「ちょっとトイレ行ってくる」
隣に座る結人にそう伝えると、トイレの手洗い場で眼鏡を外して手をついた。
鏡に映る自分の顔色は特に変わらず……でもなんとなく体調が変だ……いつもはこんなに眩暈なんてしないし。
そこに真司がやってきたので、咄嗟に姿勢を正し、取ってつけたような笑顔をする。
「真司もトイレだったんだ」
「いや……亮の様子が変だったから」
真司にも気付かれていた?
でもどこがどうってわけじゃないし、あまり心配かけたくはない。
「ちょっとお腹が痛かったんだ。でももう大丈夫だよ」
「……そうか」
「うん。心配してくれてありがとう」
そろそろ戻ろうと眼鏡をかけようとした時、真司の大きな手が伸びてきて僕の頬をサラリと撫でてきた。
その手は野球を一生懸命頑張っている手で、マメだらけでゴツゴツしている。
眼鏡をするのも忘れて真司を見ていると、なんだか心ここにあらずといった感じで頬を撫でているので、僕から声をかけた。
「真司?」
「…………っ、あ、いや、すまない」
「皆のところに戻ろうか」
「ああ」
僕は今度こそ眼鏡をかけ、皆が歌っている部屋へと戻っていった。
でもさっきのはなんだったんだろう。
そんなに顔色が悪かったかな。
もし頬を撫でたのが結人だったら……想像すると顔がどんどん熱くなってくるので、これは危険だと思った僕は咄嗟に思考を停止した。
とにかく体調も今は何ともないし、気を付けていれば大丈夫かな。
せっかく皆が楽しんでいるところに水を差したくないので、そのままカラオケを堪能する事にした。
「はぁ~~歌ったな!」
退出時間になり、カラオケ店を出たところで、雫が清々しくそう言い放つ。
最初は駆流クンたちがいる事に文句を言っていたけれど、カラオケが終わる頃にはすっかり打ち解け、特に駆流クンとはかなり仲良くなっていた。
