家内が帰宅した。いつものように忙しなくゴソゴソ音を立てていた。部屋に入ってきてもなおゴソゴソしていたが、しばらくして静かになった。家内が出たあとキッチンには海苔の袋(小分けに封入してあるもの)が二つも転がっていたので、どれほど海苔をぐるぐる巻きにしたのかと興味がわいたが訊かなかった。
家内は三角に握るのが苦手らしく、いつも丸くなってしまうようだ。三歳が食すものなのでコンビニで購入した鮭の握り飯を温めたうえ少し小さくすればよかろうと勧めたが、自身が握った方がよいと判断したらしい。かなりの海苔を巻いたはずで、まさかコンビニのように全体が覆われているものを作ったのかと思ったが訊かなかった。子供がそれをどう食べ、どのような反応をしたのかも訊かなかった。私はただLINEで、『くたびれたか?』とメッセージを送った。『疲れた。寝る』と返信があった。直接話して感想を訊いたら、ブランコ、滑り台を好んでいたらしい。米を詰めて握り飯の形を作るプラスチックの型板を購入したようだ。出発してからちょうど二時間ほどで帰宅したので子供が随分はしゃいだのか相当疲れたようで、トイレに立った際にちらと家内を見たら仰向けになって目を閉じていた。
用を足し、小説を読んでいたら、玄関のドアを叩きながら誰か叫んでいる。うちは古い一軒家だからインターホンがない。女性が何か繰り返し叫んでいて、家内は民生委員だろうと言って玄関に向かった。民生委員の女性と家内の声が聞こえてきて読書に集中できない。民生委員は児童委員も兼ねていることが多いと聞いていたが、話題は先ほど子供と遊んだということ。十分ほどしてようやくドアを閉めて外で話し出したが、それでも何か話している声は聞こえてきて集中できなかった。民生委員は無報酬なのでご苦労なことだと思ったが、私には迷惑だった。
聞き耳を立てるほどのことは話していまいと半ば緊張しながら天井に向かって機関車のごとく紫煙を吐いて家内を待った。戻ってきたときには訪問から約三十分も話し込んでいて呆れた。それでも何を話したかは訊かなかった。家内はどうしようもない愚か者なので私は、おいと呼びかけると、
「民生委員は守秘義務があるけど、余計なことは喋るな」
と釘を刺した。
家内が、うん、はい、かわからない曖昧な返事をしたので腹が立った。
「おい。僕のおにぎりも作っとけ」
ぶっきらぼうに言い放つと、今度はしっかり了とする返事をした。そしてすぐにキッチンに行ったので私はあわててサランラップの上から握るよう求めた。
幼少期に町内会の集まりで中高年の女性らが握ったおにぎりを食べた記憶がある。子供ながらに握りたての生温かいおにぎりが気持ち悪かった。自分で握ろうと体を起こした。億劫になってすぐ寝転んだ。
私は「けえい」と老人が多用する鬱陶しい、面倒くさいという意を含む家内の独り言を聞きながら爪の皮を噛んだ。
家内は三角に握るのが苦手らしく、いつも丸くなってしまうようだ。三歳が食すものなのでコンビニで購入した鮭の握り飯を温めたうえ少し小さくすればよかろうと勧めたが、自身が握った方がよいと判断したらしい。かなりの海苔を巻いたはずで、まさかコンビニのように全体が覆われているものを作ったのかと思ったが訊かなかった。子供がそれをどう食べ、どのような反応をしたのかも訊かなかった。私はただLINEで、『くたびれたか?』とメッセージを送った。『疲れた。寝る』と返信があった。直接話して感想を訊いたら、ブランコ、滑り台を好んでいたらしい。米を詰めて握り飯の形を作るプラスチックの型板を購入したようだ。出発してからちょうど二時間ほどで帰宅したので子供が随分はしゃいだのか相当疲れたようで、トイレに立った際にちらと家内を見たら仰向けになって目を閉じていた。
用を足し、小説を読んでいたら、玄関のドアを叩きながら誰か叫んでいる。うちは古い一軒家だからインターホンがない。女性が何か繰り返し叫んでいて、家内は民生委員だろうと言って玄関に向かった。民生委員の女性と家内の声が聞こえてきて読書に集中できない。民生委員は児童委員も兼ねていることが多いと聞いていたが、話題は先ほど子供と遊んだということ。十分ほどしてようやくドアを閉めて外で話し出したが、それでも何か話している声は聞こえてきて集中できなかった。民生委員は無報酬なのでご苦労なことだと思ったが、私には迷惑だった。
聞き耳を立てるほどのことは話していまいと半ば緊張しながら天井に向かって機関車のごとく紫煙を吐いて家内を待った。戻ってきたときには訪問から約三十分も話し込んでいて呆れた。それでも何を話したかは訊かなかった。家内はどうしようもない愚か者なので私は、おいと呼びかけると、
「民生委員は守秘義務があるけど、余計なことは喋るな」
と釘を刺した。
家内が、うん、はい、かわからない曖昧な返事をしたので腹が立った。
「おい。僕のおにぎりも作っとけ」
ぶっきらぼうに言い放つと、今度はしっかり了とする返事をした。そしてすぐにキッチンに行ったので私はあわててサランラップの上から握るよう求めた。
幼少期に町内会の集まりで中高年の女性らが握ったおにぎりを食べた記憶がある。子供ながらに握りたての生温かいおにぎりが気持ち悪かった。自分で握ろうと体を起こした。億劫になってすぐ寝転んだ。
私は「けえい」と老人が多用する鬱陶しい、面倒くさいという意を含む家内の独り言を聞きながら爪の皮を噛んだ。



