お盆のバイトが終わって一週間近く経った。明後日で夏休みも終わる。
残った課題に心がざわつく中、俺と加瀬、いや2年E組の面々は教室で文化祭の装飾準備に励んでいた。向かい合わせになった机の上には赤と白の画用紙に段ボール、ハサミやテープが広がっている。
「……誰が壁を巨大タコで飾ろうって言ったんだっけ」
「美術部の堀さん」
「ああ……堀さんアーティストだもんな」
「でも、実行委員がそれだけじゃ客が怖がるって言うんで、他の飾りも作ることになったんだよ」
「だから、提灯や輪飾りが増えたのか」
文化祭でのうちのクラスの出し物は、たこ焼きだ。
里見高校の文化祭では飲食系は2年以上と決まっている。その上、内容が被りすぎないように同じ食べ物は二クラスまでだ。たこ焼き争奪戦を勝ち抜いたうちのクラスは大変な盛り上がりで、装飾にも力を入れようということになった。
教室の廊下側の壁に巨大なタコを作って張り付ける。材料は段ボールと色画用紙。場合によってはペンキも使う。そんな装飾は皆で力を合わせないとできないとあって、夏休みの間に準備の日が設定された。
集まれる人だけのはずだったが、結構な人数が参加している。
俺と加瀬は、赤い色画用紙をひたすら言われた通りに切っていた。これは段ボールと張り合わせて、タコの足の一部になるらしい。隣では赤と白の提灯を作る女子たちがいた。
「……後夜祭で?」
「うん……大丈夫かな」
「大丈夫だって! 言っちゃえ言っちゃえ!」
「ちょっと! 声大きいって」
こそこそと話す声が耳に入った。文化祭二日目には後夜祭があり、最高潮に盛り上がる。そこで好きな相手に告白でもするんだろうか。
(いいなあ……。俺もそういう相手が欲しい)
告白したこともされたこともないが、文化祭をカップルで回る姿を見るといいなと思う。そういえば、と自分の机に飾っていたアレンジメントを思い出した。
(あれは、彼女か……他の誰かにプレゼントする花だったんじゃないのか?)
俺がもらってしまってよかったのかと思いながら、毎日眺めていた。暑さのためにもう枯れてしまったが、スマホには撮ってある。
「なあ、加瀬。お前、花もらったことある? 花束とか、ちゃんとしたやつ」
「え? 卒業式とか?」
「……そうだよな。そんなとこだよな。あ、じゃあ、どんな時に贈る?」
加瀬はうーん、と考え込んだ。
「花なんか贈んねぇしな……」
それもそうだ。俺も花と聞いて母の日のカーネーションぐらいしか思いつかない。やっぱりわからないと思っていると、文化祭実行委員の持田がやってきた。
「ねぇねぇ、つっきー!」
「持田さん、その言い方やめてくれる?」
「だって月宮ってめちゃ綺麗な名前じゃん。つっきーの方が合ってない?」
「さりげなく落とさないで。……で、何なんだよ。俺ら、ちゃんと作業してるんだけど」
持田はさっと周囲を見回すと声を潜めた。皆、自分の作業に集中している。
「……きよらんが、いつ出るか知ってる?」
「着ぐるみ同好会の出演時間なら知ってるけど」
「そっちじゃないって!」
声を張り上げた持田に周囲の視線が集まる。ごめんごめんと皆に謝って持田は机の脇に座り込む。そして、ごくごく小さな声で囁いた。
「……A組の和風カフェに決まってるじゃん! きよらんのシフトだよ」
『きよらん』とは清良のことだ。本人に面と向かってそう呼ぶ奴はいないが、女子の間では愛称呼びが定着している。清良の2年A組の出し物は和風カフェ。男子も女子も浴衣で出るとあって、清良がウエイターとして出る時間を皆知りたがっている。今日だけで何人に聞かれただろう。
「皆聞きに来るけど、本当に知らないよ。まだはっきり決まってないんじゃない?」
な、と加瀬に言えば、ああ、と同意が返ってくる。同じ同好会とあって加瀬も俺と同じことを聞かれている。
「うちのクラスだってシフト決めてないんだからさ、これからだろ」
むうと口をへの字に曲げた持田がそれもそうか、と呟く。
「持田、当日は忙しいのにA組に行ってる暇なんかあるのか?」
「……ないから、せめてその時間だけは抜け出して見に行きたいんじゃない!」
清良ファンの熱意は恐ろしい。俺からこれ以上情報を引き出せないとわかった持田は、自分の作業に戻った。
俺はスイカをもらった時から清良と顔を合わせていない。何となく気まずいような変な感じだ。スマホにはずっと、何のメッセージも入っていない。

