「そういえば、着ぐるみ同好会って文化祭では何すんの?」
「生徒会と一緒に正門でのパンフ配りとステージ出演」
「ステージでの時間は?」
「10分」
「短くない?」
俺の言葉に清良は力なく眉を下げた。
「今年はステージで特別企画があるんだ。それに時間をとられて元々短めなんだよ。有志の参加も多いし」
文化祭では『ステージ』と呼ばれる野外の特設舞台と体育館とで、それぞれ歌や演奏、ダンスが行われる。有志でも申し込めばステージに立てるから、友達同士で参加する者も多い。今年はその希望者が多かったらしい。
「夏休み前にステージに立つ時間の割り振りで代表者が集まったんだ。その時に、有志のグループの子が過激な発言して大変だったんだよ」
「うん?」
「部活動ならまだしも同好会にも長い時間を割り振るのか、って言ったんだよね。普段の活動自体、何やってんだかわからないのにって。それで会議が白熱しちゃってさ。メンバーが少ないだけで、うちより前から活動してる同好会もいるから」
「うわぁ……」
「自分たちにも長く時間割り振れってことなんだろうけど、言い方が悪いよね。部活側は静観してるし同好会側は怒るしさ」
それはそうだろう。自分たちの活動を馬鹿にされるような発言をされれば誰だって嫌だ。目立たなくても真面目にやってるところはあるんだし。
ステージは暗黙の了解で、ずっと部活動が優先されてきた。部活動の次は同好会、その次に有志に時間が割り振られる。
(強気な奴もいるもんだ。そんなこと思ってても、なかなか言えない気がするけど)
危うく喧嘩になりそうなところを執行部が止めに入った。何とか時間の調整に入った時に、強気に出られなかった同好会や有志は時間が減ってしまったのだと言う。
「じゃあ、うちは……」
「ちょっと頑張れなくて」
しゅんとした清良が可哀想になって、俺は手を伸ばしてよしよしと頭を撫でた。栗色の髪はどんな手入れをしているのか、ふわりと柔らかい。昔飼っていた犬の毛並みを思い出して、つい夢中になって撫でていたら、清良がむっとした顔をする。
「犬じゃないんですけど」
「うん、ジョンを思い出してた」
「ああ……ジョン……」
清良が何とも言えない顔をしたので、それ以上撫でるのをやめた。予定していた課題をほぼ片づけ、清良とゲームをしたところで家に帰った。隣なのですぐだ。
家のリビングの扉を開けると緋鶴がいた。テーブルに裁縫セットを広げ、メイド服らしきものを縫っている。膝丈で白いエプロンの付いたフリフリしたタイプだ。
「おかえり、おにい」
「ただいま。それ、もしかして文化祭の? お前が作ってんの?」
「まさか。ネットで買ったのをリメイクしてるんだよ。ちょうどいいや。おにい、そこに立って」
緋鶴の言うがままに立つと、メイド服を体に当てられた。緋鶴は、うーんと唸りつつ首を傾げる。
「おにい、これ着てくんない?」
「は? お前が自分で着ろよ」
「自分で着たらよくわかんないじゃん。実際に男子が着た様子を見たいの」
この服を着るのはりんりんだから、おにいと体形変わらないよねと言われて返事に詰まった。体形のことを言われるとムカつくが、りんりんの役に立つのなら仕方がない。
メイド服のファスナーを下げてすぐに着ようとしたら、Tシャツはそのままでいいがハーフパンツは脱げと怒られた。仕方なくボクサーパンツだけになって、生まれて初めてメイド服を着た。後ろのファスナーは緋鶴が上げてくれる。
「……すげぇ、……すーすーする」
「女子は皆そうなんだよ!」
スカートってこんななのか。何だか全然落ち着かない。前に回って俺を見た緋鶴は、あからさまに嫌そうな顔をした。
「えー……、りんりんの方がずっと可愛い」
「そんなこと、どうでもいいわ! お前のクラス、メイド喫茶でもやるのか?」
「ううん。飲食系は2年以上じゃん。うちはお化け屋敷だよ。『とあるメイドの惨劇~復讐の館~』っていうの。おにいもおいでよ」
緋鶴の言葉に、こいつのクラスには絶対に行かないと決めた。ホラーは俺の鬼門だ。服をあちこちチェックした緋鶴は、前、横、後ろと何枚もメイド姿の写真を撮る。
「ありがと、おにい。これでいけそう。後は何か所か破って、血のりを付けて……」
ぶつぶつ言いながら、メイドの絵を描いたノートに、細かく改善点を書き付けていく。もう脱いでいいと言われて、すぐに脱いだ。りんりん頑張れと心の中で呟きながら。

