幼馴染が「お願い」って言うから


 着ぐるみショーの時間は30分。
 ショーの内容は、人気アニメのキャラクターたちが繰り広げるショートストーリーだ。

 アニメはもう十年以上続いている人気シリーズで、最初のシリーズのことはよく覚えている。
 主人公の世界にはオーブと呼ばれる金色の卵があちこちにある。このオーブから生まれた不思議な生き物を育て、最終的に世界を破滅させようとする魔王を協力して倒す。
 TV放映が始まったばかりの頃、俺は幼稚園生だった。毎週TVにかじりつき、主人公が新たなオーブを手に入れるたびに、今度はどんな生き物が生まれるのかとわくわくした。オーブの中の生き物は多種多様で特殊能力を持つ。すぐに好きなキャラができて、玩具(おもちゃ)をねだっては買ってもらった。でも、キャラクターショーに行った覚えはない。いつのまにかあの中には『人』が入っていると知り『本物』じゃないとがっかりしたからだ。

 開始時間の11時が近づくに連れて、どんどん観客が増えていく。
 ショーの行われる舞台の前には観客席があり、最前列には幼稚園から小学校低学年ぐらいの子どもたちが座っている。その後ろは親子連れ。俺たちのように高校生男子だけのグループなんて他には見当たらず、一番後ろの席に座った。

「あれ」

 同じぐらいの年のやつなんて誰もいないと思ったのに、一人だけいた。同じ最後列の端に、細身の男がぽつんと座っている。着ぐるみショーを一人で見に来るなんて、よっぽど好きなキャラがいるんだろうか。

 時間になると司会役の女性が現れて、会場に元気よく呼びかけた。
 キャラの耳付き帽子をかぶっている子が何人も手を挙げて答えている。登場を待つわくわくした雰囲気が伝わってきて、こっちまでそわそわしてしまう。
 すぐに有名なテーマソングが流れて、着ぐるみたちが舞台に現れた。わあっと大きな歓声が上がる。

「なっつ!」
「うわ! 可愛い」

 思わず息を呑んだ。主人公は人型だけれど、他の生き物キャラたちは大体二頭身だ。アニメから抜け出てきた姿そのままで、元気に手を振っている。

「どうやって中に入ってんだろ」
「全然継ぎ目が見えないね」

 俺の質問に清良も考え込んでいる。継ぎ目もそうだが、目だってどこから外を見ているのか全然わからない。頭身から言っても、俺の着たパンダのように目の位置がそのままのはずがないのに。
 着ぐるみ同好会の着ぐるみは結構しっかり作られていると思うが、レベルが違いすぎる。それは中に入っているアクターも同様だった。
 夏祭りの時とさして変わらない気温の中、彼らは走ったり、回ったり、敵と戦ったりした。最初は着ぐるみがどうなっているのかと考えていたことも忘れ、俺たちは目の前のショーに夢中になった。りんりんや加瀬の目がきらきら輝いている。30分はすぐに過ぎて、楽しんでいるうちに終わってしまった。もっと見たいぐらいだった。
 
「あ~~面白かった!」
「着ぐるみ着てあんなに動けるなんて、スーツアクターの体力すごすぎ」
「彼らは着ぐるみ着て動いてるだけじゃなくて、演技までしてるからね」

 そうだ、そこが全然違う。パンダを着て動いたただけでふらふらになった俺には想像もつかない世界だ。まあ、ハイキングに誘われたやつがプロの登山家は違うと言ってるようなものだろう。
 興奮は覚めず、すごいすごいと言いながら席を立つ。少し早めだが昼食にしようと、フードコートに行くことにした。

 歩きながらショーのアニメの話になり、好きだったキャラの名が次々に出る。
 清良たち三人は今日のショーにも出ていた人気キャラの名を出したが、俺はちょっと違う。主人公の身近にいるがあまり能力が高くない、まったりしたキャラが好きだった。残念ながら今日は出演していない。
 
「先輩はどのキャラが好きだったんですか?」
「えー、ちょっと地味なんだけどさ……」

 りんりんに答えようとした時だった。
 賑やかな声が聞こえて、いきなりドン! と背中に誰かがぶつかった。

「わっ」
「すみません!」

 振り返ると、背の高い男が目を見開いている。

「つき、みや?」
久木(ひさき)……」

 その名を呼ぶのはあまりに久しぶりで、呆然としてしまった。