幼馴染が「お願い」って言うから

 
 チャリは中高校生の足だ。田舎に住んでいたら、どこに行くにもチャリで行く。雨の日も風の日も眩しい陽射しが照り付ける日だって、チャリさえあれば目的の場所に行ける。このスカイサイクルだってこぎさえすれば必ずゴールに辿り着く。
 
 ……キコキコキコキコ。

 二人用のスカイサイクルは一人が足を止めても、もう一人が頑張れば進む。でも、二人で頑張ればその分早くなる。俺が力を入れてこげば、清良もそれに応えてくれる。
 
 ……キコキコキコキコキコ。

 ペダルが浮き上がりやすいのが難点だが、空回りをしないように気をつけて踏み込めばいい。そう、しっかり踏み込めばいいんだ。

 ……キコキコキコキ……

「――おっそぃぃいいい!!」

 現実は非情だった。
 ママチャリで走る時より余程力を込めているのに、キコキコ言う音ばかりが辺りに響く。

「す、進まない」
「進んでるよ、あおちゃん。だいぶ加瀬たちに近づいてきた」

 スカイサイクルは自走する者の能力によって速度が変わる。加瀬たちより俺たちの方がスピードが速く、確かに間の距離が縮まっている。
 レールは右にある山に沿って真っ直ぐに進み、左カーブで大きく折り返した後、再び直線になった。二番目の直線をぐんぐん進むと、一気に右前方の視界が開けた。

「ぅわ」
「すっご……」

 頭上にはどこまでも広がる空、そして眼下には一望できるフューチャーランド。観覧車や空中アトラクション、メリーゴーランドに動物園。まるで山の上から辺りを見下ろすように、レールが続く。

「全方向、高すぎて感覚がバグる」

 清良の言葉に頷いた時、びゅっと風が吹いて思わず声が出た。続いて風が吹くと、今度は清良がうわっと叫んだ。背中がぞくぞくして、手にじわっと汗をかく。

「これ、一人だったら怖すぎる。震えて前に進めなくなりそう」
「そうしたら後ろから来た人たちにガンガン押してもらうって聞いたことある」
「……マジか」

(自走しかないとはいえ、過酷過ぎないか?)

 直線だけでも怖いのに、さらに右側に円を描くような大きなカーブが続く。まるで空中に飛び出すような気分だ。背筋はぞくぞくしっぱなしで、必死でハンドルを握ってペダルをこいだ。少しペダルが軽くなったと思ったら、清良が俺よりもずっと真剣にこいでいる。さすが清良だと感心しているうちにカーブが終わり、最後の直線に入った。はるか前方にはゴールの乗車口が見え、終わりが見えるとやる気も増す。キコキコいう音が軽やかになり、一気に加瀬たちとの距離を詰めた。

「つ、着いた!」
 
 先に降りていた加瀬たちに合流すると、りんりんは涙目になっていた。あまりの高さに怖くて途中でこげなくなり、後半はほぼ加瀬が一人でこいでいたらしい。りんりんはひたすら加瀬に感謝していた。

「ありがとうございました。加瀬先輩のおかげで助かりました」
「いや、あれは怖いって」
「やっぱり俺とりんりんが分かれて正解だったな。ま、うちは二人で頑張ったけどな!」

 軽口を聞きながらぞろぞろ歩き始めると、清良が黙ったままなのに気づいた。

「清良?」
 
 どうかしたかと聞くと、何かぼそぼそ言っている。

「いや、あおちゃんがいて良かったなって」
「え?」
「……途中で、これまずいなって思ったけど、あおちゃんがいたから集中できた」
「それ、すごいカーブのとこ?」

 うん、と頷く姿に、あの時清良は怖かったんだとびっくりした。

「清良でも怖いことあるんだ」
「あるよ、たくさん」

 そんなの当たり前だろと言われて意外な気がする。清良はいつのまにか何でもできる奴になってしまって、怖いことや苦手なことなんかないような気がしていた。
 小さな頃は怖がりで何かあると俺と手を繋いでいたけど、今はそんな面影もない。
 
「あおちゃんは頼りになるんだ」
 
 やけにきっぱり清良が言う。スカイサイクルで言われてもなあ、と思ったが黙っておいた。俺に誉め言葉を言ってくれるのは、この幼馴染ぐらいのものだ。ありがたく受け取っておく。
 その後、下り坂の途中で飲み物を買い、俺たちは着ぐるみショーへと向かった。