(今日は色々あった日だったな……)
夕食後に風呂に入り、ベッドで横になると一気に疲れが押し寄せた。
スマホを見ると、メッセージが二件。清良と阿隅くんからだ。清良からは謎のアイスのハズレ棒写真で、阿隅くんからは愛犬ラブの写真。それぞれに返信しながら、俺は清良の言葉を思い出していた。
――阿隅は俺が気に入らないのかもしれない。前からよく突っかかってきてたから。
(でも、清良と阿隅くんの接点って何だろう?)
学年も違うし同じ中学の出身でもない。清良の口から阿隅くんのことを聞いたのは、ステージの会議の時が初めてだ。二人に何かあったとしても、たぶんこの4月からの話だろう。
本人が「相手を選んでる」と言っていたが、俺には阿隅くんが自分と清良にあんなに態度を変える理由は思いつかなかった。送られたばかりのラブの写真には子犬の頃の写真もあってすごく可愛い。
(こんなに犬を可愛がるんだから悪い奴じゃないと思うんだよなぁ……)
これ以上清良と阿隅くんが衝突しないことを祈って、俺は部屋の電気を消した。
それからの俺は忙しかった。
朝に晩に、サンバの動画を見続けた。清良が、踊れるようになるためにはまず動画を見ることだと言ったからだ。しかし、動画で見たように手足を動かそうとしても、手と足がバラバラな動きになってしまう。コマ送りのように動作が画像になっているサイトも見つけたが、それで一つ一つを理解しても、連続するとさっぱりわからなくなるのだ。
〈あおちゃん、調子どう?〉
清良から進捗を尋ねるメッセージが来て、俺はすぐに現状を訴えた。するとすぐにメッセージが返ってくる。
〈まずは足だけ練習。足に手は引っ張られるから〉
そんなものかと思ってひたすら足を練習した。それが余程響いたのか、隣室の緋鶴が「うるさい!」と怒鳴り込んできた。ところが、俺の動きを見た途端、息を呑んで黙り込む。
「おにい……りんりんが心配してたけど、これは放置できないレベルだわ。踊るの『はピはピ学園サンバ』だよね? 雀山音頭じゃないよね?」
「緋鶴……。お前、これ踊れるのか?」
「今時、幼稚園の子だって踊れるよ! どれだけ世の中で流行ってると思ってんの!」
さりげなくお前は幼児以下だと言われたが、事実かもしれない。
「おにい! このままじゃ、着ぐるみ同好会の評価は地の底だよ!」
「そんな……」
「……わかった。何とかする」
「緋鶴う!」
俺はその晩から緋鶴によるサンバの特訓を受けることになった。文化祭前の貴重な時間をクラス準備以外はサンバに費やした。週明けは朝に動画、昼休みに動画、放課後は教室でタコを作って夜は特訓。寝る前に阿隅くんから送られてくるラブの写真だけが俺の癒やしになった。
だが、その特訓は無駄じゃなかった。全体練習日、俺は清良たちから絶賛されたのだ。
「すごいよ、あおちゃん! ちゃんと手足がリズムに合ってる!」
「ひづが何としても人前に出せるようにするって言ってたけど、これならいけます!」
「ほら、月宮。お前のタヌキも来たぞ~」
社会科準備室に置かれた段ボール箱を加瀬が俺の前に出す。
皆に開けてみろと言われて、俺は箱からタヌキの着ぐるみを出した。焦げ茶色でふっかりした頭が現れた瞬間、おーー! と声が上がった。実物は通販サイトの写真よりも垂れ目で可愛い。目の部分はメッシュだ。すぽんと被ると思ったより軽く、全身の着ぐるみとは比較にならないぐらい楽だった。
「えーー可愛い! 違和感がない!」
「田野倉、名前つけてやれよ。パン吉だけじゃ寂しいだろ」
「いいんですか? ウサギとキツネはあんなに名前付けるなって言ってたのに」
タヌキを脱ぐと、りんりんが満面の笑みを浮かべている。
「先輩! ポコ助はどうですか? 可愛いでしょ?」
「そう言われると何だか合ってるような……」
清良がにこにこしながらうなずくから、思わず「それでいいよ」と言ってしまった。
四人でサンバの練習を繰り返し、清良とりんりんは他にもダンスを二つほど合わせて踊った。明後日に着ぐるみを着て最終チェックをすることにして、練習は無事終了した。

