(――これ、何だろうな?)
最近、時々動悸がする。運動した時とは違うし、不安な時ともちょっと違う。清良の部屋に行った時から……のような気もするけど、あれはもっと激しかった。
社会科準備室ではりんりんが先に来て、窓を開けてくれていた。向かい合わせになって四人で文化祭の話をする。清良が作ってくれた文化祭の進行表を見ながら、俺はいつの間にか妙な動悸について考えていた。
「……あおちゃん?」
「え……あ? ごめん、ちょっと聞いてなかった」
「大丈夫? この部屋暑いからね。今日は風もないし」
「うん、ごめん」
自分も汗を拭った清良は、進行表の内容をもう一度読み上げてくれた。
着ぐるみ同好会の参加内容は二つ。
二日間の文化祭でそれぞれ、朝一番に生徒会や文化祭執行部と共にパンフを配ること。それから一日目のステージでの10分。
「10分ってやっぱり短くないですか? 去年もこのぐらいだったんですか?」
「いや、もう少し長かったよ。今年は色々予想外で……」
清良は夏休みに俺が聞いたのと同じ話をした。特別企画の余波で時間が減ったことと、有志の子が同好会にも長い時間を割り振るのかと言った件だ。あんまり時間とれなくてごめん、と謝る清良にりんりんは首を振った。
「いえ! そんな、同好会を馬鹿にしてる奴らに負けられないんで! 今度こそ僕も頑張ります」
「うん、頑張ろ。それでこの10分は短い時間だけど、少しでも着ぐるみ同好会をアピールしたいんだよね。これからでも入ってくれる子がいたら嬉しいし。だから、ちょっと考えてみたんだけど」
清良はそう言いながら、スマホを取り出した。動画配信サイトで赤と緑の二体の着ぐるみが踊っている。子どもの時からTVでよく見たキャラクターたちだ。彼らは、この夏大流行したサンバを踊っていた。
(着ぐるみでも、サンバって踊れるんだな)
「この二人大好き!」
「うん。で、サンバを入れたメドレーにしたらどうかなと思って。俺たちの次に有志でバンドやるやつが知り合いだから、先にセットしてもらってコラボすればいいと思うんだよね」
「面白そう!」
「冒頭に少しだけ着ぐるみ同好会の紹介入れてから踊ろうかなって」
「そうしたら、すぐに10分経っちゃいますね」
(ダンスメドレーか。ウサギに入るのは清良だし、パンダはりんりんだ。加瀬はあのキツネで参加だから、俺にできるのは雑用ぐらいか)
「じゃあ、俺は当日、動画撮るわ。後で見返すのに役に立つだろ」
三人がえっ? と言う顔で俺を見る。
「ん? だって他にできそうなことないし……」
「先輩! 寂しいこと言わないで先輩も一緒にやりましょう!」
「そうだよ、あおちゃん。折角あおちゃんも入ったんだし、皆でやろうよ」
「頭だけの奴なら予算で買えるんじゃないか? 俺がキツネだから、月宮はタヌキとか?」
そう言いながら、加瀬がすごい勢いでスマホでの検索を始めた。そして、本当に『タヌキ頭部、着ぐるみ』の画像を出してきた。
「あ、これなら予算内でギリギリいける!」
「配送もすぐってありますよ。安いのに高品質だって」
「な! じゃあ、これにしようぜ!」
スマホを覗き込んでいた三人が俺の前に加瀬のスマホをよこす。画面には垂れ目で丸顔のタヌキがいた。すごく可愛いっていうより、何となく親しみがわく……そんな顔。
「そのタヌキ、先輩にちょっと似てますよね!」
「おま……」
「それ、可愛いよ!」
清良がきっぱり言う。それにつられて、加瀬とりんりんもうなずいた。可愛いと言われると可愛い気がしてくるから不思議だ。俺がタヌキをしみじみ眺めている間に、清良は加瀬が出した着ぐるみタヌキの通販サイトを確認した。
「では、注文します!」
えっと思った時にはもう、『タヌキ頭部』の注文は終わっていた。

