吸血鬼がグールを増やしながら人里を侵略していくお話です。
深い井戸
廻る二匹の蛇
互いの尾を噛んだら、ほら真っ赤なリングの出来上がり。
サンダルを履いて
口紅を塗って
赤い印をリング型につけたら、小さな輪の完成
「血の代償に、火の赤。死の代償に、血の赤」
夜、目が覚めた。
ここはベッドの上だ。長いレースがふんわりと風に揺れている。
記憶があいまいで、わたしはぼーっとしている。
いまがいつで、いまどのような状況かわかりかねた。
ここは、永遠の夜の城。
明けることのない夜明けを待つ、待合の場。
気配を感じて、部屋の隅を見た。すると部屋の隅のソファに、少女が一人座っている。向こうもこちらに気づくと、眠そうな目をこすって立ち上がった。
「お目覚めですね、サリエル。115年。この年数が何かわかりますか? あなたが眠っていた期間です」
そう、前回はちょっと図に乗っていた。地上の宝という宝、アメルの銀、シホンの金とラピスラズリ、シバのガーネットとカーネリアン、イテの聖石と木材、各国の宝という宝を略奪して、夜の城に蓄えこんだ。
葡萄酒で沸かした風呂に、殺した勇者や英雄たちの武具などを調度品に揃え、各国の王族の財宝を蔵に蓄えた。
その内に、勇者の軍勢、英雄の一団、無数の冒険家、各国の遠征軍、果ては眷属であるネフィリムの団体にまで攻め込まれ、私の領地は次々と陥落。夜の城だけは守り切ったけど、疲れて寝てしまったのだ。
「ちょっとやりすぎちゃったね。人間たちも怒らせると怖い」
と私は仲間のルキフグスにそう言った。
「せっかく集めたお宝も、総額のうち98%が略奪され、せっかく創設した軍勢も、その殆どが壊滅し、不死者たちのうちで残ったのはわずかばかり。その残った僅かなお宝すら、それを狙うものたちは後を絶ちません」
わたしは何となくそんな予感はしていた。既に夜の城に引きこもった時点で、その財宝の半分を失っていたから。
「どのくらいのお金が残っているの?」
「現在は昔とは金のレートが違っております。ほら、貴方の財宝が略奪されたので、金の価値が大暴落したのです。一時巷では金銀であふれたとか。そのためにこの地方一帯は、昔より急速に発展しています。人口も百年前よりかなり増えておりますね」
ルキフグスは大きくため息をついている。要するに残った二パーセントの金銀の価値すら、下がっているということだろうか。
ルキフグスは私の考えに反論する。
「違います。金銀財宝調度品、それから夜の城を含めた土地と不動産価値を含めて、全体の2%だけが残ったのです。金と銀だけなら、1%にも満ちません」
「それで、金銀の価値は通貨レートでどのくらいなの?」と私は思念に障壁を張りながら、心を読まれないようにする。
ルキフグスは答える。
「7000億シェケルです。ついに一兆シェケルを切りました。小国の年間の予算にも及びません」
思わず私の口からもため息が出た。
「吐きそう。もう一回寝る」と私は言うと、ルキフグスは珍しく慌てた。
「待ってください。また始めましょう。村々を支配し、不死者を増やし、都市を陥落させ、侵略者を撃退し、国々を略奪して、お宝を増やしましょう」
そんなことしても、またむかしの悪名が思い出されて、同じように人間や眷属の裏切り者に侵略されると思うけれど。
「今度は失敗しないようにより慎重にやる必要があるわね。軍勢はどれほど残っているの?」
「味方のネフィリムは誰もいなくなりました。0人です。眷属の末端である不死者ですら、96人。グールは千体いますが、もはや軍勢と呼べるほどではありません。以前の師団単位ですら、この三倍はいました。不死者の大半はかつての勇者や英雄たちの成れの果てなので、質は良いのですが…」
ネフィリムがいなくなるのはわかっていたけれど、不死者が百人を下回るのは想定外だった。不死者は人間の出身とはいえ寿命を超越した眷属。そう簡単に殺されるものでもないと思っていたから。
