嵐のような合宿後、一週間が経った。
俺は正式に着ぐるみ同好会に入ることになった。とは言っても今は夏休み中なので、学校に届けを出すのは休み明け。その間は仮入部期間みたいなものだ。
「……で、夏休みが明けたら二週間後は文化祭なんだよね」
「うん」
「折角たくさん人が来るんだから、着ぐるみ同好会を宣伝したい」
「うん」
「校内の1年生にもアピールできたらいいんだけど。りんりんも同級生がいた方が心強いだろうし」
「うん」
「……あおちゃん、聞いてないね」
「必死だから」
「ごめん」
ただ今、清良の部屋で夏休みの課題中。賢い清良は課題をこなしつつ他のことも進められるが、俺には無理。ついつい返事がいい加減になる。俺は文系、清良は理系。課題の内容も違うが、共通のものもあるので一緒に勉強することが多い。場所はいつも清良の部屋だ。なにしろ一人っ子の清良の部屋の方が広くて、いつも片付いているから。
「あおちゃんが同好会に入ってくれたのは嬉しいんだけど、切実に入って欲しいのは1年なんだよ……」
清良が目の前で、ふうとため息をつく。シャーペンを長い指で持つ仕草も美しく、ただ課題をやっているだけなのに絵になる。
清良が悩むのも尤もだ。この先、今の2年生が引退してしまえば、メンバーはりんりん一人。同好会は部活動の格下なので予算が少ないし部室もない。たまたま今は社会科教師の保科先生が同好会の顧問なので社会科準備室の一部を(仮)部室として使わせてもらっている。でも、このままずっと使わせてもらえるとは限らない。
「同好会が部活になるのって大変なんだっけ?」
「うちの高校、部活動に昇格するには部員が十人いなきゃだめ」
「きっつ」
「うん。同好会も本当は五人以上在籍がルールなんだよ。でも、着ぐるみ同好会は特例でできたから」
俺たちが入学前の秋に、高校OBの会社から自社商品の着ぐるみが送られてきた。部活の応援などに使ってほしいとのことで学校の備品となったものの、使い道が難しい。学校から相談された生徒会は全校生徒に使用方法のアンケートを取った。その結果、二人の生徒が同好会を作りたいと申し出たのだ。高校側と協議の結果、着ぐるみ同好会は特例として二人でも許可が下りた。
「メンバーがいなくならない限り存続できると思うけど、このままじゃ……」
「緋鶴を誘っても、無理って言うだろうしなあ」
りんりんと仲が良さそうだからどうかと思ったが、あいつは清良のいるところには近寄らない。
「着ぐるみが好きだとか興味がある人いないかな」
「俺はそんなに興味ないよ?」
「でも、あおちゃんは入ってくれたよね」
「清良たちといるのは面白そうだと思ったからな」
清良は嬉しそうに笑った後、急に真面目な顔になった。
「そう思ってくれるだけでもいいんだ。でも……」
その先、清良の言いたいことはわかる気がした。
着ぐるみ同好会に人がいない大きな理由は、清良だ。
清良が同好会に入るとすぐに清良目当ての生徒が大勢押しかけた。目当ては清良だから、同好会の活動にはまともに参加しようとしない。清良が「同好会に入っている人とは付き合わない」と公言した途端、波が引くように人が消えた。
「……はぁ」
「知ってるか、清良。ため息つくと幸せが逃げるって」
「ことわざおじいちゃんになったの?」
「それ、ことわざじゃないから」
俺が憤慨していると、清良はわざと大きなため息をつく。
「知ってる? あおちゃん。ため息をつくことにはリラックス効果があるんだよ」
「え、そうなの?」
「緊張を緩めるんだって」
試しにため息をつこうと何回かやってみたら、全然うまくできなかった。
「ため息は不安や心配事がある時に出るんだ。なにもない人は出ないよ!」
そんなに怒らなくてもいいのに。だが、たしかに俺はため息より欠伸の方が多い。
「……清良も大変だな」
同好会の会長なのに、自分の人気で人が入らないのはつらいだろう。りんりんを心配する気持ちもよくわかる。

