それに該当するのかはわからないが、生まれた時から呪物が備わっていたので、恐らくそれだろうということにされていた。
既存の呪物にはない能力なので、品等は不明だが、使い勝手が非常に良い現場攻撃的な呪物だったので重宝している。
僅かな地鳴りを感じた。街道の遠方から騎兵の一団が整列しながら疾走してくる。あまり時間はない。
心臓にあるとされる呪物に力を集中させる。
力は私の霊視では光の粒が無数に漂っているような光景に見える。
一貫して人の生命力や力は光の粒の集合のように見え、それに向かって念じると、それを動かして操作できることがあることもわかっていた。
だから、自分と、周囲にある光の粒を、自分の心臓に集めるという幻想を霊視で見ながら、呪物を発動させるのが私の基礎的な法術だった。
発動する。と同時に世界が暗転。
音が聞こえなくなる。騎兵のいななきも、味方の兵たちの息遣いも、自分の呼吸の音も。
代わりに幻聴的な囁きがそこかしこから聞こえてくる。笑い声や、誰かを呪う声、人間ではない魔性のものたちの声が、囁くような声であちこちから聞こえてきた。
私は騎兵隊に向かって歩いて行く。
「コ、コカ…」
と言葉を発したつもりだが、音が聞こえないので本当にそのように言っているのかわからない。
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。はあぁぁぁぁぁぁぁぁ。
呼吸も荒くなっていく。黒く深い感情が腹にたまり続ける。黒く塗りつぶされていく私。世界が油絵のようになっていく。
「コカビエル、出てこい」
中空の空間が塗りつぶされ、闇夜より深い暗闇の穴が、私の頭上に現れた。闇の中には目。目のようなものが見えた。
「馬とそれに乗っている者たちとを見ると、乗っている者たちは、火の色と青玉色と硫黄の色の胸当をつけていた。そして、それらの馬の頭はししの頭のようであって、その口から火と煙と硫黄とが、出ていた。馬の力はその口と尾とにある。その尾はへびに似ていて、それに頭があり、その頭で人に害を加えるのである。…それは、なぁーんだ?」
闇の中の存在に私がわざとお道化た様子でそう言葉を投げかけると、存在は目の前の竜騎兵を敵と認識したらしく、「阿」と言った。
すると騎兵たちがゆっくりと疾走をやめていく。こちらを注視するように呆けた表情で眺めていた。
「吽」
闇の中からそんな声が響くと、突然騎兵隊が空中に飛び上がったかと思うと、そのまま虚空に突然消えた。
何が起こったのかは私もわからない。考えてもどうやっているのかも想像がつかない。携挙。携挙にあったんだと、昔の私は考えていたのを思い出した。
しかしとにかく敵は消えた。わたしは呪物への力の供給を絶って、強制的に闇とそこにいる存在を世界から遠ざけた。
音が回復して、聞こえるようになってくる。私は吐いていた。「おえええええええ」
お腹からどす黒いものが込みあがってくるようで、気持ち悪さに吐いた。冷や汗もかいている。人間より上位の怪物を呼び出す恐怖と緊張感が、毎回あった。
だからこの呪物は嫌なんだよ。
この呪物を見慣れている味方のササキと従者たちは、特に動揺した様子もなかった。
私はササキに言う。
「馬車を捨てて東の森に入る。これ以上の戦闘はごめんだし」
ササキは頷いて、従者たちに指示を始めた。
11
森の中の道は地元の人々が利用していたのか、案外歩きやすかった。
ただ、その道は細く、護衛隊は一列になって進むしかなく、時間もなかったので、案内人を手配する暇もなかった。
ムラキとアベが持つ周辺の地図と、この辺の地形に詳しい従者たちが頼りだった。
私の前をアベが歩いている。私はアベに話しかける。
「この道は一本道なの? 敵兵がこの道を探し当てる可能性はある?」
アベが言う。