「周辺に村々はないの? いつものようにグールを増やして…」
ルキフグスが首を振る。
「この近辺一帯、人間側から立ち入ることのできない絶対の禁足地になっています。小国がまるまる一つ収まる土地が、丸ごとです。まぁ最近は、その戒律も緩んできて、人間たちも土地が足りないのか、徐々にこちら側に集落の建設を始めているようですが」
グールは不死者からしか生産できない。不死者が魔力を込めた血液を、人間に飲ませることで、人間は精神性の障害をきたし始め、魔力が増幅され、身体の代謝、免疫が活発化し、親である不死者の組成を真似ようと、変化し始める。
グールには不死者に近づくための七つの段階がある。
1F
感覚が過敏になる。聴覚と視覚の過敏。
2F
低頻度の妄想・中程度の疲労。音が暴力的にうるさく感じるので、被害妄想的になり、それに伴いノイローゼ的になる。
3F
幻聴・高頻度の妄想・高頻度の疲労・軽度の人間性の障害ー幻聴や妄想による負担の増大によって通常の精神活動が阻害される。
4F
幻聴の別人格化・妄想の体系化・超高度な疲労・人間性の著しい喪失ー別人格の存在と、人間のものではない考えによって、人間的な状態から乖離する。
5F
人格の交代が始まる・解離性健忘の出現。初めての人格転換が見られる。それに伴い意識の曖昧さが見られるようになる。交代の前後の記憶が曖昧になるが、意識の連続性は続いている。どちらかといえば基礎人格に、感情の変化と思想の変化が加わる。周囲から異変を感じられる程度には豹変する。憑依と表現している。
6F
幻視洗礼を受ける。物語の幻を見続ける。幻視が見えるようになり、幽霊のようなものを見るようになる。交代人格と交流を深めると、たまに凄まじい神秘的な人格が現れる。神格的存在。
7F
幻視と幻聴は言い換えれば霊視と霊聴、別人格は自分の霊を持ち始める前段階なので、霊感の完全な目覚めとなり、魔力の充実と魔術の扱い方がわかるようになる。このころには身体も変調し、不死に近くなる。
という感じでほぼ完全に不死者と同じになる。
普通の人間が魔術を扱えるようになるわけだから、グールから不死者への進化はまったく次元の違う存在になることを意味していた。
そして不死者を造れるのはネフィリムと私たちエルヨ、と呼ばれる一族だった。
エルヨの血が濃いほど魔力が高い不死者が生まれる。魔力が高い不死者はそれだけ魔術方面で有利になるし、生産されるグールも不死者へ近づくのが早くなる傾向にあった。
人間の一部にも魔術を扱えるものがいるけれど、それは類まれな資質と才能、そして魔術への探求と研鑽のたまものだ。そういうのは人間の中でも我々に近いもの、として、評価の対象になっていた。
人間たちは眷属から血を飲ませられることを、悪魔憑きのようになる、と非常に嫌悪しているが、私たちからすれば一度グール化させれば従わせるのは容易いので、それ相応のメリットがあった。
グール化は人ではないものになる最初の段階なので、それまで共に暮らしていた人々から、差別の対象になって迫害され始める。
エルヨやネフィリムの血を飲んだグールは人間の世界に居場所がなくなるし、不死者へ移行するステージの以降の中で生じる苦痛や苦悩を緩和させるのも、私たちの血だ。
不死者になると苦しみが楽になるので、完成体に近い不死者へ早く到達するために私たちの血が必要になるのだ。
私は言う。
「まずは眷属の数を増やしましょう。周辺の村落を支配しに」
ルキフグスはそれならば、と言って言葉を出す。
「人里のある集落まで行くと、それらの集落を管轄しているらしい領主の砦があります。まずはそこを落としましょう。周辺の村々へ侵略する拠点になるでしょうから」
起きて朝食も取らないうちに戦争の話をしている。
