第15話 定規で近づく距離
(牡牛座君♂x双子座ちゃん♀)
朝練のあと、図書室で、空気が少しひんやりしていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
交際が始まって日が浅く、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
今日は提出物の準備をする。そこに定規が出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
途中で乃々香が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、温人は立ち止まる。
実は温人は昨日、同じ定規をもう一つ用意していた。理由は、乃々香が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。温人は「一つずつ片づけよう」と言いながら、そっと手渡した。
乃々香は受け取り、しばらく黙ったあと、「それ、面白くない?」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。温人は「じゃ、今使おう」と前を向き、乃々香はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、乃々香が「ありがとう」とはっきり言った。温人は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で乃々香の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
片づけの最中、定規が机から転がりそうになり、温人が反射で押さえた。その手の速さに乃々香が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。温人は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
帰り道、温人は「次は乃々香のやりたいことを先に聞く」と言った。乃々香は少し考えてから、定規を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。
【終】
(牡牛座君♂x双子座ちゃん♀)
朝練のあと、図書室で、空気が少しひんやりしていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
交際が始まって日が浅く、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
今日は提出物の準備をする。そこに定規が出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
途中で乃々香が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、温人は立ち止まる。
実は温人は昨日、同じ定規をもう一つ用意していた。理由は、乃々香が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。温人は「一つずつ片づけよう」と言いながら、そっと手渡した。
乃々香は受け取り、しばらく黙ったあと、「それ、面白くない?」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。温人は「じゃ、今使おう」と前を向き、乃々香はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、乃々香が「ありがとう」とはっきり言った。温人は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で乃々香の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
片づけの最中、定規が机から転がりそうになり、温人が反射で押さえた。その手の速さに乃々香が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。温人は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
帰り道、温人は「次は乃々香のやりたいことを先に聞く」と言った。乃々香は少し考えてから、定規を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。
【終】