「いやー、従者の話では、この辺に幾つかある東部への獣道の一つだから、なかなかこの道に絞って追ってくることはないと思いますよ。この辺の地盤は固めだから、足跡を辿ってくるのも現実的ではありませんし。敵がこの道を追ってきたとしたら、超偶然か、何らかの霊能でしょう」
つまり敵軍がこの道を追ってくることはないと。
しかし北部のコウベ氏が土地を狙ってのことではなく、大王家を狙ってのことだったら、こちらが東部へ進路を変えただけで取り逃がすというのはあまりにお粗末すぎる。北部から軍を挙兵した以上、そのくらいは考えているはずだ。
相手がけもの道の存在を知っていた場合、複数ある獣道に兵を分散させて捜索するに違いない。
とりあえず向こうが知っている道という道に捜索の兵を出すはずだ。
私はアベに言う。
「いや、敵がこの道を追ってくる可能性は十分にあるよ。敵軍の規模はわからないけど、コウベ氏の軍勢であったら周辺一帯を捜索するに足るだけの兵力はあるから。そうはいってもこれ以上速く道を進むこともできないから、できれば、けもの道を逸れて、敵をかわしつつ、身を潜め、秘密裏に東側まで進みたいの」
アベは困ったように言う。
「森で道を逸れるのはやばいですよ。俺たち探検家じゃないですし、ほぼほぼ遭難します。それよりも東部へ確実に至るこの道を確保しながら、敵の追撃を迎撃する布陣にしたほうがいいです」
確かに食料の備蓄はあっても水はそれほどない。途中の川や井戸で調達する予定だったし、コウベ氏の領地に入れば補給できると思っていたからだ。
その頼りにしていたコウベ氏に裏切られたのだから、当然頭にくる。
もう一戦くらいやりあってもいいかなという気分になってきた。
「後列に私とササキが行くから、アベとムラキは従者たちを先導して、導いて。敵が追いついてきたら私たちで対処するから、何かあったら支援に駆けつけずその場に留まって瑞葉様を守護して」
アベは言う。
「了解しました。ムラナカ様がお嬢様を護衛に選んだのは正しいですね。他の法術師を選んでいたらもうとっくに全滅してますよ」
私はちょっと得意げになる。
「わたし頭には自信ないんだけど」
アベは即答する。
「いえ、知能面より、法術が凄すぎて。兵士のいない斥候でも騎兵中隊まるまる一個を一人で全滅させてますし。一品の法術師どころか特品でもなかなか聞いたことのない話ですよ。もうこの周辺の国々で最強では」
私はさらに得意げになる。
「上には上がいるものだよ。次は大隊規模でも全滅させようかな」
アベは笑って言う。
「恐ろしい」
優秀な呪物ほど命を吸うから、一品の呪物を扱える術師は列島でも数十人ほどしかいない。
まして特品の呪物ともなれば、扱える人々は恐らく世界全体で百人もいないだろうと言われていた。
私の呪物は二品等だが、それでも兵士の中では稀な存在で、しかも二個目の呪物も移植している術師はあまり聞いたことがない。
左腕に仕込んだ二品等の呪物より、心臓に先在してあった呪物のほうが、体感で圧倒的に命を吸われるから、もしかしたら一品以上の呪物かもしれないと考えると、実は本当にこの周辺では最強の法術使いかもしれない。生きた人間をそのまま天国に連れていく、というコカビエルの術自体とんでもないし防御しようがない。要するに宇宙に放り捨てるのだ。生きたまま。残酷すぎるので、あまりその後の彼らについて考えないことにしている。
心臓の呪物の法術は、恐らく上位の存在の召喚がすべてで、その上位の存在が協力してくれるかどうかは自分にかかっている。
コカビエルを始め、召喚で協力してくれるのはいまのところ三体しかいない。そのどれも一歩間違えれば自分も殺されかねないような存在だから、非常に緊張感と恐怖があった。
コカビエルが一番付き合いが長いから、呼びやすいのだけど。
私とアベはそれぞれ逆方向へ道を進んで、後列と前列をそれぞれ指揮することにした。
12
