真夏の太陽はちょっと外に出ただけで容赦なく肌を焼く。愛車のママチャリをこぎ出すと、あっという間に全身から汗が噴き出した。
夏休みも半分を過ぎ、今はお盆の真っただ中。俺は三日前から毎日、雀山商店街に通っている。
商店街から一本裏手にある共同駐車場の中の駐輪スペースにチャリをとめ、商店街に入る。目指す店の前に、入口を掃除している店主がいた。
「おはようございます、伊藤さん」
「おはよう! 月宮くん。今日もよろしく頼むな」
「はい、よろしくお願いします!」
タオルを首に巻いた伊藤さんが二カッと笑う。伊藤さんとは商店街の夏祭りの時に初めて会った。里見高校の卒業生で、着ぐるみ同好会に夏祭りへの応援を依頼してきた人だ。
俺は店の奥に入り、荷物を置いてから『フラワー伊藤』のエプロンを着けた。黒地にピンクで店名が書かれ、フラワーと伊藤の間に小さな花が一つ付いている。ピンクは店のイメージカラーらしくて、配達用の車も白とピンクのツートンカラーだった。
「本当に助かるよ。暑い時期は花もちが悪いから、いつもよりお客さんは少ないんだ。でもお盆だけは別」
お盆の時期にはお供えやお墓参りの為に仏花を買いに来る人が多い。中には花がすぐだめになるからと、こまめに買いに来る人もいる。
「今日は配達ですよね。店番は半日ってことでいいですか?」
「ああ、何軒か回ったら戻ってくるし、お客さんにはアレンジメントは店にあるだけって言ってくれ。何かあったら電話してくれればすぐ出るから」
伊藤さんはそう言って忙しなく店を出ていった。店の中には俺一人だ。カウンターの中に入って椅子に座ると、ここ数日の慌ただしさを思い出した。
三日前、俺は塾の夏期講習の帰りに商店街に寄った。母の誕生日の花を買うためだ。いつも適当に菓子を買って渡していたのだが、伊藤さんが「カーネーション以外の花も買ってくれ」と言っていたのを、ふと思い出したのだ。母がどんな花を好きなのか知らないが、店に行って考えよう。そう思って『フラワー伊藤』の店内に入ると、忙しそうな伊藤さんの姿が目に入った。
伊藤さんは俺を見るとすぐに夏祭りで会ったことを思い出してくれた。母の誕生日だと言うと、店の中の冷蔵ショーケースを見て、花は今ここにある分しかないが大丈夫かと聞く。ショーケースの中にアレンジメントは一つもなく、今日は作れないと言う。
元々、小さな花束を頼むつもりだった。母には悪いがいつだって金はない。花のことはよくわからないので予算だけ言うと、伊藤さんはひらひらした白い花を数本取り出した。青い小花がたくさんついた花と合わせて素早く花束を作ってくれる。感心しながら眺めていると電話がかかってきて、ちょっとごめんと電話を取った。なにか依頼を断っているようで、電話口でしきりに頭を下げている。電話を切った伊藤さんは、俺にも謝りながら眉を下げた。
「昨夜、母が腰を痛めちゃってさ。ギックリ腰だから安静にしてるしかないんだけど、うちの奥さんは子ども連れて実家帰ってるし、ほんと困った。うちは家族でやってる店だから」
「えっ! じゃあ、お店は今、伊藤さんだけなんですか?」
「そうなんだよ。夏はお客さんもそんなに来ないんだけど、明日からお盆だろ? お盆の時期は仏花を買いに来る人で大忙しなんだ。店番だけでも誰かいてくれたらいいんだけど……」
そう言いながら、涼し気な花束に明るく輝くブルーのリボンを付けてくれる。
『フラワー伊藤』は普段は伊藤さんのお母さんや奥さんもお店に出ているそうだ。たしかにカーネーションを買いに来た時は、にこにこしたおばさんに渡してもらった。
「……店番だけでもいいですか?」
「え?」
「俺、今日で塾の夏期講習終わるから……。手伝いましょうか?」
「ほ、ほんとに?」
つい口にした言葉から、俺の短いバイトが決まった。

