幼馴染が「お願い」って言うから


 まさかこんなところで会うとは思わなかった。2年になってからは文理選択でクラスが離れたし、行事で見かけても避けるようにしていたから。
 
「ごめん。ふざけてて周りをよく見てなかった」
「あ、うん。別にいいよ」
「でも、どこか怪我してない?」
「全然。ほんとに平気だから、気にしないで」

 久木の後ろの集団が困惑したようにこちらを見ている。彼らから自分の名が聞こえて、一刻も早く立ち去りたくなる。「じゃあ」と声をかけると、久木が慌てた。

「月宮、今、部活の皆で来てるんだ。よかったら、一緒に」

(――……一緒に?)

「あおちゃん、食事行こ!」

 清良が俺を呼んだ。助かったとばかりに「今行く!」と叫ぶ。

「久木、友達が呼んでるから」
「あ……上橋?」
「そう。それに、清良だけじゃない。俺も部活の皆(・・・・)と来てるんだ」
「部活?」

 久木は目を丸くした。俺はすぐに背を向けて、清良たちに向かって歩き出した。少し離れたところにいた三人に謝ると、りんりんが心配そうに俺を見る。

「大丈夫ですか? 今の、うちの学校の先輩だって聞いたんですけど」
「うん。俺と同じ2年だよ。ちょっとぶつかっただけ」

 俺は後ろを見なかった。見る必要もないし、もう久木に話しかけられるのもごめんだ。フードコートに着くと、昼時なだけあって混みあっている。日陰に四人掛けの席が一つ空いたのを見つけてそこに座った。二人ずつ交替で食事を買いに行くことにして、先に加瀬とりんりんが向かう。
 清良の視線を感じて、俺は二ッと笑って見せた。

「さっきは、ありがと」
「……バド部も遊びになんか来るんだね」
「俺もちょっと驚いた。でも、今は前とは違うのかも」

 入学してから一年間、俺はバドミントン部に入っていた。それまでバドミントンをやったことはなくて、新入生向けの部活動説明会で興味を持った。里見高校のバドミントン部は運動部の中ではゆるい部活だった。「勝ち進むことも大事だが、楽しく続けていくことを一番大切にしたい」部長のそんな話に共感して入部を決めた。そして、初心者の俺にも先輩たちは親切で、1年生同士も仲が良かった。めぼしい成績を上げることはなくても、楽しく部活を続けていたのだ。夏休みが終わり、久木が入部してくるまでは……。

「お待たせしました~~! 交替!」
「どこも結構並んでるからな。カレーがすいてて狙い目だ」

 ホットドッグとポテトのセットを抱えたりんりんとカレーの大盛りを手にした加瀬。どっちもうまそうだけど、できれば冷たいものがいい。俺と清良は立ち上がって、フードコートの行列を眺めた。冷やしうどんがいいなと思ったけれど、長蛇の列だ。端の方にあるカレーは断然短い。

「もうカレーでいいんじゃない?」 

 清良の言葉に頷いて、二人で向かおうとした時だった。久木を先頭にした男子の集団がカレーの列にぞろぞろ並ぶのが見えて、すぐに方向を変えた。

「やっぱり冷やしうどんにしよ」
「了解」

(会いたくないと思う時ほど会うってほんとだな……。この後も会わなきゃいいけど)

 折角これから色々乗ろうってのに、いちいち顔を合わせたら最悪。はぁとため息をつきながら行列に並ぶ。すると、清良が「あ」と言って近くの自販機を指差した。

「あおちゃん、このまま並んでて。俺、あそこで飲み物買ってくる」
「うん」

 清良はすぐに戻ってきて、はいと俺に缶を渡す。学校でしょっちゅう飲んでるレモンスカッシュだ。

「……ここにもあったんだ」
「でも、学校より100円高いよ」
「えっ! そんなに? ここ、山の上だから?」
「遊園地だからでしょ。まあ、両方か」

 清良に「後で金返す」と言ったらいいよと言われた。最近しょっちゅうおごってもらってるなと思いながら、ありがたく受け取る。
 ぷしゅ、と音がしてプルタブを引き抜く。喉を滑り落ちる炭酸はうまい。清良はコーラを飲んでいた。

「あおちゃん、知ってる? コーラの素っていうか濃縮液が売っててさ、炭酸水で割ると家でもコーラが作れるんだよ。でも、全然美味しくないんだ」
「なんで? 売ってるのと一緒じゃないの?」
「炭酸の強さが全然違うんだよ。強炭酸水買って割っても、気が抜けたみたいになる」
「それは……やだな」
「きっと市販のはすっごく強い炭酸水が入ってるんだよ」
「強強強強強強……ぐらいの?」
「そう、強強強強強強強強……ぐらいの!」

 ぶはっと笑って、危うくむせそうになった。清良を睨むと笑いをこらえている。

「あ~~~、俺もその炭酸水みたいにつよつよになりたい!」
「十分強いじゃん」

(そうだろうか。苦手なやつにどこで会っても気にしないでいられるのを、強いって言うんじゃないのか?)
 
 俺は全然強くない。
 少しでも強さを分けてくれ~~と手にしたレモンスカッシュをごくごく飲んだ。