私は急にお腹がすいてきた。ルキフグスに言うと、いまは干し肉しかありませんが、と言って、食事を持ってきます、と言って出ていった。
2
初回の人間世界への侵略のために、侵攻のための軍を編成することにした。
砦にいる人間の兵士の数は2000名くらいだろう、とルキフグスが言っていた。
軍事施設に籠った二千人の兵士が相手ならば、高位の魔術を扱える不死者を3-4人派遣すれば落とせると考えた。
人間の兵士より、問題は集落の方だった。なにせこちらのグールは数が足りない。いまの程度の数のグールと不死者を派遣しても、彼らの実力について知らない彼らは容易には脅しに屈しないだろうし、抵抗にあえば皆殺しの上、略奪という流れになる。
集落の宝と言えば農産物とわずかばかりの金銭だろうから、こちらにはあまりメリットもない。殺してしまってはグールにできないし、強制的に不死者の血を飲ませることも難しかった。
だから、支配したうえで、農産物を生産し続ける人間を残したうえで、不死への道を得たいというものだけグール化させるのが基本だ。
不死者も血をあまり失うと死んでしまうし、極端なグール量産はできないのだ。
集落で暮らすものは農民が多いとはいえ、意外と好戦的な集落が多い。
数の力で黙らせなければ、抵抗にあう割合が多かった。
ルキフグスが干し肉を焼いたものを皿にもって入ってきた。
豪快な肉の乗った器には、申し訳程度に僅かな野菜が載っていた。食べてみると、塩を振ってあるだけの、味付け。
ルキフグスは言う。
「砦を落とした後は、周辺の集落の人々を殺し、空になった空き家にグールを住まわせ、街を狙いましょう。町規模になれば、金銀と、多くの人々がいます。彼らを戦利品として、夜の城へ持ち帰ります」
それもいい案だけれど、と私はつけ添えて首を横に振る。
「今回は時間をかけましょう。砦を落とすまでは良いとして、砦を拠点にして集落を築きましょう。建築の知識のあるグールはいる?」
「彼らの大半は夜の城に侵略してきた元兵士たちです。捕虜にしたもののうち、血を飲むことを承諾した者たちです。兵士には野営地建設の知識もあるはずですから、知識と経験のあるものもいるでしょう。なんなら街から建設の知識のあるものを金で雇い入れても構いませんでしょう」
そう、と私は呟いて、言った。
「集落建設に当たるグールを編成し、砦の周辺部に住宅を建設させましょう。資材はこの夜の城を取り巻く広大な森から切り出しましょう。そのために必要な道具類は町や都市から買い入れて。敵対すれば買い入れが難しくなるかもしれないから、今のうちに。砦の占領と集落の建設。ここから始めましょう」
と私が言うと、ルキフグスは首をひねった。
「集落の建設など意味があるのですか? 既存の周辺集落を落としていけばいいのでは?」
私は言う。
「この地域の人的資源を減らしたくないのよ。私たちはまだ少数で、複数の集落を支配し維持する数はいない。近場で人間を調達でき、また交易も可能になるから、付近の集落を潰したくはないの。こちらも家々を建設し、勢力圏を広げながら、ゆっくりと眷属の数を増やして、支配を広げていきましょう」
ルキフグスは言った。
「そうですか。どのようなやり方でも反対はしません。あなたが時間をかけて、というのなら、それでいいのでしょう。手配してまいります」
と言ってルキフグスは退出した。
人間は同族に対して残虐な行為が行われれば行われるほど、嫌悪と怒りを感じてあらゆる意味で敵対し始める。
そうなった人間はとても厄介なので、今度は慎重に、虎の尾を踏むか踏まないかの感覚で、支配を広げようと思っている。
焦ってはならない。時間は膨大にあるのだから。
少なくとも、眷属の数が増えるまでは、無茶はできない。
グールから不死者まで到達するものは三千人に一人。残りのグールは不死になれず、寿命が来て死ぬか、またはなんらかの原因で死ぬか、だから。