夜になって、少し開けた森の打ち捨てられた神社の近くで夜明けまで休息することにした。私は夜目が効く、というか、夜目どころか目を閉じてても歩ける。しかし兵士たちはそうはいかないから、大休止をとることにした。
ここ連日兵士たちはほぼ不眠である。
あらかじめ休ませておいた従者の何人かを夜警に立てて、私も眠ろうかと考えていた。
するとクラベがまた以前の休止の時のように私のもとにやってきた。
「サダメ様。昨日戦闘で使った呪物。それデーモンの召喚ですね」
目が冴えているのか全然疲れてなさそうだし、なんだか楽しそうにすら見えた。
「なに、その名前」
クラベは答える。
「呪物の名前です。魔王が欲しがってた呪物、サダメ様が当たったのかぁ」
呪物には名前はないのだけれど。正式な名称についての文献は、古代に散逸したらしいので、呪物の能力と品級で識別するのが常だけど。
もちろん仮名はあるけれど、呪物に名前をつけるのはよくないことという迷信があったので、公式には呪物には名前はないものとされていた。
「私の呪物を知っているの?」
「知っています。呪物は黄昏の時代に、神々が自分たちの子孫が権力を持つように創作した遊び心ある兵器です。人間が神のようになるための、ホモ・ゼウス計画の一つの要素。それらの兵器についての知識をむかし、教えてもらいましたから」
神々、というのがなにを指すのかはわかりかねたが、呪物を兵器と呼ぶ向きもあることは知っていた。仮説だが。
そもそも呪物がなぜ創られ、なんのために残したのかについて、正確なところを伝える文献はない。
「そうなんだ。私の呪物はどんなものなのか知ってるの?」
クラベは答える。
「デーモンの召喚は神々の兵器の中でも最上位級です。理論上人でも動かせるけれど、実際に動かせる人はまずいないと言われているものの一つです。仮に稼働できたとしても悪魔を使役するのも難しいし、これを稼働させて悪魔と契約できる人間はまずいないだろうということで、使用難度においても最上級と言われている兵器でした」
まるで呪物自体をよく知っているような口ぶりだ。
クラベは続ける。
「デーモンの召喚は扱える人が皆無なので、兵器としては期待されていなかったんですけど、その防御機構の特性から重宝される代物でした。
遺伝子単位で宿主の体を正常な状態へと修復し続けるので、基本的に寿命がなくなります。身体的には死ななくなりますが、命は吸い取り続けるので、生命力がなくなったらその時点が寿命になります。生命力の弱い人では子供のうちに死にます。霊感の才能のある人でも成人は迎えられません。まさに悪魔に魂を売るという諺をもじった兵器なのです」
それはまったく聞いたことのない知識だった。なぜそんなことを知っているのだろうか。嘘だとしても私の呪物の特徴と特性をついているし、一定の信ぴょう性はあった。
私は相手に合わせて言う。嘘でも本当でも聞いてみたい。
「どおりで子供のころから疲れやすいわけだ。じゃあもうすぐ私は死ぬかもしれないってことかな。もう成人して25歳だから」
クラベは考える風をして言った。
「サダメ様の場合は大丈夫だと思います。サダメ様自身が命を周囲から吸い取っているようですし。ただし急激に命を失うと、さすがに死ぬかもしれませんね。無茶さえしなければ、もしかしたら永遠に死なないかも」
なぜか永遠の命を保証されている。身体的に修復されるからっていうことだろうか。この子の話はちょっと面白いと思った。
「わたし永遠に生きれるの? もう20超えてだいぶ老けてきたと思ってるんだけど」
クラベは不思議そうに言う。
「そうですか? 見た目は十代に見えますが。たぶん何十年たっても生きてさえいれば見た目はそのままですよ」
さすがにそれは嘘くさい。
この話がどこまで真剣で本当なのかわからなくなった。
「最上位ってことは、特品にあたる呪物ってことなの?」
今の話で気になっていたことを聞く。特品呪物の中に上位の存在を呼び出すモノがあるというのは聞いたことがないが、話の口ぶりから特品という風に聞こえた。
