い貴族のようで、降伏を断ってきた。

城で将兵ともども討ち死にするというので、ならばその通りにしよう、ということで交渉が決裂した。


城は壊したくないが、シホンの軍勢が来るかもしれないので、時間はかけられない。

厚いコンクリート造りの城塞の鉄城門の前に一人で立って、私は唇を噛んだ。
使者と勘違いしているのか、城門から何事か大声で叫ぶものがある。
唇に甘い味。血がジワリと広がる。

私が血を流すのだから、ただでは済まさない。

第五位階の魔術、アクゼリュシュ級魔術。

「吹き飛ばす」私は魔術の表題を述べた。
単純な広範囲の爆破と燃焼。私は神聖言語を唱えながら、空の大気をクロワスの城塞の上空へ集約させていく。それは集塵。それは濃縮。限度ぎりぎりまで空間の質量を圧縮していく。
それらはクロワスの城塞の質量を重くさせ、城塞のいたるところでバキ、ビキ、と城壁が家鳴りのように鳴った。

やがて突如光がクロワスの上空から輝いた。圧縮された大気の質量が限界点に達し、爆発的に放出されたのである。それは何かヨクワカラナイ風船の破裂に似た、大爆音が遅れて届いた。

圧縮されていた可燃性の物質が、光による着火で凄まじい爆発を引き起こす。
私は障壁を張って平気だったし、軍団も下がらせているから、こちらには被害は出ないはずだ。