深い井戸
廻る二匹の蛇
互いの尾を噛んだら、ほら真っ赤なリングの出来上がり。
サンダルを履いて
口紅を塗って
赤い印をリング型につけたら、小さな輪の完成
「血の代償に、火の赤。死の代償に、血の赤」
夜、目が覚めた。
ここはベッドの上だ。長いレースがふんわりと風に揺れている。
記憶があいまいで、わたしはぼーっとしている。
いまがいつで、いまどのような状況かわかりかねた。
ここは、永遠の夜の城。
明けることのない夜明けを待つ、待合の場。
気配を感じて、部屋の隅を見た。すると部屋の隅のソファに、少女が一人座っている。向こうもこちらに気づくと、眠そうな目をこすって立ち上がった。
「お目覚めですね、サリエル。115年。この年数が何かわかりますか? あなたが眠っていた期間です」
そう、前回はちょっと図に乗っていた。地上の宝という宝、アメルの銀、シホンの金とラピスラズリ、シバのガーネットとカーネリアン、イテの聖石と木材、各国の宝という宝を略奪して、夜の城に蓄えこんだ。
葡萄酒で沸かした風呂に、殺した勇者や英雄たちの武具などを調度品に揃え、各国の王族の財宝を蔵に蓄えた。
その内に、勇者の軍勢、英雄の一団、無数の冒険家、各国の遠征軍、果ては眷属であるネフィリムの団体にまで攻め込まれ、私の領地は次々と陥落。夜の城だけは守り切ったけど、疲れて寝てしまったのだ。
「ちょっとやりすぎちゃったね。人間たちも怒らせると怖い」
と私は仲間のルキフグスにそう言った。
「せっかく集めたお宝も、総額のうち98%が略奪され、せっかく創設した軍勢も、その殆どが壊滅し、不死者たちのうちで残ったのはわずかばかり。その残った僅かなお宝すら、それを狙うものたちは後を絶ちません」
わたしは何となくそんな予感はしていた。既に夜の城に引きこもった時点で、その財宝の半分を失っていたから。
「どのくらいのお金が残っているの?」
「現在は昔とは金のレートが違っております。ほら、貴方の財宝が略奪されたので、金の価値が大暴落したのです。一時巷では金銀であふれたとか。そのためにこの地方一帯は、昔より急速に発展しています。人口も百年前よりかなり増えておりますね」
ルキフグスは大きくため息をついている。要するに残った二パーセントの金銀の価値すら、下がっているということだろうか。
ルキフグスは私の考えに反論する。
「違います。金銀財宝調度品、それから夜の城を含めた土地と不動産価値を含めて、全体の2%だけが残ったのです。金と銀だけなら、1%にも満ちません」
「それで、金銀の価値は通貨レートでどのくらいなの?」と私は思念に障壁を張りながら、心を読まれないようにする。
ルキフグスは答える。
「7000億シェケルです。ついに一兆シェケルを切りました。小国の年間の予算にも及びません」
思わず私の口からもため息が出た。
「吐きそう。もう一回寝る」と私は言うと、ルキフグスは珍しく慌てた。
「待ってください。また始めましょう。村々を支配し、不死者を増やし、都市を陥落させ、侵略者を撃退し、国々を略奪して、お宝を増やしましょう」
そんなことしても、またむかしの悪名が思い出されて、同じように人間や眷属の裏切り者に侵略されると思うけれど。
「今度は失敗しないようにより慎重にやる必要があるわね。軍勢はどれほど残っているの?」
「味方のネフィリムは誰もいなくなりました。0人です。眷属の末端である不死者ですら、96人。グールは千体いますが、もはや軍勢と呼べるほどではありません。以前の師団単位ですら、この三倍はいました。不死者の大半はかつての勇者や英雄たちの成れの果てなので、質は良いのですが…」
ネフィリムがいなくなるのはわかっていたけれど、不死者が百人を下回るのは想定外だった。不死者は人間の出身とはいえ寿命を超越した眷属。そう簡単に殺されるものでもないと思っていたから。