既存の呪物にはない能力なので、品等は不明だが、使い勝手が非常に良い現場攻撃的な呪物だったので重宝している。
僅かな地鳴りを感じた。街道の遠方から騎兵の一団が整列しながら疾走してくる。あまり時間はない。
心臓にあるとされる呪物に力を集中させる。
力は私の霊視では光の粒が無数に漂っているような光景に見える。
一貫して人の生命力や力は光の粒の集合のように見え、それに向かって念じると、それを動かして操作できることがあることもわかっていた。
だから、自分と、周囲にある光の粒を、自分の心臓に集めるという幻想を霊視で見ながら、呪物を発動させるのが私の基礎的な法術だった。
発動する。と同時に世界が暗転。
音が聞こえなくなる。騎兵のいななきも、味方の兵たちの息遣いも、自分の呼吸の音も。
代わりに幻聴的な囁きがそこかしこから聞こえてくる。笑い声や、誰かを呪う声、人間ではない魔性のものたちの声が、囁くような声であちこちから聞こえてきた。
私は騎兵隊に向かって歩いて行く。
「コ、コカ…」
と言葉を発したつもりだが、音が聞こえないので本当にそのように言っているのかわからない。
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。はあぁぁぁぁぁぁぁぁ。
呼吸も荒くなっていく。黒く深い感情が腹にたまり続ける。黒く塗りつぶされていく私。世界が油絵のようになっていく。
「コカビエル、出てこい」
中空の空間が塗りつぶされ、闇夜より深い暗闇の穴が、私の頭上に現れた。闇の中には目。目のようなものが見えた。
「馬とそれに乗っている者たちとを見ると、乗っている者たちは、火の色と青玉色と硫黄の色の胸当をつけていた。そして、それらの馬の頭はししの頭のようであって、その口から火と煙と硫黄とが、出ていた。馬の力はその口と尾とにある。その尾はへびに似ていて、それに頭があり、その頭で人に害を加えるのである。…それは、なぁーんだ?」
闇の中の存在に私がわざとお道化た様子でそう言葉を投げかけると、存在は目の前の竜騎兵を敵と認識したらしく、「阿」と言った。
すると騎兵たちがゆっくりと疾走をやめていく。こちらを注視するように呆けた表情で眺めていた。
「吽」
闇の中からそんな声が響くと、突然騎兵隊が空中に飛び上がったかと思うと、そのまま虚空に突然消えた。
何が起こったのかは私もわからない。考えてもどうやっているのかも想像がつかない。携挙。携挙にあったんだと、昔の私は考えていたのを思い出した。
しかしとにかく敵は消えた。わたしは呪物への力の供給を絶って、強制的に闇とそこにいる存在を世界から遠ざけた。
音が回復して、聞こえるようになってくる。私は吐いていた。「おえええええええ」
お腹からどす黒いものが込みあがってくるようで、気持ち悪さに吐いた。冷や汗もかいている。人間より上位の怪物を呼び出す恐怖と緊張感が、毎回あった。
だからこの呪物は嫌なんだよ。
この呪物を見慣れている味方のササキと従者たちは、特に動揺した様子もなかった。
私はササキに言う。
「馬車を捨てて東の森に入る。これ以上の戦闘はごめんだし」
ササキは頷いて、従者たちに指示を始めた。
11
森の中の道は地元の人々が利用していたのか、案外歩きやすかった。
ただ、その道は細く、護衛隊は一列になって進むしかなく、時間もなかったので、案内人を手配する暇もなかった。
ムラキとアベが持つ周辺の地図と、この辺の地形に詳しい従者たちが頼りだった。
私の前をアベが歩いている。私はアベに話しかける。
「この道は一本道なの? 敵兵がこの道を探し当てる可能性はある?」
アベが言う。
「いやー、従者の話では、この辺に幾つかある東部への獣道の一つだから、なかなかこの道に絞って追ってくることはないと思いますよ。この辺の地盤は固めだから、足跡を辿ってくるのも現実的ではありませんし。敵がこの道を追ってきたとしたら、超偶然か、何らかの霊能でしょう」
