第3話 電子レンジで近づく距離
(牡羊座君♂x双子座ちゃん♀)
日曜の買い物の帰り、家庭科室で、日差しがまぶしかった。心春はエプロンのひもを結び直し、拓真は袖をまくった。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは夕飯の手伝いをする。
鍵になるのが電子レンジで、手順がずれると味も形も崩れる。心春は「できるかな」と首をかしげた。
途中で心春が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、拓真は立ち止まる。
実は拓真は昨日、同じ電子レンジをもう一つ用意していた。理由は、心春が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。拓真は「先に動いたほうが早い」と言いながら、そっと手渡した。
心春は受け取り、しばらく黙ったあと、「それ、面白くない?」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。拓真は「じゃ、今使おう」と前を向き、心春はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、心春が「ありがとう」とはっきり言った。拓真は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で心春の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。心春が「今日は助かった」と言うと、拓真は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
帰り道、拓真は「次は心春のやりたいことを先に聞く」と言った。心春は少し考えてから、電子レンジを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。
【終】
(牡羊座君♂x双子座ちゃん♀)
日曜の買い物の帰り、家庭科室で、日差しがまぶしかった。心春はエプロンのひもを結び直し、拓真は袖をまくった。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは夕飯の手伝いをする。
鍵になるのが電子レンジで、手順がずれると味も形も崩れる。心春は「できるかな」と首をかしげた。
途中で心春が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、拓真は立ち止まる。
実は拓真は昨日、同じ電子レンジをもう一つ用意していた。理由は、心春が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。拓真は「先に動いたほうが早い」と言いながら、そっと手渡した。
心春は受け取り、しばらく黙ったあと、「それ、面白くない?」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。拓真は「じゃ、今使おう」と前を向き、心春はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、心春が「ありがとう」とはっきり言った。拓真は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で心春の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。心春が「今日は助かった」と言うと、拓真は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
帰り道、拓真は「次は心春のやりたいことを先に聞く」と言った。心春は少し考えてから、電子レンジを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。
【終】