「周辺に村々はないの? いつものようにグールを増やして…」
ルキフグスが首を振る。
「この近辺一帯、人間側から立ち入ることのできない絶対の禁足地になっています。小国がまるまる一つ収まる土地が、丸ごとです。まぁ最近は、その戒律も緩んできて、人間たちも土地が足りないのか、徐々にこちら側に集落の建設を始めているようですが」
グールは不死者からしか生産できない。不死者が魔力を込めた血液を、人間に飲ませることで、人間は精神性の障害をきたし始め、魔力が増幅され、身体の代謝、免疫が活発化し、親である不死者の組成を真似ようと、変化し始める。
グールには不死者に近づくための七つの段階がある。
1F
感覚が過敏になる。聴覚と視覚の過敏。
2F
低頻度の妄想・中程度の疲労。音が暴力的にうるさく感じるので、被害妄想的になり、それに伴いノイローゼ的になる。
3F
幻聴・高頻度の妄想・高頻度の疲労・軽度の人間性の障害ー幻聴や妄想による負担の増大によって通常の精神活動が阻害される。
4F
幻聴の別人格化・妄想の体系化・超高度な疲労・人間性の著しい喪失ー別人格の存在と、人間のものではない考えによって、人間的な状態から乖離する。
5F
人格の交代が始まる・解離性健忘の出現。初めての人格転換が見られる。それに伴い意識の曖昧さが見られるようになる。交代の前後の記憶が曖昧になるが、意識の連続性は続いている。どちらかといえば基礎人格に、感情の変化と思想の変化が加わる。周囲から異変を感じられる程度には豹変する。憑依と表現している。
6F
幻視洗礼を受ける。物語の幻を見続ける。幻視が見えるようになり、幽霊のようなものを見るようになる。交代人格と交流を深めると、たまに凄まじい神秘的な人格が現れる。神格的存在。
7F
幻視と幻聴は言い換えれば霊視と霊聴、別人格は自分の霊を持ち始める前段階なので、霊感の完全な目覚めとなり、魔力の充実と魔術の扱い方がわかるようになる。このころには身体も変調し、不死に近くなる。
という感じでほぼ完全に不死者と同じになる。
普通の人間が魔術を扱えるようになるわけだから、グールから不死者への進化はまったく次元の違う存在になることを意味していた。
そして不死者を造れるのはネフィリムと私たちエルヨ、と呼ばれる一族だった。
エルヨの血が濃いほど魔力が高い不死者が生まれる。魔力が高い不死者はそれだけ魔術方面で有利になるし、生産されるグールも不死者へ近づくのが早くなる傾向にあった。
人間の一部にも魔術を扱えるものがいるけれど、それは類まれな資質と才能、そして魔術への探求と研鑽のたまものだ。そういうのは人間の中でも我々に近いもの、として、評価の対象になっていた。
人間たちは眷属から血を飲ませられることを、悪魔憑きのようになる、と非常に嫌悪しているが、私たちからすれば一度グール化させれば従わせるのは容易いので、それ相応のメリットがあった。
グール化は人ではないものになる最初の段階なので、それまで共に暮らしていた人々から、差別の対象になって迫害され始める。
エルヨやネフィリムの血を飲んだグールは人間の世界に居場所がなくなるし、不死者へ移行するステージの以降の中で生じる苦痛や苦悩を緩和させるのも、私たちの血だ。
不死者になると苦しみが楽になるので、完成体に近い不死者へ早く到達するために私たちの血が必要になるのだ。
私は言う。
「まずは眷属の数を増やしましょう。周辺の村落を支配しに」
ルキフグスはそれならば、と言って言葉を出す。
「人里のある集落まで行くと、それらの集落を管轄しているらしい領主の砦があります。まずはそこを落としましょう。周辺の村々へ侵略する拠点になるでしょうから」
起きて朝食も取らないうちに戦争の話をしている。