つまり敵軍がこの道を追ってくることはないと。
しかし北部のコウベ氏が土地を狙ってのことではなく、大王家を狙ってのことだったら、こちらが東部へ進路を変えただけで取り逃がすというのはあまりにお粗末すぎる。北部から軍を挙兵した以上、そのくらいは考えているはずだ。
相手がけもの道の存在を知っていた場合、複数ある獣道に兵を分散させて捜索するに違いない。
とりあえず向こうが知っている道という道に捜索の兵を出すはずだ。
私はアベに言う。
「いや、敵がこの道を追ってくる可能性は十分にあるよ。敵軍の規模はわからないけど、コウベ氏の軍勢であったら周辺一帯を捜索するに足るだけの兵力はあるから。そうはいってもこれ以上速く道を進むこともできないから、できれば、けもの道を逸れて、敵をかわしつつ、身を潜め、秘密裏に東側まで進みたいの」
アベは困ったように言う。
「森で道を逸れるのはやばいですよ。俺たち探検家じゃないですし、ほぼほぼ遭難します。それよりも東部へ確実に至るこの道を確保しながら、敵の追撃を迎撃する布陣にしたほうがいいです」
確かに食料の備蓄はあっても水はそれほどない。途中の川や井戸で調達する予定だったし、コウベ氏の領地に入れば補給できると思っていたからだ。
その頼りにしていたコウベ氏に裏切られたのだから、当然頭にくる。
もう一戦くらいやりあってもいいかなという気分になってきた。
「後列に私とササキが行くから、アベとムラキは従者たちを先導して、導いて。敵が追いついてきたら私たちで対処するから、何かあったら支援に駆けつけずその場に留まって瑞葉様を守護して」
アベは言う。
「了解しました。ムラナカ様がお嬢様を護衛に選んだのは正しいですね。他の法術師を選んでいたらもうとっくに全滅してますよ」
私はちょっと得意げになる。
「わたし頭には自信ないんだけど」
アベは即答する。
「いえ、知能面より、法術が凄すぎて。兵士のいない斥候でも騎兵中隊まるまる一個を一人で全滅させてますし。一品の法術師どころか特品でもなかなか聞いたことのない話ですよ。もうこの周辺の国々で最強では」
私はさらに得意げになる。
「上には上がいるものだよ。次は大隊規模でも全滅させようかな」
アベは笑って言う。
「恐ろしい」
優秀な呪物ほど命を吸うから、一品の呪物を扱える術師は列島でも数十人ほどしかいない。
まして特品の呪物ともなれば、扱える人々は恐らく世界全体で百人もいないだろうと言われていた。
私の呪物は二品等だが、それでも兵士の中では稀な存在で、しかも二個目の呪物も移植している術師はあまり聞いたことがない。
左腕に仕込んだ二品等の呪物より、心臓に先在してあった呪物のほうが、体感で圧倒的に命を吸われるから、もしかしたら一品以上の呪物かもしれないと考えると、実は本当にこの周辺では最強の法術使いかもしれない。生きた人間をそのまま天国に連れていく、というコカビエルの術自体とんでもないし防御しようがない。要するに宇宙に放り捨てるのだ。生きたまま。残酷すぎるので、あまりその後の彼らについて考えないことにしている。
心臓の呪物の法術は、恐らく上位の存在の召喚がすべてで、その上位の存在が協力してくれるかどうかは自分にかかっている。
コカビエルを始め、召喚で協力してくれるのはいまのところ三体しかいない。そのどれも一歩間違えれば自分も殺されかねないような存在だから、非常に緊張感と恐怖があった。
コカビエルが一番付き合いが長いから、呼びやすいのだけど。
私とアベはそれぞれ逆方向へ道を進んで、後列と前列をそれぞれ指揮することにした。
12
夜になって、少し開けた森の打ち捨てられた神社の近くで夜明けまで休息することにした。私は夜目が効く、というか、夜目どころか目を閉じてても歩ける。しかし兵士たちはそうはいかないから、大休止をとることにした。