私は急にお腹がすいてきた。ルキフグスに言うと、いまは干し肉しかありませんが、と言って、食事を持ってきます、と言って出ていった。
2
初回の人間世界への侵略のために、侵攻のための軍を編成することにした。
砦にいる人間の兵士の数は2000名くらいだろう、とルキフグスが言っていた。
軍事施設に籠った二千人の兵士が相手ならば、高位の魔術を扱える不死者を3-4人派遣すれば落とせると考えた。
人間の兵士より、問題は集落の方だった。なにせこちらのグールは数が足りない。いまの程度の数のグールと不死者を派遣しても、彼らの実力について知らない彼らは容易には脅しに屈しないだろうし、抵抗にあえば皆殺しの上、略奪という流れになる。
集落の宝と言えば農産物とわずかばかりの金銭だろうから、こちらにはあまりメリットもない。殺してしまってはグールにできないし、強制的に不死者の血を飲ませることも難しかった。
だから、支配したうえで、農産物を生産し続ける人間を残したうえで、不死への道を得たいというものだけグール化させるのが基本だ。
不死者も血をあまり失うと死んでしまうし、極端なグール量産はできないのだ。
集落で暮らすものは農民が多いとはいえ、意外と好戦的な集落が多い。
数の力で黙らせなければ、抵抗にあう割合が多かった。
ルキフグスが干し肉を焼いたものを皿にもって入ってきた。
豪快な肉の乗った器には、申し訳程度に僅かな野菜が載っていた。食べてみると、塩を振ってあるだけの、味付け。
ルキフグスは言う。
「砦を落とした後は、周辺の集落の人々を殺し、空になった空き家にグールを住まわせ、街を狙いましょう。町規模になれば、金銀と、多くの人々がいます。彼らを戦利品として、夜の城へ持ち帰ります」
それもいい案だけれど、と私はつけ添えて首を横に振る。
「今回は時間をかけましょう。砦を落とすまでは良いとして、砦を拠点にして集落を築きましょう。建築の知識のあるグールはいる?」
「彼らの大半は夜の城に侵略してきた元兵士たちです。捕虜にしたもののうち、血を飲むことを承諾した者たちです。兵士には野営地建設の知識もあるはずですから、知識と経験のあるものもいるでしょう。なんなら街から建設の知識のあるものを金で雇い入れても構いませんでしょう」
そう、と私は呟いて、言った。
「集落建設に当たるグールを編成し、砦の周辺部に住宅を建設させましょう。資材はこの夜の城を取り巻く広大な森から切り出しましょう。そのために必要な道具類は町や都市から買い入れて。敵対すれば買い入れが難しくなるかもしれないから、今のうちに。砦の占領と集落の建設。ここから始めましょう」
と私が言うと、ルキフグスは首をひねった。
「集落の建設など意味があるのですか? 既存の周辺集落を落としていけばいいのでは?」
私は言う。
「この地域の人的資源を減らしたくないのよ。私たちはまだ少数で、複数の集落を支配し維持する数はいない。近場で人間を調達でき、また交易も可能になるから、付近の集落を潰したくはないの。こちらも家々を建設し、勢力圏を広げながら、ゆっくりと眷属の数を増やして、支配を広げていきましょう」
ルキフグスは言った。
「そうですか。どのようなやり方でも反対はしません。あなたが時間をかけて、というのなら、それでいいのでしょう。手配してまいります」
と言ってルキフグスは退出した。
人間は同族に対して残虐な行為が行われれば行われるほど、嫌悪と怒りを感じてあらゆる意味で敵対し始める。
そうなった人間はとても厄介なので、今度は慎重に、虎の尾を踏むか踏まないかの感覚で、支配を広げようと思っている。
焦ってはならない。時間は膨大にあるのだから。
少なくとも、眷属の数が増えるまでは、無茶はできない。
グールから不死者まで到達するものは三千人に一人。残りのグールは不死になれず、寿命が来て死ぬか、またはなんらかの原因で死ぬか、だから。