ここ連日兵士たちはほぼ不眠である。
あらかじめ休ませておいた従者の何人かを夜警に立てて、私も眠ろうかと考えていた。
するとクラベがまた以前の休止の時のように私のもとにやってきた。
「サダメ様。昨日戦闘で使った呪物。それデーモンの召喚ですね」
目が冴えているのか全然疲れてなさそうだし、なんだか楽しそうにすら見えた。
「なに、その名前」
クラベは答える。
「呪物の名前です。魔王が欲しがってた呪物、サダメ様が当たったのかぁ」
呪物には名前はないのだけれど。正式な名称についての文献は、古代に散逸したらしいので、呪物の能力と品級で識別するのが常だけど。
もちろん仮名はあるけれど、呪物に名前をつけるのはよくないことという迷信があったので、公式には呪物には名前はないものとされていた。
「私の呪物を知っているの?」
「知っています。呪物は黄昏の時代に、神々が自分たちの子孫が権力を持つように創作した遊び心ある兵器です。人間が神のようになるための、ホモ・ゼウス計画の一つの要素。それらの兵器についての知識をむかし、教えてもらいましたから」
神々、というのがなにを指すのかはわかりかねたが、呪物を兵器と呼ぶ向きもあることは知っていた。仮説だが。
そもそも呪物がなぜ創られ、なんのために残したのかについて、正確なところを伝える文献はない。
「そうなんだ。私の呪物はどんなものなのか知ってるの?」
クラベは答える。
「デーモンの召喚は神々の兵器の中でも最上位級です。理論上人でも動かせるけれど、実際に動かせる人はまずいないと言われているものの一つです。仮に稼働できたとしても悪魔を使役するのも難しいし、これを稼働させて悪魔と契約できる人間はまずいないだろうということで、使用難度においても最上級と言われている兵器でした」
まるで呪物自体をよく知っているような口ぶりだ。
クラベは続ける。
「デーモンの召喚は扱える人が皆無なので、兵器としては期待されていなかったんですけど、その防御機構の特性から重宝される代物でした。
遺伝子単位で宿主の体を正常な状態へと修復し続けるので、基本的に寿命がなくなります。身体的には死ななくなりますが、命は吸い取り続けるので、生命力がなくなったらその時点が寿命になります。生命力の弱い人では子供のうちに死にます。霊感の才能のある人でも成人は迎えられません。まさに悪魔に魂を売るという諺をもじった兵器なのです」
それはまったく聞いたことのない知識だった。なぜそんなことを知っているのだろうか。嘘だとしても私の呪物の特徴と特性をついているし、一定の信ぴょう性はあった。
私は相手に合わせて言う。嘘でも本当でも聞いてみたい。
「どおりで子供のころから疲れやすいわけだ。じゃあもうすぐ私は死ぬかもしれないってことかな。もう成人して25歳だから」
クラベは考える風をして言った。
「サダメ様の場合は大丈夫だと思います。サダメ様自身が命を周囲から吸い取っているようですし。ただし急激に命を失うと、さすがに死ぬかもしれませんね。無茶さえしなければ、もしかしたら永遠に死なないかも」
なぜか永遠の命を保証されている。身体的に修復されるからっていうことだろうか。この子の話はちょっと面白いと思った。
「わたし永遠に生きれるの? もう20超えてだいぶ老けてきたと思ってるんだけど」
クラベは不思議そうに言う。
「そうですか? 見た目は十代に見えますが。たぶん何十年たっても生きてさえいれば見た目はそのままですよ」
さすがにそれは嘘くさい。
この話がどこまで真剣で本当なのかわからなくなった。
「最上位ってことは、特品にあたる呪物ってことなの?」
今の話で気になっていたことを聞く。特品呪物の中に上位の存在を呼び出すモノがあるというのは聞いたことがないが、話の口ぶりから特品という風に聞こえた。

